大西 東先生、「尿酸値を診る」シリーズの一つのテーマとして、高尿酸血症と高血圧・動脈硬化についてお話をうかがいたいと思います。
まず高尿酸血症の有病率は最近かなり増えてきているのでしょうか。
東 ご指摘いただきましたように、高尿酸血症は、食事あるいは生活習慣の欧米化に伴ってかなり増えています。非常に興味深いデータがありまして、成人男性だと30%ぐらいの方が高尿酸血症です。女性の場合はとても特殊な状況になっていて、高尿酸血症の方は、閉経前の女性だと数%しかいません。しかも、そういう方はほとんどが腎障害による排泄障害での相対的な高尿酸血症です。これは機序がしっかりわかっていて、エストロゲンというホルモンが尿酸排泄に働いているので、閉経前の女性には高尿酸血症の方がほとんどいません。では閉経後は男性と同じように増えるのかというと、決してそうではなくて、高尿酸血症の頻度は数%です。これはもしかするとエストロゲンのレガシー効果によって、40年にわたって守ってくれているので、その効果ではないかと考えられています。
大西 このコロナ禍でも高尿酸血症の方が増えたと聞いているのですが、そういう実態はあるのでしょうか。
東 そうだと思います。食事の問題もあるでしょうし、もしかすると家でアルコールを多飲される方が増えたというのもあるかもしれないです。確実なデータはないのですが、先生に今ご指摘いただきましたように、高尿酸血症の方がこのコロナ禍で増えているのではないかと懸念されています。
大西 高尿酸血症は、高血圧とか糖尿病とか高脂血症、メタボリック症候群ですか、そういったものと合併することが多いといわれているのでしょうか。
東 ご指摘のとおりです。まさに生活習慣病である、メタボリック症候群をはじめ、高血圧、糖尿病、脂質異常症との合併が非常に多いことはよく知られています。
大西 高尿酸血症は心血管合併症のリスクファクターの一つと考えてよいのでしょうか。
東 これも臨床上たいへん重要な命題でして、ちょっと言葉が悪いですが、高尿酸血症は心血管イベント発症のリスクファクターとして限りなく黒に近い灰色だと思います。間違いなくそうだろうと思うのですが、なかなか十分なエビデンスが存在していないのが大きな問題です。心血管イベントの独立したリスクファクター、しかも強力なリスクファクターとして知られている高血圧、脂質異常症、糖尿病、あるいは肥満や喫煙と非常に強い相関があるので、多変量解析をしようとしたときに、尿酸値は、その強力なリスクファクターの交絡因子として落ちてしまうので、尿酸自体が実際に独立したリスクファクターとして心血管合併症を規定するのかは、明確なエビデンスが存在していません。繰り返しになりますが、間違いなく高尿酸血症は限りなく黒に近い灰色で、心血管イベントのリスクファクターと考えてよいかと思います。
大西 高尿酸血症をはじめ、糖尿病や高血圧、様々な病気が先ほど取り上げられましたが、この背景には血管内皮の機能の障害があるのでしょうか。
東 手前みそですが、私は血管内皮機能、血管を専門としています。皆様ご存じのように、血管内皮というのは、これまた非常にざっくりとした言い方になるのですが、動脈硬化のイニシャルステップ、第一段階です。いわゆる冠危険因子というものがベースにあって、次の段階で、正確には様々な遺伝子とか転写因子が動いて血管内皮機能障害が起こるのですが、その第一段階としての血管内皮機能障害が存在していて、最終的に心血管合併症の発症に至るまで、血管内皮というのはとても重要な働きをしていることは完全にコンセンサスが得られています。高尿酸血症もこの血管内皮機能を障害するリスクファクターであることが報告されています。
大西 高尿酸血症から心血管障害に至るメカニズムというのはどのように考えられているのでしょうか。
東 これもなかなかしっかりしたメカニズムはわかっていません。しっかりしたものはないというのは、言いようが悪いのですが、とてもざっくりですが、血管内皮機能障害が起こってきて進展するのは、間違いなく酸化ストレスと炎症になります。尿酸というのは、酸化ストレスと炎症に非常に重要な働きをしている。一方、尿酸は抗酸化物質でもあることが知られています。ただ、尿酸の濃度によって抗酸化物質として働いているのか、動脈硬化促進に働いているのか、非常に説明が難しい玉虫色ではありますが、6㎎/dLを超えるような尿酸が内皮障害、その内皮障害を起こすメカニズムは酸化ストレスと炎症と考えてよいかと思います。
大西 尿酸値を下げると血管内皮の障害等は改善されることもありうるのでしょうか。
東 尿酸値を下げるときには、キサンチンオキシデース阻害薬、あるいは尿酸排泄促進薬を使っていると思います。どちらの薬も、すべてポジティブデータではありませんが、尿酸値を下げることによって血管内皮機能を改善するという報告は非常に多くあります。繰り返しになりますが、すべてではなくて、報告によっては、尿酸値を下げれば血管内皮機能を悪化させるという報告はありませんが、なかなか改善が見られないという報告もあります。
大西 健康な人においても尿酸値と血管内皮機能は、何らかの関連はあるのでしょうか。
東 間違いなくあります。ただ、多変量解析をすると消えてしまったりすることはあります。健常人というのは、もともと血管内皮機能がリスクを持っている人に比べていいですが、尿酸値が上がり、特に濃度が6㎎/dLを超えてくると、尿酸値が上昇するに従って血管内皮機能が悪化するということもわかっています。
大西 高尿酸血症の方がかなり増えてきているというお話をいただきましたが、現場では若い方もけっこういらっしゃいますよね。
そういう方は若いときから尿酸値を下げるような方策をいろいろ取っていったほうがいいということなのでしょうか。
東 そう思います。極端な話、痛風発作でも起こさない限りは痛くもかゆくもありません。健診で「あなたは尿酸値が高いですよ」と言われても、受診機会がなかったり、受診されなかったりだと思います。将来のことを考えていけば、人生100年時代になってきますから、尿酸も心血管イベント発症のリスクファクターだと考えるべきだと思います。ガイドライン等もあります。どういうかたちで尿酸に介入するか、尿酸値や、あるいは生活習慣の合併によって尿酸値で治療の判断、生活習慣の改善がまず必要ですが、どの段階で薬物治療へ移行するかという値が決められています。ぜひとも一度、高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインを見ていただければと思います。生活習慣の改善は、薬を使う使わないにかかわらず必要です。
大西 心血管イベントのお話が先ほどありましたが、それにはいろいろなリスクファクターが絡んでいると思います。その中で高尿酸血症の位置づけというのはどのように理解したらよいでしょうか。
東 私たちが知っている冠危険因子である血圧、LDLコレステロールの値、血糖値、喫煙、肥満は非常に強いリスクファクターです。尿酸をその中に入れて解析すると、心血管イベント発症の独立した危険因子であるかどうかがわからなくなってしまいますが、それらのリスクファクターにさらに高尿酸血症が存在すれば、さらに心血管イベント発症のリスクが上昇すると考えてよいかと思います。コホート試験、あるいは介入試験を大規模な1万人とか10万人でできればいいのですが、純粋な高尿酸血症の人だけを集めるのはほぼ不可能です。私たちはこれまでのいろいろな傍証データから高尿酸血症の危険性、心血管イベント発症の危険性をとらえていくべきであろうと考えています。
大西 今の状況ですと、おそらく高尿酸血症の人は今後ますます増えてくるのだと思うのですが。
東 そう思います。
大西 高尿酸血症は心血管イベントのリスクファクターという認識が少なかったような気もしますが、そのあたりの認識が必要だということですか。
東 まさにご指摘されたように、今後、高尿酸血症を心血管病のリスクとしてとらえる。これまでは、痛風のリスクファクターとして考え、痛風を起こさないようにしていました。もちろん痛風を起こさないのはとても重要なことですが、心血管イベント、あるいは突然死などのリスクファクターの可能性が指摘されているのですから、そういう側面からも高尿酸血症をとらえながら、私たちは今後、診療をしていくべきだろうと考えています。
大西 どうもありがとうございました。
尿酸値を診る(Ⅲ)
高尿酸血症と高血圧・動脈硬化
広島大学病院未来医療センターセンター長・教授
東 幸仁 先生
(聞き手大西 真先生)