齊藤 高尿酸血症と腎臓病についてうかがいます。
まず、尿酸は腎から排泄されるということで、腎臓が悪いと尿酸が高くなるというメカニズムがありますね。これはどういうことなのでしょうか。
南学 尿中に排泄される物質ですので、腎機能、いわゆる糸球体ろ過が低下すると、どうしても十分な量の尿酸が排泄しきれなくなり、その結果として尿酸が上がっていきます。利尿薬を使ったときに尿酸が上がったりするメカニズムに関しては、むしろ尿細管のトランスポーターに対する影響なども大きいと考えられています。
齊藤 腎臓からの尿酸排泄のメカニズム、これはかなり複雑ですね。
南学 おっしゃるとおりです。尿酸は窒素化合物です。窒素化合物の排泄については、我々ヒトを含めて哺乳類は基本的に尿素としてこれを排泄します。一方、は虫類、鳥類はこれを尿酸として排泄していて、鳥の糞についている白いペレットは鳥のおしっこです。腎臓で漉し出された尿酸が大量の尿に溶解した状態で総排泄腔に送られて、そこから肛門を逆流して結腸に入って水分が再吸収され、尿酸の結晶のみが排泄されるのが、は虫類、鳥類のメカニズムです。これは大量の尿を体の中に保持すると飛ぶのに困るということ、それから卵の中で発達していくときに、ヒトの場合は尿素を溶かしてお母さんにおへそからあげられるのですが、卵の中だとこの濃度が上がって最終的に毒性を持つので尿素排泄系がとれず、は虫類、鳥類は尿酸の排泄系を採用しています。
齊藤 そういった進化の過程でこのようになったのですね。先ほどは腎臓が悪いと尿酸が高いという話でしたが、その逆も言われていますね。
南学 おっしゃるとおりです。私が学生の頃は、尿酸が高くて腎臓が悪くなるというのは、実は尿酸が高い人は高血圧とか糖尿病の合併が多く、そういった要素で腎臓が悪くなるので、結局、尿酸自体は腎臓に影響を与えないということが教科書に書いてありました。その後、リチャード・ジョンソンというアメリカ人が微小な量の尿酸がたまることによって微小炎症を引き起こし、腎機能の悪化を引き起こすことを動物実験等で確認しました。現在では尿酸が高いこと自体が腎臓に悪影響を及ぼすのではないかということが動物実験の仮説として提唱されています。
齊藤 動物実験でそうなると、今度はヒトではどうかと介入試験をやりたくなりますね。これはいかがでしょう。
南学 介入試験では、はっきりした結果が出ていません。最近では、2019年にFREEDという日本人で行われた研究が「ヨーロピアンハートジャーナル」に出ています。これはフェブキソスタットを使った臨床試験で、腎保護作用があるという結論になっています。腎臓のコンポジット・エンドポイントを取っているのですが、その中にeGFRスロープのことも書いてあって、コンポジット・エンドポイントとして蛋白尿等については改善が見られるが、eGFRスロープに関しては差がないということが記載されています。そういった観点から、真の腎保護作用があるということまでは証明しきれていないと思います。
齊藤 それが最新の研究ということで、それ以前のアロプリノールなどでもそういった研究がされてきていますね。
南学 アロプリノール等でも同様の臨床試験がありますが、いずれも何か問題点がある試験で、最終的にこれが本当に尿酸を下げることによって腎保護に働いたことを証明できるような研究は、今のところなされていません。
齊藤 そうなりますと、日本、欧米のガイドラインはどうなっていますか。
南学 たいへん興味深いのですが、欧米のガイドラインはいずれもCKDの患者さんで尿酸が高いことにおいて腎保護のために尿酸を下げることは推奨していません。腎臓関係でいうと、KDIGO国際ガイドラインの委員会があるのですが、2012年にCKDに対するガイドラインが出ていて、ここでは尿酸を下げるために薬を使う証拠は不十分であると記載されていて、CKDで腎保護のために尿酸降下薬を使うことは推奨されていません。2022年6月にガイドライン改訂が行われるので、そこで何か変わる可能性はありますが、現時点ではそう言われています。
それから、2020年にアメリカン・カレッジ・オブ・リューマトロジーが痛風のガイドラインを出しているのですが、ここでもCKDの患者さんにおいて尿酸を下げるための治療を行うことは推奨されていません。
一方、日本のガイドラインにおいては尿酸を下げることを推奨しています。腎臓関係では、腎臓学会が出しているCKDのエビデンスに基づいたガイドライン、2018年のものが最新になりますが、高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法は腎機能を抑制して尿蛋白を減少させる可能性があるので、「行うように提案する」というかたちになっています。「推奨する」ではなくて、提案する。エビデンスグレードはC2なので、かなり弱い書き方ですが、使っていいだろうという書き方をしていて、具体的には尿酸値8㎎/dL以上で薬物療法を開始し、6㎎/dL以下を目標とすることをやってもいいという提案です。
齊藤 アメリカのガイドラインと日本のガイドラインと、立場が少し異なる印象がありますね。実際に臨床現場ではどうなっていますか。
南学 たいへん重要なご指摘、ありがとうございます。高尿酸血症については、急性期の非常に高度な高尿酸血症、いわゆるがん患者において化学療法を行ったときのtumor lysis syn dromeに伴う高尿酸血症は、尿細管の中に尿酸の結晶が詰まって起こるので、急性腎不全を必ず治療する必要があります。一方、こういったときの尿酸レベルは15とか18ぐらいまで上がるので、通常、我々が外来レベルで見る高尿酸血症とは全然違うものです。
外来レベルで見る通常の高尿酸血症については、先ほどの日本のガイドラインに準拠するのがいいと思うのですが、欧米ではあまり積極的にそれを推奨していないこともあるので、個人的には患者さんの好みをよくうかがいながら、8㎎/dLあるいは9㎎/dLぐらいを超えたときに治療を始めるというスタンスです。もちろん痛風があれば、これは全く別の目的で痛風を管理するという観点から尿酸を管理しますので、あくまで無症候性の高尿酸血症を伴うCKD患者さんの尿酸管理について、というお話になります。
齊藤 患者さんと十分に話し合って、ともに決めていくということになりますか。
南学 はい。やはりshared decision makingということで、治療に伴い想定される利点、それからありうる副作用等についてきちんと患者さんとディスカッションして決めることは重要であると考えています。
齊藤 少し話題が変わりますが、高血圧治療時に利尿薬が入った合剤などを使う場合、尿酸が増えていくことが欠点になっている一方、最近、サクビトリルバルサルタンが同じような機序だけれども、多少違って、尿酸が上昇しないといわれています。この使い分けは先生はどうされますか。
南学 同じような治療で尿酸が上がらないのであれば、あえて上がるほうの薬を選択する理由はないと思うので、私としては上げないほうが好みです。
齊藤 SGLT2阻害薬の腎臓に対する影響も検討されているということで、その中で尿酸は増えない、むしろ減ると報告されていると思いますが、この辺での検討はいかがなのでしょうか。
南学 SGLT2阻害薬は非常に強力な腎保護作用があって、我々もドイツのChristoph Wannerらと一緒にEMPAREG OUTCOME試験において腎保護を最もよく仲介する変化は何なのかを解析し、2021年のヨーロッパ腎臓学会で発表しました。その結果として、ヘマトクリット、あるいはヘモグロビンの変化が最も腎保護とよく相関したということで、例えばHIFの活性化だとか、ヘマトクリットの上昇による腎臓への酸素供給の上昇のようなものが腎保護に強く関わっているのではないかと推定しています。尿酸の変化については特に強く相関はしませんでした。
齊藤 尿酸、血圧の若干の低下もあまり効いていなかったのですね。
南学 血圧の低下はもちろん効いているとは思うのですが、非常に強力に相関関係が見られたのがヘマトクリットで、ヘモグロビンの変化だったということになります。
齊藤 ありがとうございました。
尿酸値を診る(Ⅱ)
高尿酸血症と腎臓病
東京大学腎臓・内分泌内科教授
南学 正臣 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)