ドクターサロン

 池脇 新型コロナウイルスのワクチンに関して具体的な質問をいただいています。プレドニゾロン8㎎に限らずに、いろいろな免疫抑制剤を内服している方は多く、そういった方に対してのワクチンの効果について先生にお聞きしたいと思います。日本もワクチン接種が進んできています。海外もそうですが、そういった方に対するワクチンの効果に関してデータは出ているのでしょうか。
 宮入 免疫抑制状態にある患者さんには、いろいろな方がいらっしゃいます。化学療法を受けていたり、リウマチ性疾患に対して免疫抑制剤、ステロイド、抗体製剤を使っている患者さんから、原発性免疫不全症まで、様々な原因がありますが、総じて、免疫抑制状態にあるとワクチンの効果は減弱します。これは新型コロナ以前もわかっていたことです。今回のmRNAワクチンを主体とした新型コロナワクチンに関しても効果は劣りますが、感染防止効果については7~8割ぐらいあるといわれています。
 池脇 感染防止、当然重症化の予防の効果もあると考えてよいのですね。
 宮入 そうですね。感染防止効果、および入院する割合、あるいは死亡抑制効果についても一部データがそろってきています。
 池脇 免疫抑制剤を内服されている方は、がんを含めて、新型コロナで重症化しやすい患者さんですから、ワクチンの優先順位が高い人たちですよね。
 宮入 そうですね。これもたくさんデータがありまして、米国の疾病管理局、CDCではエビデンスをまとめていて、疾患ごとの情報が得られています。例えば、がんの患者などに関しては初期の段階で多くの患者データをまとめたメタ解析を分析して、死亡率がかなり高くなっていることがわかったり、ステロイド薬などを使っている患者さんについても、リスクが高いことがわかっています。
 池脇 この新型コロナワクチンだけではなく、今までも幾つかのワクチンがあって、そういうワクチンに対しても同じように免疫抑制剤を内服している方のワクチンの効果は考えられてもよかったようにも思うのですが、新型コロナウイルスがそのあたりをある程度明確にせざるをえないぐらいのインパクトがあったということなのでしょうか。
 宮入 そうですね。2014年に米国の感染症学会で、数十年かけて蓄積されたデータをもとに、免疫抑制状態にある患者さんに対するワクチンのガイドラインを作っています。その根拠になっているエビデンスはかなりまちまちですが、今回、コロナ禍でわずか1年半余りでそれに匹敵するぐらいのデータが集まりつつあります。みな力を合わせるとこれぐらいのことができるのだということですね。
 池脇 ちなみに、そういうデータは海外が主流なのでしょうか。日本国内のデータもあるのでしょうか。
 宮入 日本国内からもエビデンスの発信はありますが、新型コロナワクチンについては海外のものが中心になっています。
 池脇 先生は小児科を中心にして診療されていますが、質問のプレドニゾロンという言葉を聞きますと、膠原病疾患、ということは成人、場合によっては高齢者でプレドニゾロンをのんでいる人が、この新型コロナワクチンでどの程度の効果があるかというのは、担当医も患者さんも迷われているのではないかと思います。基本的にはそういう方にも積極的にワクチンを接種していると考えてよいのですか。
 宮入 総じて言えば、基礎疾患のある方は重症化しやすいことがいえます。あとは効果と副反応をふまえた総合的な判断になります。効果については、先ほど言いましたとおり、免疫抑制剤の種類によっても違いますが、全般的には7~8割の感染防止効果があります。副反応に関しては、実際に免疫抑制剤を使っている患者さんについては、局所の反応や発熱の頻度は低いことが知られています。これは免疫を抑えた結果だと思われます。
 あと気になるのは、例えばリウマチ性疾患や膠原病などについてはワクチンがきっかけでもともとの病気が悪くなるのではないかということです。報告されている中では、投与して悪くなる人もいるようですが、もともとの再燃率を考慮する必要があります。ワクチンを打ったときと打っていないときで、再燃率はあまり変わらないようです。副反応についても特別な配慮は必要がなく、原則として打ったほうがいいと考えられます。
 池脇 変な言い方かもしれませんが、免疫が抑制されている患者さんにワクチンを打っても、そんなに重大な副反応は出ないでしょう。若干効果が落ちるかもしれないけれども、今までのデータを見ると、あまり医学的な表現ではありませんが、そこそこの効果が期待できるということでしたら、多分患者さんは「だったら打とうか」という方向になりそうな気がしますが、どうでしょう。
 宮入 おっしゃるとおりかと思います。総合的に考えて、打った場合と打たなかった場合、リウマチ性疾患の患者さんでどうだったかという報告もちらほら出ています。やはり打ったほうが入院する割合や死亡する割合が低いようです。すると総合的に見て接種したほうがいいのではないかと思います。
 池脇 話を最初に戻しますと、特に免疫抑制剤のステロイドが注目されていますけれども、様々な免疫抑制剤、今日のものですと、抗がん剤とか生物学的製剤、そういったことで免疫能が低下している人に対してのワクチンの効果ですが、基本的には薬の種類によって何か状況が違うのか、だいたい総じて同じなのか、どうなのでしょうか。
 宮入 これについても分析、解析がされていて、減弱しやすいものとしてステロイドが挙がっています。ほかのものについては、報告によってまちまちです。単剤で使用する場合は少なく、複数の薬剤を使っていることが多いので、どの薬剤の効果なのかがわかりにくい状態にあります。いろいろな解析をしていくと、メソトレキセートやTNFαの阻害薬はあまり抗体の陽転化率に影響しないようです。多くの場合はワクチンの免疫を抗体で見ていくのですが、リツキシマブのように抗体を産生するB細胞を枯渇させる薬剤は当然ながらリツキシマブを打ってから半年ないし1年ぐらいたっても抗体産生能は劣ります。
 池脇 リツキシマブはたしか注射薬ですよね。それを打っている患者さんの場合は、タイミングを考えてワクチンを打つとか、多少の工夫ができそうな気がするのですが、そういうことは行われているのでしょうか。
 宮入 たいがいは打ってから待たないといけない期間が長いので、問題になるのですが、体の中の免疫というのは抗体だけではなくて細胞性免疫もあります。リツキシマブを接種した患者さんの新型コロナウイルスに対する細胞性免疫能を検討すると、実は健常人よりも高くなっている、活性化していることが最近報告されています。それが免疫獲得にどれぐらい寄与するのかはわかっていないのですが、抗体だけではなく、このような効果も期待できますので、打てるタイミングで打っていくことも必要です。場合によってはB細胞が戻ってきた後に3回目の接種をすることも考慮されると思います。
 池脇 特殊な製剤を除いて、一般的に免疫抑制剤をのんでいても基本的にワクチンを接種することによってそれなりの効果が得られるという理解でよいですか。
 宮入 基本的にそう思います。ただ、どうしても効果が薄い人というのはいます。非常に高度な免疫抑制状態にある人、例えば心臓や腎臓の移植をした、免疫抑制剤や抗体製剤を3剤、4剤のんでいるような方に関してはワクチンの効果をそれほど期待できないので、打っていけないというわけではありませんが、打って、それに頼るのではなくて、感染防止対策を充実していただきたいと思います。
 池脇 免疫抑制剤服用の患者さんの場合には、ワクチンと、自ら感染予防を重視するということがわかりました。ありがとうございました。