ドクターサロン

池田

スギ花粉アレルギーとダニアレルギーに対する舌下免疫療法について、まずスギ花粉のアレルギーについてうかがいます。舌下免疫療法で使われる薬ですが、これはどのようなものが入っているのでしょうか。

三輪

スギ花粉の中にスギ花粉症を起こすアレルゲンがあるのですが、だいぶ構造的な特徴がわかってきました。それを抽出したものが標準化抗原としてすでに知られていますので、その標準化抗原を使った錠剤、これを舌下錠として使用しています。

池田

適応となるのはどの症例でしょうか。

三輪

スギ花粉症であることが明らかになった症例すべてにおいて、適応になると思います。

池田

あとでお話しいただきますが、投与方法と期間がだいぶ長くなるので、よほどスギ花粉アレルギーで難渋されている方、長いこと罹患されている方なのでしょうか。

三輪

もちろん長く苦しまれている方とか悩まれている方は多いと思いますが、こういった免疫療法はご承知のように予防効果もあります。免疫をつくることによって、他抗原の新たな感作を防ぐ、あるいは重症化を防ぐこともありますので、重症、軽症を問わず、広く適応になると思います。

池田

どういう投与方法で、投与期間はどのぐらいでしょうか。

三輪

まず舌下錠ですが、多少特殊な薬ですので、初回は病院あるいはクリニックの院内で、まず医師の前で舌下して、30分、そちらにいていただいて、何でもないということになりましたら、2日目からは自宅で舌下錠を服用していただくことになります。

池田

舌下にまず入れますね。そしてどのくらい待つのでしょうか。

三輪

現在のスギ花粉用の舌下錠では1分です。いずれにしても、舌下をして1分たって、それから飲み込んでいただくことになると思います。

池田

初回、30分経過を見るということですが、もし起こるとしたらどのような反応が起こるのでしょうか。

三輪

免疫ですから、ワクチンと同じで、アナフィラキシーショック、あるいはそれに類するようなものが起こる可能性があります。ですから、一度確かめていただいて、初回がよければ通常は大丈夫と考えますので、2回目からは自宅でということになります。

池田

これを毎日でしょうか。

三輪

毎日です。

池田

毎日はなかなか厳しいですね。どのくらいの期間やるのでしょうか。

三輪

免疫というのは忘れやすいシステムですから、3~5年。最低3年、できれば5年というのが目標になっているようです。

池田

3~5年はちょっと長いですね。それを毎日やるのですね。

三輪

毎日やらないといけないのです。

池田

例えば出張とかで途中でやめてしまうと、効果が薄れてしまうのでしょうか。

三輪

ブースト効果ということになるので、できれば毎日。ただ、なかなかその辺のアドヒアランスが難しい。子どもと大人を比べると、大人のほうが難しい場合が出てきます。

池田

いろいろな仕事があったり、忙しいですからね。それから、投与は長期にわたりますが、いつ頃から効果が出て、そしてそれはどういう方法で判定するのでしょうか。

三輪

非常に重要な問題で、スギの花粉症というのは梅の花の咲くぐらいからゴールデンウイークまでになっていますが、だいたい免疫療法はシーズンオフから始めます。例えば夏から始めて、そうすると翌年のシーズンになったら効いているという期待を込めてやるのです。ただ、初年度から効いている人もいれば、翌年から効くような人もいるので、それは人それぞれです。考え方としては、3~5年やれば半永久的に免疫がついているという判断でお勧めしています。

池田

効果と判定法はその方の症状によるのですね。

三輪

おっしゃるとおりです。実はこういった免疫療法のバイオマーカーは、いまだにあまりはっきりとしたものがどのようなものでもないので、症状から効果を判定することになります。

池田

スギ花粉抗原でチャレンジするわけにもいきませんね。

三輪

そのとおりですね。例えば皮下免疫のチャレンジテストであれば、副反応ではありますが、皮下注射をしたところの発赤の程度である程度反応がわかりますが、舌下免疫の場合はなかなか難しいですね。

池田

その辺は症状を観察していくということですね。

三輪

そうですね。

池田

小児における適応について質問があるのですが、何歳以上なのでしょうか。

三輪

一応5歳以上ということになっています。

池田

先ほどうかがった、舌下にまず1分ほど入れて、それから飲み込む。なかなか小さなお子さんだと難しいですね。

三輪

はい。指導はするのですが、意外と難しい場合がありますね。

池田

逆に飲み込むだけではだめなのでしょうか。

三輪

飲み込むだけの治験はやっていないと思いますが、やはり舌下が大事だと思います。

池田

確かに舌下に入れる、昔、ニフェジピンなどでもありましたが、直接静脈系に入れるのが大切なのですか。

三輪

おっしゃるとおりです。

池田

消化管に入ってしまうと分解されてしまうということですね。

三輪

そうですね。

池田

そこが問題ですね。次にダニアレルギーに対する舌下免疫療法ですが、やはり同じようにやっていくのでしょうか。

三輪

おっしゃるとおりです。ダニの場合は製剤が全世界共通ですから、ヨーロッパの導入品は2社が別のものを販売しています。どちらかが1分で、どちらかが2分ですが、舌下でまず投与して、その後服用するかたちだと思います。

池田

同じパターンですね。適応となる症例はどのようなイメージでしょうか。

三輪

唯一の根本的治療が免疫療法ですから、ダニアレルギーが確定している人は、重症、軽症を問わず適応になると思います。

池田

この場合も初回は医師の前で舌下をしてから飲み込んで、30分は様子を見るのですね。

三輪

おっしゃるとおりです。

池田

投与期間はどのくらいなのでしょうか。

三輪

これも最低3年、目標5年になっています。

池田

やはり長いですね。

三輪

はい。

池田

ダニアレルギーは通年性だと思うのですが、これも効果判定は症状の推移を見るのですか。

三輪

そうですね。免疫療法のバイオマーカーは様々な研究がありますが、いまだにこれといった決め手になるものがないので、症状で判定しています。

池田

ダニアレルゲンですと、検査用の試薬のようなものもありますよね。これで例えば皮内反応やスクラッチテストなどは見られるのでしょうか。

三輪

それもやっていいと思います。ただ、皮内反応の場合はあくまでも副反応という見方もあるので、例えば皮下免疫をずっとやっている人でも、いつまでたっても発赤などの副反応が出る人がいるのです。免疫がついているにもかかわらずという症例もありますが、一つの指標にはなると思います。

池田

なかなか判定が他覚的にしにくいですね。

三輪

そうですね。

池田

この対象症例も小児を含むのでしょうか。

三輪

5歳以上の小児です。スギの場合はエキスを入れる感じで液体状のものを投与していたのですが、舌下錠のほうがより効果的だということになり、ダニもスギも錠剤になっています。

池田

不思議なのは、年齢を問わず同じ錠剤なのですか。量的な問題はないのでしょうか。

三輪

そうなのです。たくさん錠剤の用量を作れないからというわけではないと思うのですが、例えば注射の皮下免疫であればきめ細かにできるものの、舌下の場合は2段階あるいは3段階の投与方法になっているので、どどんっと上げるだけになっています。

池田

そうなのですか。大ざっぱな感じですね。

三輪

そうです。

池田

本当は最初にうかがったほうがよかったのかもしれませんが、この作用機序はどのように考えられているのでしょうか。

三輪

これもいろいろな説があって、いまだに決定的なものはないのです。ご承知のように、アレルギーのバイオマーカーができると、それに対して免疫療法はどう動くかが様々に研究されていて、いろいろ有力な説はあるのですが、決め手はないと、少なくとも私は理解しています。

池田

食物アレルギーでもよく脱感作のために食べるようなことをやっていますね。それを経粘膜的に静脈に入れてしまうイメージでしょうか。

三輪

そうですね。

池田

ということは、ある程度抗原の三次元構造が必要ですね。

三輪

そうかもしれません。

池田

そしてそれが血中に入って免疫細胞と出会って、何らかの反応があるということですね。

三輪

はい。

池田

これからその辺の基礎研究も進めなければいけない領域だと思います。ありがとうございました。