池田 河島先生、乳幼児のRSウイルス感染症についての質問です。新型コロナウイルスの流行で感染症のいろいろな原因ウイルスとか、従来とは違うような感染を示しているというのですが、疫学的にここ数年のRSウイルス感染症はどのようになっているのでしょうか。
河島 RSウイルスは非常に感染率の高いウイルスで、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の子どもがRSウイルスの初感染をします。わが国では小児を中心に毎年2万人以上の方が入院になると推測されています。
感染症発生動向調査の5類感染症で、全国約3,000施設の小児科で定点観測しています。2018年、2019年はいずれも秋から冬にかけて報告数のピークが見られましたが、2020年のコロナの流行時には全く流行がありませんでした。しかし、2020年の秋ぐらいから増加し始め、2021年の第2週から28週まで報告数は急激に増加し、過去3年間にない感染者数が報告されました(図)。その中で感染者は倍近くありましたが、年齢比較を見ますと、一般にこのウイルスは1歳以下が最も多いのが通年の流行ですが、2021年は2歳、3歳、4歳以上の感染者が多くなりました。これはコロナの影響によることがわかっており、世界的にも同じような現象が起きています。
池田 2年分まとめてかかっているという感じですか。
河島 はい。この病気は1歳以下で重症になることが非常に多いのですが、その分、重症になる患者さんの割合は減っていました。
池田 感染者が1歳ではなくて2歳以上だったので重症者が減ったという感じですね。
河島 はい。
池田 それはそれでよかったのかもしれませんね。
症状、経過、診断はどうするのでしょうか。
河島 RSウイルスは初感染の場合、発熱や鼻汁などの上気道の症状が起こります。うち2~3割で気管支炎、肺炎などの下気道の症状が起きます。初感染では1~3%が重症化し、入院治療を要するとされています。実際、乳幼児の肺炎の約半分、細気管支炎の約5~9割がこのウイルスによるとされています。ただ、このウイルスの特徴として、早産の新生児や2歳以下の免疫不全や心疾患、あるいは肺に慢性疾患を持つ患者さん、染色体異常を持つ患者さんでは重症化しやすい傾向があります。
池田 最近の新型コロナウイルスですとPCRで診断されていますが、診断はどのようにされるのでしょうか。
河島 このウイルスの診断には迅速検査キットがあります。免疫クロマト法というもので、10分以内に鼻汁を用いて検出することができます。感度はPCRとほぼ同等で、迅速キットが陽性であればほぼ100%診断していいと考えられます。
池田 次に気になるのは治療法ですが、先ほど早産児や呼吸器、心疾患などを持った方は重症化するということでした。一般的な治療法と、このようなお子さんに対する治療法には、どのようなものがあるのでしょうか。
河島 重症化した場合は酸素が必要になったり、補液や呼吸器管理が必要になることがあります。このウイルスに特異的な治療法というものはありません。そのため、気管支炎、細気管支炎、肺炎に対しては、補液、気道分泌物の除去、去痰剤の投与、適切な体位、加湿された酸素を投与するといった対症療法が基本になります。特に基礎疾患を持っている患者さんでは人工換気など集中治療が必要になる傾向があります。
池田 ウイルスにかからないようにする方法があるとうかがったのですが。
河島 重症化する可能性が高いのが先天性の心疾患や肺疾患、あるいは染色体異常、免疫不全の患者さんだとわかっていますので、抗体療法、ヒト化したRSウイルスに対する抗体のパリビズマブの予防投与が保険適用になっています。月に1回投与ですが、2回以上打っていないと予防効果がないため、流行する前から打ち始めます。受動免疫になりますが、それを行い流行期間中は予防することになります。
池田 例えば、通常ですと冬場に感染が増えてくるので、だいたい10月ぐらいからですか。
河島 地域によって違いますが、例年は9月から打ち始めていますが、流行がだんだん前倒しになってきました。夏にも流行を起こしたりすることもあるので、地域ごとでの実情に合わせ、打ち始めています。
池田 パリビズマブの保険適用はどうなっているのでしょうか。
河島 保険適用は28週以下の早産で生まれた子、また29~35週での6カ月以下の早産の子、慢性肺疾患や先天性の心疾患で血流動態に異常のある子では2歳まで、また免疫不全、ダウン症でも2歳までは保険適用があります。
池田 2歳までですね。ということは、今年だと6月からということですが、月1回で、何回ぐらいまで認められているのですか。
河島 6回までが一般に保険適用になっています。
池田 6月からいくと12月。そこで終わってまた翌年になるのですね。人によっては過剰に反応する方もいますか。
河島 パリビズマブで何らかの副作用というのはほとんど報告がないです。
池田 重症になる懸念が強い方は、場合によっては2歳以上になっても自費でやることもあるのでしょうか。
河島 染色体異常を持って、心疾患があって、どうしてもという希望の方は打っている方もいると思います。
池田 やはり何歳になっても心配でしょうね。
河島 2歳までが非常に重篤で、年長になるとRSウイルスは軽症化することが多いので、あえてそこまでの必要はないと思います。
池田 やはり気になるところは、どうやって感染予防するのかですが。
河島 このウイルスは飛沫感染と接触感染で起こります。非常に感染力が強いので、スタンダード・プレコーション、標準的な予防策をしっかりとするのが基本になっています。手洗い、マスクが基本になりますが、特にこのウイルス自体が小さい子だけでなく高齢の方でも感染を起こして重篤になることも知られていますので、そういう方が家族にいる場合、感染が流行している時期は標準的な予防策をしっかり家庭でもやっていただく必要があると思います。
池田 小さいお子さんでマスク、手洗いは難しいでしょうか。
河島 もしRSウイルスのお子さんがいて、弟妹で小さい赤ちゃんがいる場合は部屋を別にするとか、接触しないようにしていただくのがいいと思います。
池田 コロナと同じような対策が基本ということですね。それから、ワクチンについては今開発中なのでしょうか。
河島 本来だと2021年からWHOは世界でこのRSウイルスに対する妊娠中に接種するワクチンを開始する予定になっていましたが、このコロナ禍で延期になっています。一方で、コロナの影響でいろいろな剤形のワクチンが開発されました。これらも治験が始まっており、数年以内に実用化されると思います。
池田 今までの新型コロナウイルスのワクチンの開発を見ますと、弱毒化したり、不活化したり、それからmRNAとかありますね。今、RSウイルスに対するワクチンはmRNAに移っているのでしょうか。
河島 mRNAだけではなく、不活化も何種類か開発されてきています。
池田 以前うかがったときは、まず母親にワクチンを投与ということでしたが。
河島 2021年には受動免疫で、母親を免疫することで、Fというウイルスの表面蛋白にて免疫する方法が考えられていましたが、今後は違うものに変わってくる可能性があります。コンポーネントワクチンのいろいろなものが開発されてくると思います。
池田 新型コロナウイルスワクチンの開発によって新しい種類のワクチンもできつつあるということですね。
河島 はい。
池田 具体的にいつ頃なのでしょうか。
河島 今、Ⅰ相からⅡ相が始まっているところなので、3年ぐらいかかるのではないでしょうか。
池田 2024年か25年ぐらいですね。
河島 はい。
池田 そうなると流行もある程度抑えられるので、重症化する人たちも少し安心できるということでしょうか。
河島 はい。
池田 どうもありがとうございました。
乳幼児のRSウイルス感染症
東京医科大学小児科・思春期科主任教授
河島 尚志 先生
(聞き手池田 志斈先生)
乳幼児のRSウイルス感染症についてご教示ください。
1)疫学
2)主な症状の経過と診断
3)治療法
4)感染予防
埼玉県開業医