ドクターサロン

中村

最近、臨床でも尿酸の高い人を診る機会が極めて多いものですから、専門医からその辺のコツを含め、新しい情報を教えていただきたいと思います。 最近、尿酸もコレステロール同様、腸管から排泄されるルートがあることがわかったそうですが、この辺はいかがでしょうか。

久留

たいへん重要なトピックスです。病型分類に新しい分類が加わりました。先生がおっしゃったとおり、消化管、特に小腸からABCG2という名前の尿酸トランスポーターを介して便中に尿酸が排泄されていることがわかってきまして、この小腸からの尿酸の便中排泄が低下している人、すなわちABCG2トランスポーターの機能不全の人は痛風発症率が10倍高くなることが判明しています。これは腎外排泄低下型の高尿酸血症・痛風に分類して、新しい病型分類が加わったということになっています。

中村

これを見つけるにはどういったマーカーで調べるのでしょうか。

久留

2つの方法があります。一つは尿中の尿酸と尿中のクレアチニンを随時尿で測定して、その比が0.5を上回っている場合には腎外排泄低下型または産生過剰型の高尿酸血症の可能性が高くなります。また、最近はABCG2トランスポーターの遺伝子多型を測定できるようになってきまして、ABCG2トランスポーターの機能喪失型であると、腎外排泄低下型の高尿酸血症という診断になります。

中村

それは小腸の細胞を取って調べるのですか。血液でもわかるのですか。

久留

血液の遺伝子多型検査になりますので、血液を取って、DNAを取って、そしてABCG2トランスポーターの遺伝子を読むことになります。

中村

このルートを、例えば促進させるとか、あるいはインヒビションすることはできるのですか。

久留

実は多くの薬剤がこのABCG2トランスポーターの阻害薬になります。一番強力なのがベンズブロマロンで、腎臓からの尿酸の排泄は促進しますが、小腸からの尿酸の便中排泄を止めてしまいます。それからフェブキソスタット、トピロキソスタットというキサンチンオキシダーゼ阻害薬も、このABCG2の強力な阻害薬であることがわかっています。

一方で、従来病型分類された排泄低下型の高尿酸血症の方は、このABCG2トランスポーターの働きが非常に強くなっていて、便中への尿酸排泄が促進しています。それから、慢性腎臓病(CKD)の方もABCG2トランスポーターからの尿酸の便中排泄が促進していることがわかっていますので、そのあたりを気をつけて薬の調節をしていただく必要があります。

中村

例えば、臨床でもしそのタイプが見つかって、排泄を促進させようと試みたとき、どのようなことをすればよいのですか。

久留

このABCG2トランスポーターを介しての尿酸の便中排泄を促進する薬剤はまだ見つかっていません。一方で、このABCG2を阻害しない尿酸降下薬が新しい薬剤として2020年から発売になったドチヌラドという薬です。この薬剤はABCG2トランスポーターを阻害しないので、腎外排泄低下型の高尿酸血症の方には使いやすいと考えられます。

中村

私どもは、臨床の場で肥満あるいはNASH、NAFLD、メタボリック症候群といった患者さんで高尿酸血症を診る機会が多いのですが、これは原因なのですか。結果なのでしょうか。

久留

基本的には両方の可能性を示す臨床データが示されています。NAFLD、そしてメタボリック症候群の方はインスリン抵抗性をお持ちになるので、高インスリン血症が起こり、尿酸の再吸収を促進することで排泄低下型の高尿酸血症が、NAFLDやメタボリック症候群や肥満の結果として起こってくるという多くの研究があります。

一方で最近、尿酸値の高い方でNAFLDやメタボリック症候群や肥満のない方を5年間観察すると、有意差を持って5年後にNAFLD、メタボリック症候群、そして肥満が起こってくるというデータがたくさん出ていて、尿酸はメタボリック症候群や肥満のリスクの一つであると主張されています。

中村

先生はどうお考えですか。

久留

私は基本的には結果としての高尿酸血症であろうと考えています。しかし、この高尿酸血症を放置することは痛風発症や腎障害の観点からよくありませんので、やはりメタボリック症候群などに合併した高尿酸血症も治療が必要ということです。

中村

最近、新型コロナウイルス感染症の患者さんにも時々使われるようになりましたが、炎症のときに治療に使うコルヒチンについてお話しいただけるとありがたいと思います。これはどのステップに効く薬なのでしょうか。

久留

今、自然免疫の領域で非常に注目されているのがコルヒチンです。コルヒチンは先生もよくご存じのとおり、細胞の中の微小管の重合を阻害する薬剤です。自然免疫、すなわち尿酸塩結晶を貪食したり、細菌感染、ウイルス感染などが起きると、NLRP3インフラマソームという炎症の分子機構が活性化するのですが、そのときにどうしても微小管が必要となります。この微小管を通してNLRP3インフラマソームが形成され、結果的にインターロイキン1βやインターロイキン18が分泌されて、痛風、関節炎、そして先生のご専門の動脈硬化なども起こってくることがよくわかってきました。 そのために、このインフラマソームを効率的に、そして安全に遮断する薬剤としてコルヒチンが期待されていますし、もちろん痛風発作の治療薬でもあると同時に、最近では例えば心外膜炎の炎症の治療に使ったり、また、動脈硬化の抑制にも使えるのではないかと考えられます。最近の研究では新型コロナウイルス感染症のサイトカインストームを予防するためにコルヒチンを使っていくという、使い方が提唱されてきています。

中村

インフラマソームは今用いられているマーカーの中であるのですか。

久留

インフラマソームの活性化は基本的にインターロイキン1β、インターロイキン18の分泌です。しかし非常に面白いことに、インターロイキン1β、インターロイキン18が活性化された後にインターロイキン6が活性化してくるのですが、インターロイキン6は尿酸の尿中排泄を亢進するので、血清尿酸値が急速に下がってくることがわかっています。私見ですが、血清尿酸値が急速に低下している、そういう炎症の場合にはインフラマソームが活性化しているのであろうと推定できます。例えば、痛風発作の極期は尿酸値が高くならないことがよく知られています。これはインターロイキン6が分泌されていて、その原因が好中球やマクロファージが尿酸塩結晶を貪食してインフラマソームが活性化しているので、そういう推測が成り立つと思います。

中村

そうしますと、インターロイキン6を測ればまあまあその動向がある程度わかるということですね。

久留

そう思います。それと血清尿酸値の低下はマーカーになると思います。

中村

コルヒチンを長期に使うためにはどのくらいの量がよいのでしょうか。

久留

実はコルヒチンというのは痛風の再発予防に多く使われています。コルヒチンカバーという方法でして、ガイドラインでは6カ月間、コルヒチンを0.5㎎1錠を投与し続ける。これが痛風の再発予防、痛風患者さんでのインフラマソーム活性化予防対策として推奨されています。コルヒチン1錠ですと、ほとんど副作用が起こらないので、1錠6カ月というのがよいと思います。

中村

どうもありがとうございました。