池田
濾胞性リンパ腫の治療と予後について質問なのですが、これはどのようなリンパ腫なのでしょうか。
伊豆津
濾胞性リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の一つで、B細胞から由来するリンパ球のがんです。おとなしいタイプ、低悪性度リンパ腫の一つです。
池田
リンパ節腫脹などが全身にあればわかりやすいと思うのですが、偶然何かの検査で見つかることもあるのでしょうか。
伊豆津
今は人間ドックや健診で腹部超音波をよく行うと思いますが、腸間膜とか傍大動脈という後腹膜のリンパ節が腫れているのが見つかって、その生検で診断されることがよくあります。
池田
リンパ腫といいますと、発熱、それから末血に何か出るとか、そのようなことはあるのでしょうか。
伊豆津
進んだ状態では全身症状を起こすことがありますが、濾胞性リンパ腫では発熱などの全身症状を起こすことはまれです。血液中に腫瘍細胞が出てくることもあるのですが、血液検査所見で異常が出ることはむしろまれだと思います。
池田
リンパ腺が腫れているか、あるいはほかの検査で見つかるかですね。濾胞性リンパ腫で何か症状が出る方はいるのでしょうか。
伊豆津
表在リンパ節が腫れている場合はご自身で気づかれることもあります。あとは後腹膜のリンパ節の腫大によって静脈が圧排されて下肢の浮腫を起こしたり、CTまたは超音波検査で水腎症がわかったり、そういった異常がきっかけで見つかる方はいます。
池田
ある程度進んだ状態で見つかるのでしょうか。
伊豆津
リンパ腫はステージ1~4に分けられていますが、濾胞性リンパ腫ではステージ3または4の進行期で見つかる方が80%以上です。
池田
それでも何か特別な症状がない限りわからないのですね。
伊豆津
はい。
池田
今ステージについてお話がありましたが、診断と病期診断はどのように行われるのでしょうか。
伊豆津
濾胞性リンパ腫は病理組織学的に診断されます。比較的正常なリンパ節と似たような組織像を取るのが一般的ですが、形態だけではなくて、様々な免疫染色やフローサイトメトリーなどの免疫形質の検査、それから染色体検査などを併用して病理組織学的に診断されます。ステージ、病期診断はPET-CTや骨髄検査などを併用して行います。先ほどお話ししたように、リンパ節腫大が横隔膜の上下両方にあるステージ3以上や骨髄に病変があるようなステージ4、いずれかである場合が80%以上です。
池田
本当に進んだ状態で来るのですね。
伊豆津
はい。
池田
そういったアドバンスト・ステージにある場合、どのような治療をされるのでしょうか。
伊豆津
濾胞性リンパ腫は進行期で見つかることが多いのですが、幸い進行が非常にゆっくりなことが多いです。そして、症状がなく、臓器障害などがない状態で見つかった場合には、しばらく経過観察をする。Watch and Waitが一般的な方針です。早めに治療をすればいいではないかという考え方はありますが、残念ながらこの病気は先取りして化学療法などを行っても、一定の副作用がある一方で治癒を目指すことができない。いずれは再発してしまうため、無症状であれば治療をせずに経過観察をするのが一般的です。
治療が必要な場合、ある程度の大きさの病変があるとか、浮腫とか水腎症など、リンパ節が腫れることによって何か問題が起きているような場合には、抗CD20抗体を併用した化学療法が行われます。抗CD20抗体というのはB細胞の表面マーカーで、これに対する抗体、代表的なのはリツキシマブですが、それを併用した化学療法を行います。
池田
この併用の療法はよく私も聞くのですが、R-CHOPとか、そういう名前のものでしょうか。
伊豆津
はい。代表的なものにはRCHOPと、あとはベンダムスチンを併用したRベンダムスチン療法があります。CHOP療法のドキソルビシンには、脱毛が合併症としてありますが、ベンダムスチンには脱毛がないため、最近は濾胞性リンパ腫に対する初回治療としてベンダムスチンがよく使われます。
池田
この療法だと、どのくらいの頻度でremissionになるのでしょうか。
伊豆津
濾胞性リンパ腫の患者さんは、CTで見ると30%ぐらいの方が完全奏効になります。ただ、最近はリンパ腫の治療効果判定はPET-CTで行いますが、この基準だと70~80%の方が完全奏効、CRに至ります。
池田
CRになったら、またそこでWatch and Waitになるのでしょうか。
伊豆津
CRになった患者さんの一つの選択肢としてはその後、抗CD20抗体を維持療法として約2年間継続していく。それによって再発を先送りにできることが示されています。もう一つの方法は、そこで治療をいったん終了して経過観察をすることです。濾胞性リンパ腫は化学療法によって治ることが期待できないので、残念ながら数年から十数年の経過で再発してしまう方がほとんどです。
池田
イメージとして、最初に低悪性度とうかがったので、そういった治療で治ってしまうのかと思ったら、完璧に治ってしまう方は少ないのでしょうか。
伊豆津
完璧に治ってしまうのは、まれにみられる限局期の患者さんで放射線治療が行われた場合ぐらいで、残念ながら現在の治療では濾胞性リンパ腫は治しきることは難しいと考えられています。
池田
長い時間を空けてまた出てくる、それは形質転換のようなものによるのでしょうか。
伊豆津
再発するときはまた、おとなしい、ゆっくりとしたタイプの濾胞性リンパ腫として再発することが最も多いです。ただ、一部の方は組織学的形質転換といって、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの経過が早いタイプに変化してしまうことがあって、その場合はより強力な治療が必要になります。いずれにせよ、再発した段階でまた治療を繰り返すことが必要になります。
池田
低悪性度のもので再発した場合には、また同じようにやっていくのですね。
伊豆津
はい。
池田
やはり同じようにリツキシマブを使った化学療法でしょうか。
伊豆津
リツキシマブや、最近は新しい世代の抗CD20抗体、オビヌツズマブというものがあるので、それを併用した化学療法や、レナリドミドという免疫調整薬やEZH2阻害薬(分子標的薬)なども治療選択肢に入ってきています。
池田
そしてまた運よくCRが得られれば、そのまままた経過フォローということですね。
伊豆津
はい。CRにならなくても、十分な腫瘍縮小が得られたら、それで治療目標を達成したと考えます。
池田
ちょっと悪性度の高いものに変わった場合は、どうされるのでしょうか。
伊豆津
悪性度の高いものに変化した場合には、より強力な化学療法として、例えばR-CHOP療法や、さらに強力な化学療法などが選択肢になりますし、最近はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に承認されたCAR-T細胞療法なども選択肢になります。
池田
よくCAR-Tというのを聞きますが、具体的にはどのような治療なのでしょうか。
伊豆津
CAR-T細胞療法はリンパ腫の患者さんからまずリンパ球を採取します。採取したリンパ球を製薬企業のCAR-T細胞の製造施設に送り、そこでキメラ抗原受容体遺伝子というものを形質導入します。いわば遺伝子治療をして、患者さん自身のT細胞が腫瘍細胞に結合して増えるような機能を与えます。その遺伝子が導入された患者さん自身のリンパ球をまた患者さんに戻す治療で、患者さんの体の中ではキメラ抗原受容体が導入されたT細胞が腫瘍細胞と結合して、その細胞が増えて活性化することによって抗腫瘍効果を発揮する治療です。
池田
悪性腫瘍の表面にある抗原に対するキメラ抗体ですか。
伊豆津
はい。
池田
そういったものが導入された患者さんの正常なリンパ球を返していく。
伊豆津
CAR-T細胞療法では患者さんの濾胞性リンパ腫の細胞の表面にあるCD19を標的としています。ちょうどリツキシマブがCD20に対する抗体であるのと同様に、同じB細胞の表面抗原であるCD19を標的とした治療です。
池田
逆に言いますと、患者さんのリンパ球というのはT細胞を使うのでしょうか。
伊豆津
そうです。
池田
人工的に教育したT細胞を戻して、それが腫瘍細胞のCD19に反応して殺していくということですね。
伊豆津
おっしゃるとおりです。
池田
腫瘍細胞というのは、どんどん形質転換が進んでいくイメージですが、あるときにCD19も出さなくなってしまう細胞などはあるのでしょうか。
伊豆津
それはありえます。ただ、それは比較的頻度が少ないとされているので、CAR-T細胞療法後の再発の場合にはそうなのですが、CAR-T細胞療法前にCD19の発現が消えることは少ないといわれています。
池田
では1回やってうまくいけば、そのまま効いていくのですか。
伊豆津
残念ながら今のところはCAR-T細胞療法は必ずしも万能な治療ではなくて、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫や形質転換を起こした濾胞性リンパ腫の30%ぐらいの方がCART細胞療法後、長期生存できる、治癒が期待できるとされています。
池田
30%ぐらいなのですね。
伊豆津
はい。
池田
有効であるか、そうでないかは、どの辺が目安になるのでしょうか。
伊豆津
効果が出るのは、治療後3カ月目あたりのCT、またはPET-CTで完全奏効が得られることがまず第一の目標です。そうなったとしても、一部の方は再発してしまいますが、いったん3カ月目にCRが得られた患者さんでは、そのまま治癒が得られる可能性が高いということになります。
池田
その時点での効果を判定しているのですね。やはりPET-CTですね。
伊豆津
はい。
池田
それならわかりやすいように感じました。ありがとうございました。