大西 シリーズ尿酸値を診る、今回は高尿酸血症の疫学について原先生にうかがいます。高尿酸血症、あるいは痛風の患者さんの数は最近増えてきているのでしょうか。
原 2042年には65歳以上の人口は男女合わせてピークの4,000万人になるのではないかという推計試算が出ています。国民生活調査の数値をみますと、1996~2016年までで痛風の患者さんは約4倍に増加しています。男性に限ってみますと約5倍、現在では100万人になっているのではないか。そういう数値が出ています。
年齢別の痛風での通院患者数の報告では、男性では60代後半から70代にかけて頻度が高くなっています。女性も意外と70歳以降も通院率が上昇する傾向が報告されています。ですから今後の高齢化でさらに増加が予測されています。
大西 このように増えてきたのは食生活が良くなったということなのでしょうか。
原 食生活が欧米化していることが、一番関係しているのではないかと思います。
大西 ご高齢の方々も、しっかり栄養を取られていますしね。
原 そうですね。
大西 今コロナ禍で自宅にじっとしていなければいけない人も増えてきたことで、高尿酸血症の方も増えているのですか。
原 コロナ禍で外に出られなくなったり、若い方でもテレワークになっています。そうすると、皆さん、中性脂肪が上昇しています。尿酸値も同様です。
大西 日本では増えてきていますが、諸外国、欧米などでも似たような傾向なのでしょうか。
原 メタボ(メタボリック症候群)が増えています。高尿酸血症(定義として7.0㎎/dLを超える尿酸値)はメタボの中の一因子として大きく位置づけられていますので、増えてきており、特にアジアでの増加が報告されています。
大西 先生は虎の門病院で健康管理センター、ドックを長年やっていらっしゃっていて、そこの受診者の方のデータをいろいろ解析されているとうかがっています。尿酸値の解析から見た疫学的な特徴について教えていただけますか。
原 1985~2010年まで、男性20万人、女性で7万5,000人ぐらいの方で解析しています。1985年には男性の尿酸値が平均5.7、女性が4.01です。ところが、2010年では、男性が6.25、女性が4.56と、尿酸値が増加を示します。その後2015年以降も同様の数値で推移しました。
大西 高尿酸血症の頻度も年ごとに増えてきているということなのでしょうか。
原 そうですね。年代別にも増えてきていて、男性で5万人、女性で2万人ぐらいの経年的推移を見た成績があります。高尿酸血症例は1985年には男性では11.7%ですが、その後、2000年には28.5%と増えています。その後、少し減少しているのですが、2020年以降では23.4%ぐらいです。
大西 頻度は高いですね。女性はどうですか。
原 女性は少ないのですが、1985年だと受診者の中の高尿酸血症は0.18%ぐらい。それが2000年になると1.05%と、約10倍に増えています。
大西 すごい増え方ですね。
原 そうなのです。2020年以降では1.9%で、ほぼ同じぐらいです。先生が先ほどおっしゃられたように、食生活ですね。
大西 もともと女性は尿酸値は低かったように思うのですが、やはり若い方でも増えてきたのですか。
原 はい。女性では60歳以降で高尿酸血症が増加し、痛風の通院率も増えてきています。
大西 女性でも痛風を起こすのですね。私はあまり見たことがないのですが。
原 しかし、そういう成績も出ています。
大西 気をつけなければいけないということですね。次に、ドックの受診者において尿酸値を解析されていますが、高尿酸血症の臨床的な特徴はありますか。
原 私は本来、高尿酸血症といいますと、痛風と1対1対応のような考え方を持っていたのですが、ドックの成績で見ますと、痛風との関連だけではなく、いろいろな疾患と関わり合っていることが認められました。
大西 例えばどういった疾患でしょうか。
原 高血圧症、高脂血症、糖尿病、メッツ、CKD、さらに最近話題になっているNAFLDやNASHとの関連もあります。高血圧症、高脂血症、糖尿病では、高尿酸血症を持っている場合は、ない場合に比べて約4倍です。あとはメッツ、CKD、NAFLDでは6~8倍、高尿酸血症がみられます。
大西 そうしますと、高尿酸血症はいろいろな疾患の発症リスクになっていると考えていいですか。
原 高尿酸血症と言いますと、いろいろな疾患にたまたま持ち合わせている因子ではないかと、従来は考えられてきたのですが、虎の門病院のドックのデータを見ますと、尿酸値は諸疾患の発症リスクとなっています。
統計解析で発症因子とそのリスクを明らかにする際には、中央値を用いて、それ以上であるか、未満であるかで、発症がない例をフォローし発症リスクを明らかにします。
今回の統計解析においては、男性では尿酸値6.2㎎/dL以上、女性では4.5㎎/dL以上の尿酸値で約4,000例を検討した結果、諸疾患の発症リスクが認められています。尿酸高値では、高血圧発症は、1.5倍のリスクで、高脂血症発症のリスクは1.4倍でした。尿酸値そのものがいろいろな疾患の発症に関わっていると思います。それは高血圧もそうですし、高脂血症へのリスクともなっています。
糖尿病には高尿酸血症の方が多いのですが、糖尿病の発症因子として尿酸を見ると、有意差がみられませんでした。何か疾患の特殊性があるのかもしれません。
それからNAFLD、NASHの発症因子としての尿酸値での検討ではすべて中央値で解析し、男性は6.1、女性は4.4以上です。10回以上受診して、初診時発症がない人で20年間で発症する率は有意に高く、1.3倍です。
大西 高尿酸血症の問題点、管理や、いろいろな疾患予防の目標値などについては、どのように考えたらよいでしょうか。
原 メタボもそうですし、CKDも同じように尿酸が関わり発症因子になっているのですが、どこに管理目標値を置いていいかという点ですね。
大西 値はどの辺で見たらよいでしょうか。
原 従来尿酸管理は7を超えれば管理をするという一つの指標が出ています。今回の検討からいきますと、男性で6.2未満、女性で4.5未満が一つの管理目標値になるかと思います。
従来よりかなり低値です。尿酸というのは抗酸化作用があるので、あまり低くしてはいけないという考え方もあります。それでは実際に、至適な下限値はどれぐらいか、この辺はまだこれからさらに解析すべきで今後の課題と思っています。
そして今後の課題のもう一点ですが、尿酸値に関して性差別での正常値を定義することが必要ではないかと考えられました。
なお統計解析は、梅山正登様(株式会社化合物安全性研究所臨床事業部東京支部専任部長)のご支援によるものであり、深謝いたします。また健康管理センター戸田晶子先生のご協力に感謝いたします。
大西 ありがとうございました。
尿酸値を診る(Ⅱ)
高尿酸血症の疫学
原プレスセンタークリニック院長
原 茂子 先生
(聞き手大西 真先生)