ドクターサロン

 池脇 高尿酸血症は、男性に多く、痛風発作に女性は極端に少ない理由を教えてくださいということです。まず、高尿酸血症、その延長線上の痛風の疫学といいますか、患者さんの数はどう推移しているのでしょうか。
 市田 例えば人間ドックで見ると、男性の場合、だいたいどこの施設でも高尿酸血症は人間ドック受診者の20~25%ぐらいで推移しています。それに対して女性は1%未満ぐらいの頻度ですから、高尿酸血症の頻度はだいぶ男性と女性とで差があります。女性はホルモンの影響で血清尿酸値の値が変わります。閉経後に血清尿酸値は上昇しますが、それでも高尿酸血症はだいたい5%ぐらいですから、男性よりはだいぶ少ないといえます。
 池脇 20~25%と1%未満、そんなに違うのですね。
 市田 男性と女性では高尿酸血症の頻度がかなり違いますので、そうすると当然痛風の頻度もそれに伴って変わってくるのだと思います。
 池脇 高尿酸血症というとどうしても飲酒の影響を考えてしまいます。もちろん女性でも飲酒が原因の方はいると思うのですが、人間ドック受診者の20~25%と圧倒的に男性のほうが多いなかで、どの程度飲酒が関わっているのでしょうか。
 市田 飲酒は男性ではかなり関わっています。ですから、禁酒まではいかなくても、飲酒量を減らしていただくだけで血清尿酸値が正常になったり、あと体重を落とすことで改善する方はかなり多くいます。
 池脇 人間ドックレベルで高尿酸血症で引っかかった場合には、まずは飲酒など生活習慣の指導が最初になるのですね。
 市田 そうですね。
 池脇 今、高尿酸血症の頻度をお聞きしましたが、痛風も圧倒的に男性が多いかと思います。どうなのでしょうか。
 市田 日本では、どの報告を見ても、男女の比率は、だいたい95%以上は男性が占めているという結果になっています。
 池脇 高尿酸血症の男性、女性の分布にかなり近い印象がありますが、そう考えてよいのでしょうか。
 市田 はい。昔から免疫が絡んでいて、それで女性痛風が少ないのではないかと、いろいろ検討されていますが、今のところ、それについてはまだエビデンスが出てきていない状況です。
 池脇 圧倒的に女性が少なく、男性に関しては日本の高度成長期の何十年前から増えてきている。逆にいうと、あの頃は高尿酸血症はそんなに多くなかったのでしょうか。
 市田 昔は高尿酸血症、痛風は非常に少なかったです。それが高度成長など食生活の変化に伴って高尿酸血症、痛風の患者さんが男性で非常に増えた。女性でもその頃に比べると増えています。
 池脇 食生活の変化、いわゆる飽食の時代というのは、尿酸だけではなくて、コレステロールやいろいろなところに影響しているのですね。どうして女性ではそんなに高尿酸血症が少ないのか、これはどの程度わかっているのでしょうか。
 市田 尿酸値の推移を見ますと、思春期までは男性と女性ではそんなに差がないのです。それが思春期になると男性のほうが血清尿酸値が上がりますので、明らかにテストステロンの影響を受けていることがわかっています。あと、女性はエストロジェン、プロゲステロン、その両方の影響も受けていて、動物実験の結果では、テストステロンの影響として腎臓の尿細管で尿酸の再吸収が増える。トランスポーターとしては、間接的に尿酸を上げる方向に働くSMCTの発現が増えて、かつ尿酸の再吸収に働くURAT1というトランスポーターの発現も増えます。
 エストロジェンは逆でして、尿酸を下げる方向に働きます。下げるというのは、尿酸を腎臓から排出する方向に働くのですが、先ほどの尿酸を再吸収する方向に働くURAT1の発現が減って、あともう一つ、同じように尿酸を再吸収する方向に働くGLUT9の発現も減ります。プロゲステロンは一番最初に出てきた間接的に尿酸を再吸収するSMCTを減らすといわれていますので、いわゆる性ホルモンは全部尿酸のトランスポーターに影響を与えているといえます。
 池脇 そうしますと、性ホルモンの分泌がしっかりしてくる10代ぐらいから男性は尿酸値が上がって、女性は下がるというのは、ほぼ性ホルモンによって規定されているのですね。
 市田 はい。幼少期は男女とも年齢とともに徐々に上がってきて、思春期で女性は横ばいになるというイメージです。女性は横ばいになって、男性は上昇する。閉経前後で女性が上がり始めて、男性にちょっと近づいてくるイメージです。
 池脇 高尿酸血症の方を見たら、尿酸の産生が増えるタイプなのか、あるいは排泄が落ちるタイプなのかで病型を分けて、それによって治療薬を選択するということが頭に浮かんだのですが、先生がおっしゃった性ホルモンは、いずれも排泄のほうに効いているということですね。
 市田 そうですね。性ホルモンは排泄をつかさどっていて、そちらに影響を与えています。
 池脇 性ホルモンというのは基本的には合成ではなくて、排泄をレギュレーションすることによって、一方で上がったり、一方で下がったりすると考えたほうがいいのですね。
 市田 はい。単純に尿中の尿酸排泄量を男性と女性とで比較すると、男性のほうが多いのです。そうしますと、一見、産生量にも影響を与えているのではないかと考えがちですが、それを体重などで補整すると、男女差がなくなってしまうのです。ですから、先生が言われたように排泄のほうだけに関与していると考えていいと思います。
 池脇 高尿酸血症は一次性とか二次性とかあったように思いますが、男性と女性で一次性、二次性の分布に何か特徴があるのでしょうか。
 市田 女性痛風は二次性が多いといわれています。ですから、例えば女性で痛風の患者さんが外来にやってきた場合は、必ずその原因が何かあると考えないといけません。例えば薬、ほかの疾患、昔でいうと家族性若年性高尿酸血症性腎症のような家族性の疾患の場合は家系内の発症に男女差がありません。ですから、女性痛風をきっかけにしてその家系が見つかることが以前はよくありました。それから腎疾患ですね。それからお酒とかその辺も。
 池脇 女性の場合は男性よりも何か潜んでいないか、きちんと評価したうえで対処する必要があるということですね。
 市田 そのとおりです。
 池脇 女性は高尿酸血症は少ないし、でもたまに尿酸値が7㎎/dLとか8㎎/dLを超えるような方がいらしても、女性だからまあ様子を見ようとなってしまうのですが、女性だからといって、そういう対処でいいのでしょうか。
 市田 女性痛風の場合でも、ある程度尿酸値が高くなると痛風発作を起こします。そこに関して男女差はないのです。ところが、合併症として尿酸値が高いと、例えば心血管疾患のリスクが上がるといわれていますが、男性は7㎎/dLを超えてこないとそのリスクは上がってきません。ところが、女性は6㎎/dL台から上がってきます。ですから、女性痛風、もしくは女性の高尿酸血症を見た場合には、6㎎/dL台から将来的に、例えば心血管疾患を起こすようなリスクがあるのではないか。ほかに脂質異常などが一緒にあった場合には、治療をするか、しないかなど、早めに考えるべきだと思います。
 池脇 女性の尿酸値は男性よりもちょっと厳しめに、リスクが高い状況があるかもしれないという目で見たほうがいいのですね。
 市田 はい。女性痛風というのは珍しい。珍しいということは、その背後に何かあるかもしれないと考えたほうがいいと思います。
 池脇 女性の高尿酸血症に関しては、これから先生の言われたことを参考にして慎重に見ていきたいと思います。ありがとうございました。