ドクターサロン

 齊藤 高尿酸血症とメタボリックシンドロームに関連してうかがいます。 高尿酸血症とメタボリックシンドロームの合併は横断研究で報告があるのでしょうか。
 嶺尾 世界の様々な集団で横断的に研究されていますが、どの研究でも尿酸値が高いとメタボリックシンドロームの合併が多い。逆にメタボリックシンドロームの人は尿酸値が高く、人種や地域や性別、年齢を問わず両者が密接に関係しているのが示されています。
 齊藤 子ども、若い人でも同様なのですね。
 嶺尾 小児のメタボリックシンドローム、小児肥満なども問題になっていますが、小児の基準で評価してもメタボリックシンドロームの子どもは尿酸値が高いという成績が出ています。
 齊藤 経過を追っていく縦断研究でも両者は関わっているのでしょうか。
 嶺尾 この関係は複雑ですが、尿酸値が高い人でまだメタボリックシンドロームが発症していない人を追跡する前向きなコホート研究では、尿酸値が高い人ほどメタボリックシンドローム発症率が高い。だから、高尿酸血症というのがメタボリックシンドロームの予知マーカーであると、そう言う人もいます。
 齊藤 これは日本でも世界でもそういう研究があるのですね。
 嶺尾 たくさんあって、メタ解析でも有意になっています。日本では沖縄などではメタボリックシンドロームが非常に問題になっていますが、沖縄からも尿酸値が高い人ほど将来メタボリックシンドロームが出やすいという報告があります。
 齊藤 病態的なメカニズムはわかってきているのでしょうか。
 嶺尾 今お話しした、尿酸値が高いとメタボリックシンドロームの発症が多いため、縦断研究では高尿酸血症が原因となりうる、となりますが、よく言われるのはメタボリックシンドロームの人はインスリン抵抗性があって、それに対する代償性の高インスリン血症、これが尿酸の排泄を低下させて高尿酸血症になる。そういった説が有力です。実際、生活習慣などを改善して内臓脂肪量を減らすと、尿酸の排泄率がよくなって高尿酸血症が良くなる。そういったことはこの機序に合致するのです。
 齊藤 話が戻りますが、尿酸値を尿酸降下薬で下げて、その後、経過を見ることも行われているのですか。
 嶺尾 メタボリックシンドロームと高尿酸血症を合併している人に対しては、日本痛風・尿酸核酸学会では尿酸値が8㎎/dL以上であれば薬物療法を考慮する。それは尿酸値が高いこともメタボリックシンドロームも心血管疾患のリスク因子であると考えられているから、薬物療法を考えてもいいということです。海外の成績などでも尿酸降下療法で心血管疾患が抑制されるという小規模なエビデンスはありますが、大規模なエビデンスがまだないので、もし尿酸降下薬を使う場合には患者さんによく説明して、患者さんと意思決定するのが大切かなと思います。
 齊藤 症例数の関係等々で強いエビデンスとはなっていないということですね。
 嶺尾 そうです。ですから、大規模研究をという声は高いのですが、まだ手を挙げるところが少ないかもしれません。
 齊藤 高尿酸血症とメタボリックシンドロームを両方持っている人が多いですが、対策としてはまずは生活習慣改善でしょうか。
 嶺尾 これは基本中の基本で、尿酸値が高い人もメタボリックシンドロームの人もかなり不適切な生活習慣であったり、フルクトースが多い糖質をたくさん摂取したり、プリン体の多い食品を取ったり、お酒を飲み過ぎたり、というのがあるので、それを是正していただくように指導するのが基本かと思います。
 齊藤 お酒はどのぐらい、あるいはどう飲むことを勧めていますか。
 嶺尾 お酒が好きな人が多いですから禁酒はなかなか難しく、メタボリックシンドロームと高尿酸血症を合併している人は、日本酒でいうと1合、ビールでいうと1缶ぐらいは許可という感じかなと思います。ただ、尿酸に関していえばビールは尿酸値がより上がりやすいので、ほかの醸造酒か蒸留酒がいいと思います。
 齊藤 お酒の量を1単位ぐらいで抑えておくということですね。
 嶺尾 はい。
 齊藤 果物もあまり多すぎないほうがよいのですか。
 嶺尾 はい。欧米などではフルクトースを含む糖質がいろいろな食品に非常にたくさん使われるみたいで、それが尿酸値を高くする、そして内臓脂肪も増やす、両方に非常に関連が深いと強くいわれています。ですから、フルクトースを含む食品あるいは飲料はできるだけ控えるようにしていただくことが大事だと思います。
 齊藤 運動はどういったことをお勧めになりますか。
 嶺尾 運動習慣があまりない人に対しては、最初は穏やかな有酸素運動が適切かと思います。激しい運動をすると尿酸値も上がるし、すでに心血管疾患のリスクがあって、そういった血管事故を起こす、誘発することもあるので、まずウォーキングとか軽いジョギング程度で、過激な運動はあまりお勧めしません。
 齊藤 週何回でしょうか。
 嶺尾 あまり間隔が空くとよくないので、ウォーキングでしたら15分以上を週3回は最低限やっていただくのがいいかと思います。
 齊藤 食事と運動を組み合わせて体重のコントロールを目指すということでしょうか。
 嶺尾 運動自体は体重を下げるほどの効果は少ないですが、インスリン抵抗性は運動によって随分変わると思います。
 齊藤 体重を目安にすると、目標はどうなりますか。
 嶺尾 メタボリックシンドロームの特定健診などの成績を見ると、内臓脂肪でいうと腹囲を3㎝、体重でいうと3㎏ぐらい低下させるのが最初の目標になると思います。
 齊藤 実際、患者さんはどの程度それを達成されますか。
 嶺尾 特に肥満の強い人はなかなか達成できないですが、常に下げようという気持ちは持続してもらって、目標の3㎏に至らなくても、リバウンドしないよう頑張ってもらうように指導するのが大事かと思います。達成できないと挫折感でかえってリバウンドする人もいますので。
 齊藤 患者さんに頑張っていただくように、なるべく励ますということですね。
 嶺尾 はい。
 齊藤 そういった段階を踏んで、例えば血圧が高い方の場合に少し降圧薬を使ってみようとお考えであれば、尿酸を意識することがありますか。
 嶺尾 降圧薬の中ではARBのロサルタンが尿酸排泄を促進する作用があります。ロサルタンで心血管合併症が減少するのは尿酸値が下がるからという研究もあるので、ARBの中でチョイスするとすればロサルタンも一つの選択肢かと思います。
 齊藤 糖尿病薬と尿酸ということでは何かありますか。
 嶺尾 糖尿病薬の中ではSGLT2阻害薬、これは今話題の薬で、心不全や腎障害にいいといわれていますが、尿酸を降下する作用もあるので、尿酸も高ければSGLT2阻害薬をチョイスするというのはいいかと思います。
 齊藤 尿糖と血中の尿酸は関係があるのですか。
 嶺尾 尿糖が出ると尿酸の排泄は促進されるので、糖尿病でも非常にコントロールが悪いと尿酸が低下したりするのと、SGLT2阻害薬で尿酸が下がるのは尿糖が関係していると考えられています。
 齊藤 高尿酸血症とメタボリックシンドローム、いろいろな関わりがあるのですね。興味深いお話、ありがとうございました。