ドクターサロン

大西

高尿酸血症と脂肪肝、NASH/NAFLDというテーマでうかがいます。

先生は脂肪肝やNASHの研究を精力的に行っていらっしゃいますが、脂肪肝、NASH、NAFLDの概念を厳密にどのように定義したらいいのか、なかなかわからない場合もあります。NASHとはどういうものか、NAFLDとはどういうものか、そのあたりからお話しいただけますか。

米田

まず、従来お酒を飲まない方の脂肪肝というのは肝硬変に進行することはない、良性の病気だと認知されていたのですが、そこに異を唱え始めたのがアメリカのメイヨークリニックのLudwig先生です。Ludwig先生は病理医で、お酒を飲まない方の脂肪肝で肝硬変になった症例を20症例まとめて報告しました。お酒を飲まないというのを強調して「非アルコール性」、脂肪肝に肝炎を合併するということで非アルコール性脂肪肝炎、non-alcoholic steatohepatitis、NASHという疾患概念を報告しました。

当時はこの学説はあまり受け入れられなかったのですが、1998年にアメリカのNIHが原因不明の肝硬変の原因を調べたところ、ほとんどが肥満だったり、脂肪肝からきているということで、このNASHという概念、疾患の重要性を再認識して今に至ります。

現在、ウイルス性肝疾患は新薬によってほとんど治る病気になっています。それに比べて、生活習慣病と密接に関わるNASH、もしくはもう少し広い概念でお酒が関わりが少ない脂肪肝全般をNAFLDといいますが、NAFLDは成人人口の25%にも達しています。4人に1人がこのNAFLDであり、NAFLDの方の1~2割ぐらいの方が線維化が進行して肝硬変に移行するNASHだといわれています。

大西

ウイルス性肝炎というのはかなり減ってきて、脂肪肝やNASHから肝臓がんなどが増えてきているのでしょうか。

米田

最近の日本の調べだと、非B非C型という、ウイルスが関わらない肝臓がんの患者さんは32.5%に達しています。なので、肝臓がんの人の中で、肝炎ウイルスが全く関与しないという方が年々増えてきています。

大西

NASHは臨床の現場でどのように診断しているのですか。

米田

NASHの診断は肝生検をして、それを病理検体で判定するのが正式な診断法ですが、NAFLDの患者さんがだいたい日本で2,000万人、NASHの患者さんも300万~400万人存在すると推定されているので、全員に肝生検をするのは難しいと思います。そのため、肝炎ウイルスがなくて、肝障害を起こす薬剤やアルコールがない、そのうえで脂肪肝を呈している患者さんは全部まとめてNAFLDであると診断し、その中で線維化の進行が臨床的に疑われる方はNASHと診断しています。

大西

先生方は超音波のフィブロスキャンなど、いろいろなモダリティで定量されていると思いますが、そういった画像診断とか定量的な手段を駆使されて診断をつけるのでしょうか。

米田

最近開発されたフィブロスキャンをはじめ、肝臓の硬さを評価できる機械は非常に信頼度が高いものです。ただ、日本でフィブロスキャン自体がまだ200~300台の普及台数なので、すべての患者さんにフィブロスキャンを評価するのはやはり難しいと思います。そのために、例えば採血データでトランスアミナーゼの変化、もしくは血小板の数などから推定して、線維化が進行しているかどうかをまず推測することが重要だと思っています。

大西

肝機能検査で少し高いのは要注意ということなのでしょうか。

米田

おっしゃるとおりだと思います。

大西

どのあたりが気をつけなければいけないレベルなのでしょうか。

米田

純粋にAST、ALTだけで見ると肝臓病態の評価をするのは難しいと思いますが、そこに血小板を加えたりすると肝臓の線維化の進行度を評価することができると思います。

大西

NAFLDと高尿酸血症の関連についてうかがいます。NAFLDの病状と高尿酸血症は関連しているのでしょうか。

米田

正式に高尿酸血症とNAFLDの関係を調べた研究というのはまだまだ少ないと思います。ただ、動物実験では尿酸値と肝臓の病態は密接に関係していることが報告されています。また、アジアからの報告ですが、尿酸値の数値と肝臓の線維化の指標が密接に関わっていることが報告されています。

大西

先ほどお話があったフィブロスキャンでよく線維化の程度をステージングしたりしますよね。そういうものと実際の尿酸値の高い値は、相関しているケースが多いのでしょうか。

米田

相関しているケースが多いと思います。ただ、肝硬変まで進展しすと逆に尿酸値は下がってしまいます。尿酸値の高さは肝硬変に至るまでは、密接に線維化と相関していると考えられています。

大西

高尿酸血症の患者さんというのはやはりNAFLD、NASHに進展する可能性は高いと考えてよいのでしょうか。

米田

高尿酸血症の患者さんをフォローアップしますと、NASH、NAFLDに進展する方が多いといわれています。だいたい尿酸値の値が1増えるとNAFLDに将来なる確率が21%上昇するというのが研究データで報告されています。

大西

メタボリックシンドロームには肥満があったり、高脂血症があったり、糖尿病があったり、高尿酸血症があったり、関連していますよね。その中で高尿酸血症の因子も関係しているということは、いろいろなデータからそのように考えてもよいのでしょうか。

米田

メタボリックシンドロームの診断基準としては尿酸値が含まれていません。ただ、尿酸値はインスリン抵抗性、中性脂肪と密接に関わっていて、例えば尿酸値が高い人は2型糖尿病を発症しやすい、脂肪肝を発症しやすい、心筋梗塞を発症しやすいみたいなかたちで、サロゲートマーカーとしても有用であるといわれています。

大西

高尿酸血症の治療、あるいはNAFLDの治療の話をうかがいたいのですが、高尿酸血症の治療によってNASHとかNAFLDの進展をある程度防げるというデータはあるのでしょうか。

米田

高尿酸血症の治療としては大きく分けて2つで、非薬物療法と薬物療法に分けられると思います。非薬物療法としては、例えば地中海ダイエットに代表されるような食事療法、もしくはコーヒーなどは尿酸値を下げる、それと同時に脂肪肝を改善させるといわれています。薬物療法としては、尿酸値を直接下げる薬剤としてアロプリノールなども有名ですが、その他スタチン類(アトルバスタチン)やARBなどは尿酸値を下げることが報告されています。アトルバスタチンやロサルタンは脂肪肝を改善させる効果もありますし、参考までに抗糖尿病薬の中で最近積極的に使われているSGLT2阻害薬なども尿酸値を下げる、そして脂肪肝を改善する効果があるといわれています。

大西

先ほどお話がありましたが、NAFLDの死因は心血管イベントが多いのでしょうか。

米田

そうですね。世界中のデータでもNAFLDの患者さんの死因の一番多くは心血管イベントであり、約40%の方が心血管イベントが原因で亡くなるといわれています。

大西

いわゆる肝臓がんだけではなくて、こういった点も死因になるのですね。そういったイベントも高尿酸血症の治療でそのリスクを低下させることはできるのでしょうか。

米田

数多くのデータのサブ解析から、尿酸値のコントロールが心血管イベントを抑制した可能性が高いというデータが数多く報告されています。

大西

日本人も高尿酸血症の方が随分増えていると聞いているのですが、特にコロナによってだいぶ増えているそうです。今後はこのあたりを随分認識していかなければいけないということでしょうか。

米田

無症候性の高尿酸血症を治療するかしないかは、海外のガイドラインと日本のガイドラインではかなり違いが見られるように思います。海外では高尿酸血症の患者さんも痛風が頻回に起こるのでなければあまり積極的に治療しないという方針ですが、日本ではどちらかというと無症候性の段階から尿酸値が高いときには心臓とか腎臓を守る意味でも治療介入をする医師が増えてきていると思います。

大西

どうもありがとうございました。