ドクターサロン

 山内 現在、オンライン診療が非常に注目を集めていますが、まず概観から教えていただけますか。
 山本 昔は遠隔医療というかなり広い名前で呼ばれていて、実は1990年代から一応やってもいいという通知が厚生労働省から出されていました。その当時はいわゆるテレビ電話を使った診療でしたが全く広がらなくて、何度か通知を改訂してオンライン診療を進めてきました。いよいよ患者さん側のITリテラシーといいますか、スマートフォンやタブレットが一般にもかなり普及して、テレビ電話ではなくて、もっと気楽に医療通話ができるようになったことを踏まえて、2018年にオンライン診療の適切な実施に関する指針を厚生労働省が出しました。もう一方ではオンライン診療に十分ではないかもしれませんが、きちんと保険点数がつくことから、比較的進むようになってきたのです。
 そのさなかにCOVID-19のコロナ禍が始まり、患者さんが医療機関に行くのを少し怖がるようになってきて、行かなくても何とか診察をしてもらえないかという要望もあったものですから、ますますオンライン診療がクローズアップされてきて、COVID-19の流行が少し激しくなってきた2020年4月頃から時限的な臨時措置として、初診の患者さんもオンライン診療で診療可能という通知を厚生労働省が出したのです。
 山内 原点は対面診療ですね。これに対しては補完的な役割だったと考えてよいのですね。
 山本 おっしゃるとおりで、オンライン診療はあくまでも対面診療を補完するものという立てつけで話を進めてきたところです。そこにコロナ禍が起こって、緊急的、時限的な臨時措置として初診を認めるようになった。ただ、それまでも例えば禁煙指導は急変する心配がないので、初診から認められていました。もう1点だけ例外として認めていたのが緊急避妊薬です。これは診療を受けられるまでの時間が非常に問題になるため、女性の立場から様々な事情でどうしても受診しにくいということがあり、例外的に初診から認める。それ以外は初診の診療は認めていませんでした。
 山内 基本は再診だけだったのが、コロナ禍で急遽、むしろ初診に光が当たるようになってしまったのですね。例えば初診になる代表的な風邪症状はどういう扱いになるのでしょうか。
 山本 現状は初診からオンラインで診察可能としていますが、あくまでも診療される医師の判断によることになっています。申し上げるまでもありませんが、感冒様症状で始まる疾患はかなりたくさんあって、そういう意味では100%オーケーではないのですが、多くの人は普通の感冒であろうという推定のもとに行ってもいいことになっています。ただし、あくまでも患者さんが急変した場合に対応が取れる、あるいは長期の投薬は行わないなどの条件はつけています。
 山内 次に再診も含めた診察になりますが、むろん検査できません。これに対する考え方としてどういったものがありますか。
 山本 検査が必要な状況でオンライン診療は絶対無理ですから、わざわざ採血や検尿をしなくていいという判断のもとにオンライン診療をしていただくことになります。一方でそれが必要な場合は、直ちに対面診療に切り替えていただくことになると思います。
 山内 将来的には、アメリカなどで広まっている検査機器の革命とでもいうのでしょうか、今よりも非常に手軽な、自宅でできる検査機器が普及することも織り込まれていると考えてよいでしょうか。
 山本 それももちろん織り込まれていて、例えば今はIoT機器を使った患者さんの健康状態、あるいは活動状態のモニタリングが非常に進んできています。対面診療では、2週間に一度それを見るだけになるのですが、オンライン診療の場合は、例えばスマートフォンに患者さんの日常の情報を蓄積しておくことができますので、医療従事者と患者さんが共同で利用することによって、より密度の濃い生活状況の把握ができます。そういったことも活用してオンライン診療は多分発展していくだろうと思っています。
 ただ、すべてのことができるわけではありませんので、やはり通院していただいて検査することが必要な状況も、いつまでもなくならないとは思います。
 山内 検査も血液を採らないでも済むとか、体の組成を測定できるとかになってきますと、将来的にはかなりのところまでオンラインでできるかもしれないですね。
 山本 はい。
 山内 次に薬剤に関して話をうかがいたいのですが、例えば処方箋をめぐる問題はいかがでしょうか。
 山本 現状はオンラインで診療しても紙の処方箋を郵送して、その処方箋を患者さんが保険薬局に持っていって調剤を受けることになっています。診察はオンラインなのに、薬はどうしても物が生じますから、仕方ないところはありますが、実際に紙を持っていって薬をもらうのはあまり合理的ではないような感じがします。
 したがって、今、処方箋の電子化、つまり電子処方箋の検討が進められています。電子処方箋に関するガイドライン等もできていて、今データヘルス計画の中で電子処方箋の実現を2022年にすることになっています。それが実現しますと、オンラインで診療して、処方箋もオンラインで送信して、患者さんもオンラインで調剤薬局に処方箋を送ることができて、服薬指導もオンラインでできるようになる。あとは薬ですが、これは物理的なものなので電送というわけにはいきませんが、これを配送することによって完結することは近い将来できるようになるだろうと思います。
 ただ、一方で、薬は頻度が低い高いにかかわらず、副作用の出現がありますので、このモニタリングが非常に重要になります。オンラインだけでやっていると、そこに齟齬があってはいけないので、オンライン診療で処方できる薬の種類とか、あるいはオンライン診療でオンライン処方箋を使ってやれるような薬の処方の期間や種類は、ある程度制限されることになると思います。
 山内 外科はどのような位置づけになるかということですが、実際にはコンサルトといったものが中心になると考えてよいでしょうか。
 山本 そのとおりです。外科系の診療をオンラインでするのはかなり難しい。特に初診は多分不可能だと思いますので、あくまでも受診勧奨といいますか、コンサルティングみたいなことを行っていただいて、必要であれば受診していただく。あるいは、「心配しなくていいよ」と言っていただくことが中心になると思います。
 山内 ただ相談は、現時点での医療法上の扱いはどうなるのでしょうか。
 山本 診療にはならなくて、自費になります。その辺はまだ十分に整備されていないところです。
 山内 現在までに、何かトラブル例といったものがありましたら、簡単にご紹介いただけますか。
 山本 患者さんのほうからクレームが出た例というのは、あくまでも自費診療が中心ですが、実際にオンライン診療でつないでみたら、医師でもない人が出てきて、適当に薬を勧めたという例が少しありました。あと、実際にトラブルになったわけではありませんが、少しリスクがあるという例としては、薬に関してで、初診から90日間の長期投与が行われる、あるいは軽いものではありますが、麻薬系の薬が投与されているなどの報告がされています。個別に何かトラブルになったわけではないですが、若干リスクがあるということで、厚生労働省も指導されているようです。
 山内 そうしますと、にせ医者がオンライン診療をやってもわからない場合もあると考えてよいのでしょうか。
 山本 現状、指針上は医師は医師免許証等を画面上で患者さんに見せることにはなっていますが、それを見たからといって本物かどうかはわからないでしょうし、絶対ないとは言えないと思います。
 山内 いずれにしても、非常に将来性のある診療分野ですので、また今後もいろいろ開拓されることを期待しています。ありがとうございました。