山内 今回の質問は、運転することで血圧が高くなるのかということと、もう一つは運転するときの運転手の血圧管理の問題の2つで構成されていますので、順番にお聞きいたします。まず運転中ないし運転直後ですが、血圧はやはり上がっていると考えてよいのでしょうか。
加藤 幾つかの論文を見ますと、運転中の血圧は上昇傾向はあるものの、あまりひどい上昇というような内容はなくて、通常の運転の範囲では安定している傾向があるという報告が多いようです。ただ、交感神経活性を調べたような論文を見ますと、運転中のストレスはかなりあって、心拍数も上がって、それに伴って狭心症発作を起こしたというような報告もあるようです。それほどひどくはないけれども、血圧はやや上昇傾向。ストレスがあって、心拍数は上がる傾向が多いという報告が全般的な結果でした。
山内 イメージからいきますと、例えば運転に不慣れな方が普段通っていない首都高のようなところに入ってしまうと、緊張で血圧が上がるような印象がありますが、むしろ心拍数のほうが上がると考えてよいのでしょうか。
加藤 心拍数のほうが変動傾向は多いようでしたが、心拍数だけではなく、交感神経活性が上がってしまうこと自体が狭心症発作と関係があったのかと思います。血圧の上昇傾向はありますが、すごく上がってくるというわけではないようでした。先生がおっしゃるように、確かに不慣れな状況、あるいは論文では、交通渋滞で待っているようなイライラ感や、怒りがこみ上げてくるような状況があると血圧が上がり、それと一緒に交感神経活性も上がっているという報告がありました。
山内 意外に血圧は安定しているというのが今のところの結果のようですね。
長時間運転に関してはあまり血圧上昇の報告はないのでしょうか。
加藤 論文では自宅あるいは職場から病院までを連続で血圧測定したというものでしたので、せいぜい数時間の範囲内かと思います。旅行のような長時間の結果というのは私が調べた限りでは見つけられませんでした。
山内 もう一つ、昨今話題になっている高齢者の運転ですね。高齢者はもともと血圧が高めの方が多いですが、こういった方々はさらに高くなるという報告もあまりないのでしょうか。
加藤 若年者と高齢者での比較は見つけられなかったのですが、75歳以上と75歳未満では降圧の目標値が違いますし、様々な合併症がある方とない方でも降圧の目標値が変わってきますので、それらの数字は考慮する必要があるかと思います(表1)。
山内 実際としては、心拍数が上がってくることによるトラブルがあるかもしれないけれども、高血圧は意外になさそうだということですね。
加藤 そうですね。確かに質問のように全般的には上昇傾向があるようですが、ひどく上がっているわけではありません。通常の軽労作、どのような運動もそうだと思うのですが、エルゴメーターでの血圧の変動と労作での変動との比較のようなものはありました。だいたい似たような変動パターンを示しているようでした。
山内 次に運転者の血圧管理に関してですが、運転者の血圧管理目標は高血圧学会のガイドラインなども特別示していないのでしょうか。
加藤 そうですね。運転されている方だけ特別にこの数字というのはないですし、現状では運動時の目標血圧値というのは、まだ一定の見解がないと思います。ガイドラインでは安静時の血圧を目標としていますので、血圧を測定するにあたって注意しなければいけないことはあると思います。高血圧ガイドラインで記載されている内容ですと、静かで適当な室温の環境、背もたれつきの椅子に座って、足を組まずに数分の安静後に測る、会話をしない、喫煙・飲酒・カフェインを摂取しない、1~2分の間隔を置いて2回は測定してみるなどの規定があります。それを守って安静時血圧を測るのが、現状ではしっかりとしたエビデンスのある内容になるかと思います(表2)。
山内 それに関してですが、例えば病院に来られてすぐに血圧を測る方がよくいます。こういった方々は今言った安静条件下に比べて少し上がっていると見てよいのですね。
加藤 そうなのです。どうしても運動時あるいは労作時の血圧を測ってしまうと、本来の目標値とはずれてしまうことがあると思います。
山内 運動時の目標値がないというのは、現時点ではなかなか検査が難しいことも考えられるのでしょうか。
加藤 有名な例では白衣高血圧があります。診察室でだけ血圧が高くて、家庭では高くない。あるいは、そのちょうど逆の仮面高血圧という方もいるので、このような方を判別するためには24時間の血圧計を使用するのが有用だと考えられています。
山内 そのあたりのデータは今後出てくると考えてよいのでしょうか。
加藤 そうですね。
山内 もう一つは職業ドライバーの問題がありますね。トラック、バス、タクシーの運転手の方々の血圧管理は厳格にすべきか、いかがでしょうか。
加藤 職業ドライバーに関して特別規定されたものはないと思いますが、どうしても職業ドライバーの方は不規則な生活であったり、運動習慣があまりない方が多いかもしれませんし、喫煙習慣を有している方もいるかもしれません。そのような場合には、生活環境を是正していただくことが必要かと思います。
山内 喫煙とか運動不足には注意しましょうということですね。
加藤 そうですね。
山内 ちなみに、こういった職業ドライバーの方は血圧に関しての特別注意事項はないとして、頻脈に関してはいかがでしょうか。
加藤 突然死を防ぐために除細動器が入っているような患者さんや不整脈で失神してしまう患者さんは道路交通法で学会のガイドラインに従うように決められています。残念ながら職業ドライバーで除細動器が入っている方は二種免許を取ることはできないことになっています。また、二種免許でない方でも、実際に除細動器が作動してしまったり、除細動器が入った方は、一定の期間は運転ができないことが学会のガイドラインでも規定されています。この辺はしっかりと法律で決められている内容ということがいえるかと思います(表3)。
山内 不整脈に関してですが、失神歴があるというところがポイントと考えてよいでしょうか。
加藤 そうですね。ただし、失神した方でも、それが治療によって完全に是正されている場合には運転が許可されます。有名な例ですと、不整脈で、特に徐脈で失神したけれども、ペースメーカーが入って治っているので、その方の場合には運転が可能であるといえると思いますし、このような方は二種免許も取ることができると思います。
山内 ありがとうございました。
自動車運転者の血圧管理
埼玉医科大学国際医療センター心臓内科・不整脈科教授
加藤 律史 先生
(聞き手山内 俊一先生)
自動車運転中~直後の血圧に関するエビデンスはあるのでしょうか。経験的に運転直後に診察室に入った患者さんは、待合室で30分程度待機した患者さんに比べて収縮期圧で10~20㎜Hg程度高いように思います。基礎疾患や合併症の有無にもよりますが、運転者の血圧管理は非運転者よりも厳格にすべきでしょうか。ご教示ください。
長野県開業医