山内
子どもの潰瘍性大腸炎はまれな疾患という印象がありますが、いかがでしょうか。
土屋
10年ほど前までは数の少ない病気でしたが、最近、大人も含めまして患者さんが非常に増えています。それに合わせて小児も、それから高齢者も増えているという状況ですので、決して珍しい病気ではなくなってきたと感じています。
山内
子どもといいますと、何歳ぐらいから出てくるものでしょうか。
土屋
だいたい10代から発症するといわれていますが、最近はまれに1歳ぐらいから発症する方もいますので、そういった方はなるべく早めのフォローを心がけています。
山内
よくメンタルが絡む、絡まないというのが昔から議論になっていますが、1歳ですとメンタルともいえないですね。
土屋
そうですね。もともと環境的な要素がかなり多いといわれていますが、1歳となると、遺伝的な背景というのも十分あるのではないかと考え、今までの標準治療に少し工夫や注意点が必要ではないかと考えています。
山内
この場合、両親も1歳ぐらいで罹患していたケースが多いのでしょうか。
土屋
これはいわゆる遺伝病ではありませんので、必ずしも両親が同じ病気ということはありません。家族歴で多少いらっしゃる方はありますが、必ず両親とも病気というわけではないです。
山内
子どもといっても、基本的には病態、症状、あるいは診断は、成人と変わらないと見てよいのでしょうね。
土屋
そうですね。成人と同じと考えていいと思います。
山内
子ども独特となりますと、例えば症状などをうまく表現できないといった問題も出てくるでしょうね。
土屋
そうですね。子どもはなかなか自分の症状を理解できないということと、それをうまく伝えることができないということ、さらに、それを親がうまくキャッチできないということもありますので、大人の病気の発症よりも病院に行くまでに時間がかかるという問題は確かにあります。
山内
早期発見がやや遅れる。
土屋
そうですね。
山内
結果的にはそれで少し重症度が増すと考えてよいのでしょうか。
土屋
そうですね。重くなってからいらっしゃる方が多いので、なるべくこういった病気のことを皆さんにわかっていただいて、早めに病院にかかっていただくというのも大事なことではないかと思っています。
山内
さて、そこで成人への移行(トランディション)ですが、こういう話題は最近ほかの疾患でも見るようになってきました。要するに小児科から成人、内科系へどううまくスムーズに移行するかというニュアンスがあるかと思いますが。
土屋
そうですね。
山内
この病気ですと、どういったものが話題になっているのでしょうか。
土屋
炎症性腸疾患自体の治療は、小児でも大人でも変わりはなく、医療上の問題はあまりないのが現状です。ただ、先ほど申し上げたように、小児の場合だとなかなか自身の症状を伝えにくい。それから、難病で一生付き合っていくということもあり、今後の治療方針を自分で決定できないというところもあります。そういった自身の認識や判断力というものを見ながら、小児から大人の医療に移行することを心がけています。
山内
薬の量のさじ加減的なものは当然変わってくるのでしょうね。
土屋
そうですね。体重当たりで薬の量を換算しているので、それはあるときからいきなり量が増えるということではなくて、そのときの体重に合わせて徐々にということです。これに関してはあまり移行するという感覚はありません。
山内
例えば急にがらっと変わることはないかもしれませんが、大人になってきて病勢が強くなる、弱くなる、良くなる、悪くなる、こういったあたりはいかがでしょうか。
土屋
病気そのものの要因として、大人になったから悪くなるとか、そういったものはないと思います。ただ、どうしても大人になると、受験や就職などでなかなか治療にかける時間が本人の中で取れなくなってくる。そうすると、中には治療を中断してしまったり、決められた量の薬をのめなかったり、そういったことが一番大きな要因として、病気が悪くなるケースがあり、我々も注意しているところです。
山内
さらに年を取っていくにつれて、そういったストレス、環境因子も減っていき、軽くなってくると考えてよいのですか。
土屋
これは一生付き合っていく病気ですが、50歳、60歳になってくると、だんだん免疫力活動性も落ちてきますので、この病気はだんだん落ち着いていくような傾向にはなってきます。
山内
そこまで長いお付き合いを医療関係者はやっていかないとだめなのですね。
土屋
そうですね。
山内
そうなりますと、医療体制をどうするかという問題が出てきますが、今、日本では小児科と内科が分かれています。ほかの疾患などでもしばしば問題になって、なかなか患者さんの小児科離れができないというのをよく耳にしますが、潰瘍性大腸炎はいかがですか。
土屋
全く同じ問題を抱えていると思います。患者さんがかなり多くなっている状況で、それを診療する医師の数がまだまだ足りない状況だということと、先ほどおっしゃったように、小児科とか消化器内科というかたちで我々は標榜しているので、その中でどの医師が難病の潰瘍性大腸炎を診療しているのかは外から見えにくい状況になっていると思っています。
山内
この病気は難病のイメージがあるので、専門医が少ない印象がありますが、いかがですか。
土屋
医師側も少し専門性がないと診られないのではないかと、ちょっとひるんでいる要素もあると思います。最近では難病の中でもこういった潰瘍性大腸炎など、患者さんの数が多い場合には、コモン難病という呼び方をして、我々も難病とはいえ少しハードルを下げた状態で診療するような体制を整えていかなければいけないのかなと思っています。
山内
理想的には、小児科、内科とあまり区別をつけずに、壁なしで交流していく。医師も交流していったほうが望ましいでしょうね。
土屋
そうですね。日頃から小児科医と我々、外科も含めて、一人の患者さんに対して情報を共有する体制が必要ではないかと思っています。
山内
筑波大学ではこのあたりはいかがなされているのでしょうか。
土屋
幸い我々医師の居室がたまたま小児科医と一緒ですので、普段から小児科医と顔を合わせていたり、小児科医も積極的に消化器内科のカンファレンスに参加してもらったり、あと外科医ともカンファレンスを行ったりと、状態が悪くなった患者さんの情報をなるべく共有するような体制を整えています。
山内
小児科のほうは比較的専門性がないといいますか、専門医が多くはないという印象がありますが、内科は専門医はいかがでしょうか。
土屋
実はまだ専門医制度ができていない状況で、消化器内科の専門医としては多いのですが、潰瘍性大腸炎を含めた難病の専門医となると、そもそもそういった仕組みがないこともあり、まだまだ少ない状況です。
山内
少し具体的な小児独特の問題についてお話をうかがいます。子どもの場合、成長、発育がありますので、栄養補給をどうするかという大きな問題があるかと思います。どういった対応がなされているのでしょうか。
土屋
なかなか食事が取りにくいとか、下痢等で栄養が消耗してしまうこともあります。特にステロイドを長年使ってしまうと成長障害をきたしてしまうために、いかにそういった障害をきたさないような薬の量で落ち着かせるか、また、栄養に関しても、成分栄養剤なども使いながら、なるべく栄養を保つように体を整えていくようにしたいと思っています。
山内
ステロイド以外の薬剤も普通に使われていると考えてよいのですね。
土屋
そうですね。アミノサリチル酸製剤など軽症用の薬も使っていますし、最近では生物学的製剤など、かなり重症でも使えるような薬も出てきていますので、そちらを使いながらということになっています。ただ、生物学的製剤は感染症のリスクがあるので、そこはご両親とご本人とよく話し合いながら使っていくことになると思います。
山内
日常の食事に関してですが、どういったものを食べればよいのでしょうか。
土屋
そもそもかなり欧米食になってこの病気が増えてきたというのもあります。肉や乳化剤、アイスクリームなどが腸に悪さをしているというのもありますので、なるべくそういったものを避けていただければいいかと思っています。
山内
肉はどうなのですか。
土屋
赤身の肉などはなるべく避けていただいたほうがいいと思います。
山内
魚は大丈夫ですか。
土屋
魚は大丈夫だと思います。ただ、個人個人でどの食べ物がだめというのはなかなか言いづらいところですので、合う・合わないなどは、患者さんごとにお話を聞きながら、「じゃあこれはちょっと避けてみましょうか」というように話を進めています。
山内
基本的には食事にそう気を使わなくてもいいと考えてよいですか。
土屋
そうナーバスになる必要はないと思います。
山内
意外に太っている方も多い印象がありますね。
土屋
そうですね。
山内
もう一つは精神面のサポートですが、どういった取り組みがなされているのでしょうか。
土屋
難病で、一生の付き合いになること、なかなか完治しないというところもあるので、医師だけではなく、コメディカルも含めたサポート体制が非常に重要だと思っています。あとは、病気をなるべく理解して、正しく怖がるではないですけれども、正しい理解を身につけていただくことを心がけています。
山内
医師もいろいろな病気の専門医が来て分担するというかたちでしょうか。
土屋
そうですね。これから様々な病気が出てくると思いますので、それぞれに合わせたサポート体制が必要ではないかと思っています。
山内
ありがとうございました。