池田
東先生、爪の色が変わったという質問ですが、どのような疾患が疑われますか。
東
まず爪に色がつく原因ですが、一つは外部からの着色があります。代表的なものはマニキュアです。それから、爪母にはメラノサイトがありますので、その活性化による着色もあります。例えばアジソン病のようなものや体外から投与された物質、例えばヒ素などがあります。
池田
ヒ素ですか。
東
ただ、こういう場合には手の爪だけではなくて、足の爪にも全部色がつくのです。手の爪だけですから、そういうものでは多分ないと思います。
次に、外部から投与された薬剤による着色もあります。例えば、抗がん剤で色がつくことがありますし、ミノサイクリンなどは非常に有名ですが、全身的な影響による着色は全部、手の爪と同時に、足の爪にも色がつくことになります。
それから、質問では全部の爪のような気がするのですが、一部の爪に色がつくということになると、例えば緑色ですと緑膿菌の感染で起こりますし、プロテウス・ミラビリスという菌で黒くなることもあります。それから、白癬菌の一部にはメラニンを産生する菌があり、感染した爪が黒くなることもあります。ただし、これは数本の爪にしかこういうことは起こりません。感染症ですから、全部の爪が侵されるというのはめったにありません。
そのほか色がつく原因としては、形ですね。びまん性か線状かわかりませんが、例えば線状ですと、爪に母斑があって、縦の黒い線が出るものもあります。こういうものは思春期から始まると、場合によったら悪性黒色腫の始まりであることも考えておかなければなりません。また、爪母に炎症が及ぶと色がつくので、爪の周囲の湿疹が長く続いて多数の爪に黒い線が出る場合もあります。
それから、例えば爪のカンジダ症などでも濃い褐色がよくつきますし、爪白癬でも途中から黒い筋が入ってくることがよくあります。こういう炎症による色素沈着は原因がなくなって3年ぐらいたたないと、全部消えることはありません。このように色のつく原因としては幾つかありますが、上肢の爪だけとなると、かなり原因は限定されるような気がするのです。
池田
どのような疾患、状態が考えられますか。
東
上肢の爪だけというと、先ほど挙げたような薬物、全身的な疾患によるものは必ず手足全部に起こるので除外されます。アジソン病などは色がつくので有名ですが、近年ほとんどないので、こういう病気も除外できます。
手だけですから、先ほど言いました手の周囲に湿疹がずっと続いていて、色がついてきたという可能性もなきにしもあらずです。しかし、こういう場合はびまん性ではなく、たいてい縦の線状にぱらぱらと色がつくので、ちょっとこれも考えにくいということになってきます。ではどういう場合、手だけになるかですが、結局、そういう全身的な影響も考えられないし、湿疹のような場合は色がつくことがあるのですが、黒色化は全体的にということですが全部の爪なのでしょうか。
池田
爪が全体的というのが、すべての爪なのか、あるいはそれぞれの爪が全体的に黒色化しているのかはよくわからないのですね。
東
そこが困っているのですが。
池田
一応全身的な病気が隠れている、あるいは全身的な薬剤等の影響はないだろうと考えてよいですか。
東
はい。この先生は足もご覧になったのだと思いますが、足にないと仮定すればそういうことになります。
池田
例えば何か職業的なものとかは考えられるでしょうか。
東
上肢の爪だけであれば、先ほどお話ししたマニキュアがあるのですが、これは本人が自分でわかりますから、受診しに行くことはまずない。本人が気づかないうちに外部から着色したという可能性はあるわけです。外部からの着色かどうかを見分ける方法ですが、爪の表面を削ると地の色が出てきますので、白くなってしまうのです。それで外部からの着色であることがすぐわかるのです。
池田
すごく簡便ですね。
東
検査としてはそれをまず勧めます。そうすると、外部からかどうかがわかります。
池田
例えば爪の先端をパチッと切って表と裏を比較するなどはいかがでしょうか。
東
まったく必要ありません。爪の表面を、どの指でもいいので、薄く削ってみるのです。皮膚科医は直接鏡検するためにメスのようなものを横に置いていますから、それで削ればわかります。
池田
表面を軽く削ればいいのですね。
東
そうです。
池田
出血するほどやらなくていいのですね。
東
深く削る必要はありません。
池田
本人が気づいていなくて外部からの着色というのは、どういうものがあるのでしょうか。
東
私が今まで経験したものでは、若い女性で全部の爪がピンク色になったといって来た例があります。それも手の爪だけで足はないのです。何だろうと思って削ってみたら、外部からの着色であることがすぐわかりまして、お話を聞いたら、寝間着の色がついていました。
池田
寝間着の色ですか。
東
はい。まだありまして、これはだいぶ高齢の方でしたが、灰色というか、黒っぽいような色に手の爪だけ着色した例もやはり寝間着だったのです。紺色の寝間着を着ていて、その色素がついていました。
池田
そういうことは患者さん本人は全く自覚できませんね。
東
全然気づいていないのです。ですから、手の指の爪だけなので、これはおかしいぞと爪の表面を削ってみたのです。そうすると、地の色が出てきて、外部からの着色であることがわかりました。それで問診を進めていくと、寝間着であることがわかったのです。
池田
この質問の患者さんも、まずは爪の表面を削ってみて、色が取れるかどうかですね。
東
はい。例えば職業的に、また寝間着を含めて身近に原因になりそうなものがあるかどうかですね。 それから、ほかの例を挙げますと、木酢液というのは先生ご存じでしょうか。
池田
はい、わかります。
東
それを指につけていたという人もいるのです。それで色がついたのですが、その原因を聞きに来るのですから、患者さんはいろいろですね。
池田
全く自覚がないのですね、木酢で染まったというのが。
東
はい。
池田
この方もまず爪を削って、正常色化するかということと、問診をよく聞くということですね。
東
あと、趣味などで色がつくようなものがないかどうかも大事だと思っています。職業と趣味ですね。
池田
よく色がつくようなものを趣味にされたり、仕事にされたりとか、そういうことですね。
東
はい。
池田
どうもありがとうございました。