ドクターサロン

大西

金子先生、プリン体の代謝についてうかがいたいと思います。

プリン体とはいったいどういうものか、基本的なところから教えていただけますか。

金子

化学構造としてプリン環を持っているものをひっくるめて全部をプリン体といいます。遺伝子から始まり、有名なATPもプリン体の一つですので、体にとっては必要な物質になります。

大西

遺伝子を作っているような物質と考えていいのですか。

金子

はい。非常に重要な物質です。

大西

体の中でプリン体はどのように代謝されているのでしょうか。

金子

体の中にはプリン代謝経路というものがあります。プリン体は体にとって必要なものですので、一からプリン環を作る経路と、ある程度壊れたものをサルベージする、2つの経路から成っていて、必要なときに作り出せるように代謝経路が働いています。

大西

分解や排泄の経路などはどのようになっているのでしょうか。

金子

サルベージする経路もありますが、プリン体が多すぎるときはプリン分解経路が働きます。たくさん食べたときや、たくさん作り過ぎたとき、特に細胞が壊れたりしたときもサルベージが間に合わずにプリン分解経路が働いて、最終的にプリン体は尿酸になっていきます。

大西

尿酸量が増加して高尿酸血症を起こすこともあるのですね。

金子

はい、そのとおりです。プリン代謝経路の最終産物が尿酸です。通常、食べたものも同じプリン代謝経路に入ってくるので、食べ過ぎたときにも尿酸がたくさんできるのです。また、腎臓と腸管の両方から排泄されているので、それが減ることによっても体の中の尿酸が増えることにつながっていきます。

大西

腎臓も腸管も同じように同じような量を排泄するのでしょうか。

金子

腎臓が2/3、そして腸管が1/3といわれています。

大西

細胞が壊れるときというので、よく臨床の現場では強力な化学療法をやると尿酸値が上がったりしますが、そういう現象だと考えてよいのでしょうか。

金子

はい、細胞が壊れるときは、強力な化学療法により壊れた細胞から作られた尿酸が尿酸値上昇の原因となります。通常はたくさん食べ過ぎたときのプリン体、あとお酒などを飲んだときにATPが代謝されて尿酸が生成されることが尿酸値を上げることにつながります。

大西

臨床的に重要な痛風と高尿酸血症が非常にポピュラーで有名ですが、それとプリン体との関係について教えていただけますか。

金子

プリン体を摂り過ぎると痛風のリスクが上がる、また尿酸値が上がることがたくさんの疫学調査から報告されています。肉類や魚類、アルコールをたくさん摂ることによっても痛風のリスクが上がることが知られています。

大西

普通は肉がよくなくて、魚はいいという気もするのですが、魚にもかなりあるのでしょうか。

金子

プリン体量としてはそんなに肉類と魚類は変わらないのです。

大西

変わらないのですね。例えば、お酒も種類によって多少違うといわれていますが、それは本当なのでしょうか。

金子

実はお酒の中でもビールは一番プリン体が多いといわれていて、多いといっても食品と比べると随分少ないのですが、ビールのプリン体は吸収されやすいので、尿酸値を上げることが知られています。

大西

プリン体の総量に気をつけるということだと思うのですが、ガイドラインで1日の適正量は定められているのでしょうか。

金子

はい、目安として、1日400㎎程度にしておくのがよいと記載されています。

大西

400㎎といってもピンと来ないのですが、実際はどの程度なのでしょうか。

金子

通常の定食のような食事がだいたい180㎎程度なので、それを1日2回とし、例えば朝食は、定食みたいにたくさん食べることはないと思うので、納豆にごはんに味噌汁とか、あと多くても魚一切れ、または卵料理にすると、30~50㎎ととても少なくなってきます。

大西

昔ながらの日本の食事で適正量というような感じですね。

金子

はい。そういうものを3食摂るのがバランスもいいです。

大西

あと、プリン体はおいしいものに多いとよくいわれますが、それは本当なのでしょうか。

金子

実はプリン体の中に呈味性ヌクレオチドというものがあります。いわゆるうま味成分になるのですが、鰹節のイノシン酸、シイタケのグアニル酸、あと酵母に含まれているキサンチル酸、その3つが知られています。それらがおいしいから、プリン体はおいしいものに多いといわれています。

大西

魚卵に多いのですか。

金子

これは誤解している方がかなり多く、魚卵にはプリン体は少ないのです。というのは、あの見える粒々一個一個が細胞です。プリン体は細胞の中に含まれるので、粒が大きいイクラのほうが、100g当たりのプリン体は少なくなります。通常、食品というのは100g当たりで表しますので、同じようにプリン体も100g当たりで表すと、あの粒々が大きいということは、100g当たりの粒(細胞)の数が少なくなります。

大西

そういうことなのですね。

金子

粒の数が少なくなるので、細胞の数が少なくプリン体は少なくなってきます。例えば鶏卵は、1個50gぐらいですが、100gで2個、細胞が2個しかないことになります。その細胞の中に含まれている核酸がプリン体の主なもとになっています。

大西

では卵はプリン体が少ないのですね。

金子

ほとんどないと思ってよいかと思います。

大西

コレステロールはちょっと多いかもしれませんが、プリン体は少ないのですね。

金子

はい。

大西

そのあたりは誤解しやすいところですね。

金子

特に魚卵は多いと思っている方が多いですね。

大西

そうですよね。魚卵にも小さい粒とかいろいろありますよね。

金子

小さい粒は比較的多いですね。タラコや、タラコに味をつけた明太子になってくると、お肉と一緒の量になってきます。

大西

勉強になりました。

プリン体もいろいろな種類があると聞いていますが、尿酸値への影響などを教えていただけますか。

金子

はい。プリン体には、いろいろな種類があります。先ほどからお話ししているように、核酸やATPなどはヌクレオチドと呼ぶのですが、先ほどの呈味性ヌクレオチドももう少し壊れるとヌクレオシドになります。それらを別々に患者さんや健常人に投与すると尿酸値の上がり方が違うことがわかっています。

大西

野菜類は尿酸値にはあまり影響ないと考えていいのですね。

金子

野菜類はもともとプリン体の量が肉や魚ほど多くないということと、含まれているプリン体の種類が核酸、DNAとかRNAが多いのです。形としてDNAになっている、高分子になっていると、その分、分解するのに時間がかかり尿酸値に反映されてこないので、尿酸値への影響は低いことになります。

大西

DNAが多いとまずいのかと思ったのですが、そういうわけでもないのですね。

金子

レバーのようにDNAが多くて尿酸値を上げやすいものもあります。

大西

食事療法が非常に重要になってくるわけですが、そのあたりへの応用はどうしたらよいでしょうか。

金子

食事療法は、プリン体の量、あと今お話しした質や種類など、気にするとかなり細かいことがいろいろありますが、最終的には、本当にありきたりですけれども、バランスのよい食事を摂るのが一番大事なことかと思っています。

大西

何となく痛風を起こしている患者さんを見ていると、たくさんお酒を飲んで、たくさんお肉を食べて、よく宴会に行く、そんなサラリーマンの人が多いような気がするのですが。

金子

お肉をたくさん食べたり、お酒が多すぎると尿酸値は上がりますね。

大西

やはり量が多いのですかね。ビールも漉してあればいいと言う人もいますが、そういうものはあまりないのですか。

金子

今、プリン体カットビールというものが出てきています。

大西

やはり出ているのですね。

金子

それは尿酸値を上げるのが1/3ぐらいになっています。

大西

そんなに違うのですね。ではバランスよく摂ることが重要で、食べ過ぎ、飲み過ぎに気をつけるということですね。魚だったらいいと思ってしまいますが、魚もけっこう多いと考えていいですね。

金子

プリン体の質を考えると、イワシの表面など魚のキラキラした部分、あれはグアニンの結晶なのです。

大西

光りものみたいなあの表面ですか。

金子

はい。あれはグアニンというプリン体の一種なのですが、グアニンの結晶でできていて、魚の表面だから水に溶けにくい。結晶の形をして、それが光を反射してキラキラしているのですが、グアニンは尿酸値を上げないことがわかっています。

大西

グアニンはいいのですね。

金子

光りものの魚のグアニンは実はプリン体の値としては入っているのです。なので、魚は意外と、特に光りものは悪くないと、いろいろな本に載っています。

大西

高齢の方に何かアドバイスはありますか。

金子

尿酸値はいろいろな生活習慣の反映になっています。食べ過ぎ、飲み過ぎ、あと腎臓が悪いことの反映にもなっています。ただ、そうはいっても、プリン体はATPなど体にとって必要なもののもとになります。

大西

必須なものですね。

金子

はい。ですので、もし高齢でそれほどたくさん食べられなくなった、あと尿酸値を気にしなくてもいいという状況であれば、プリン体の多いもの、特に鍋をしたときの中身はともかく、汁のほうにプリン体は全部出ているので、それを飲んでいただけたら、消化もよくて、そして効率よくプリン体が摂れる。高齢の方には勧められるのではないかと思います。尿酸値の高い方はまずいです。

大西

それはちょっとまずいかもしれませんね。時々いらっしゃいますよね。ありがとうございました。