ドクターサロン

 大西 大野先生、本回は「低い尿酸値を診たら」というテーマでお話をうかがいたいと思います。
 尿酸値が低いケースというのは、普段の臨床で気にしないこともあるので、低尿酸血症の定義を教えてください。
 大野 一般的には男女とも血清尿酸値2㎎/dL以下を低尿酸血症としています。
 大西 疫学的なことをうかがいたいのですが、血清尿酸値が2㎎/dL以下の方というのはどれぐらいいるのでしょうか。
 大野 健康診断のデータなどから、男性で0.2%ぐらい、女性で0.4%ぐらいといわれています。
 大西 案外いるのですね。あまり気にとめていなかったのですが。
 大野 それはそうだと思います。
 大西 低尿酸血症の病態として、腎性低尿酸血症があると聞いているのですが、そのあたりから教えていただけますか。
 大野 尿酸は腎臓の糸球体でほとんど100%ろ過されるのですが、終末尿に出てくるのは10%ぐらいなのです。したがって、尿酸の約90%が腎臓で再吸収されるのですが、その再吸収に関与するトランスポーター(輸送体)が遺伝的に欠損している方が腎性低尿酸血症になります。また低尿酸血症のほとんどが腎性低尿酸血症といわれています。
 尿酸トランスポーターには、腎臓の近位尿細管の管腔側にあるURAT1というトランスポーターと血管側にあるGLUT9というトランスポーターがあり、そのどちらに障害があっても低尿酸血症になるといわれています。
 大西 低尿酸血症は、尿酸の排泄が亢進するタイプと、尿酸の産生が低下するタイプと、大きく2つに分かれると考えてよいでしょうか。
 大野 そうですね。先ほどの腎性低尿酸血症というのは、いわゆる尿酸の排泄が亢進するタイプで、腎臓で再吸収できないために、そのまま尿から外に出てしまうというかたちです。もう一つは尿酸の産生が低い方、これは非常に少ないのですが、キサンチン尿症などが代表的な疾患になります。低尿酸血症のほとんどが排泄亢進タイプの腎性低尿酸血症であると考えてよいだろうと思います。
 大西 遺伝子変異が2通りあるということですが、1型と2型で病型とか、何か違いがあるのでしょうか。
 大野 先ほどのURAT1というトランスポーターが欠損したものが1型、それから血管側にあるGLUT9が欠損したものが2型といわれていますが、ほとんどが1型ではないかといわれています。またGLUT9の欠損である2型のほうが低尿酸血症の程度がひどいといわれています。
 大西 遺伝性だとすると、小さい頃から尿酸値が低いと考えてよいのでしょうか。
 大野 そうですね。
 大西 大人になるまでずっと持続しているのですね。
 大野 はい。
 大西 診療の進め方ですが、2㎎/dL以下の人を見たら、次にどのような検査をしていったらよいのでしょうか。
 大野 低尿酸血症、特に腎性低尿酸血症には合併症があります。合併症というのは、そんなに多くはありませんが、運動後の急性腎障害を起こしたり、尿中尿酸排泄量が非常に多くなるものですから、尿路結石症というかたちで表れ、そういうものを契機に調べていく人もいるのですが、大部分の人が健康診断で低尿酸血症を指摘され検査することになります。
 血清尿酸値2㎎/dL以下の人を見た場合の検査は、いわゆる尿酸の排泄が亢進しているのか、もしくは産生が低下しているのかを見るために、尿中の尿酸を検査することになります。もう少し詳しく言いますと、尿酸のクリアランスや尿酸排泄量を見て検査を進めていくのです。
 大西 それで診断をつけていくと考えてよいのですね。
 大野 はい。
 大西 先ほどキサンチン尿症のお話がありましたが、低尿酸血症の鑑別疾患の一つだと思うのですが、鑑別にはほかにどういった疾患があるのでしょうか。
 大野 排泄亢進タイプでは、その代表的なものが腎性低尿酸血症になりますが、そのほかに例えば尿酸は尿細管で再吸収されますので、尿細管が障害されるファンコニー症候群などがあります。また、SIADHなども出てきますが、そのほかの随伴症状がありますので、鑑別はある程度容易ではないかと思います。
 大西 先ほど合併症で2つ大きなものをお話しいただきましたが、まず運動後の急性腎障害について教えていただけますか。
 大野 運動後急性腎障害というのは、特に無酸素運動、例えば運動会の練習や全力疾走などの際に風邪などで熱があり、NSAIDsとかをのまれていて、それで無理して練習に参加したようなときに起こることが多いとされています。側腹部から背部の痛みで発症することが多いです。それで調べてみると、腎結石などの所見はなく、血清のクレアチニンが上昇している。過去に腎障害はないのに急性腎障害を起こしているようなケースが多いようです。
 大西 多くは一過性におさまるものなのでしょうか。
 大野 そうですね。場合によっては、一過性に透析療法をしなければいけない方も中にはいるようですが、ほとんどは保存的治療で回復します。
 大西 短期的な予後は比較的よいと考えてよいのですね。
 大野 はい。そういうものは繰り返すと腎臓にダメージをきたしますので、それで初めて低尿酸血症だと判明した際には生活指導等をしていくかたちになると思います。
 大西 予防する方法は何かありますか。
 大野 先ほど申しましたように、熱が出ている、それからNSAIDsをのんでいるのが危険因子になるのですが、そういうときにはあまり無理して運動をするなということになります。状況によっては運動をしないわけにもいかないこともあるので、数回繰り返すような人には、あまり一般的ではありませんが、アロプリノールを使用する場合があります。例えば尿酸値が低いということは血液中の尿酸による抗酸化作用が低いことを意味し、それが病態にも関係しているのではないかという考えがあります。すなわち、無酸素運動の際に活性酸素が出て、それを消去するために抗酸化物質である尿酸があるわけですが、それが低いと、活性酸素が十分に消去できずに、腎血流が悪くなって急性腎障害を起こすという仮説があります。低尿酸血症には、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるアロプリノール等を使って、活性酸素を抑制することが運動後急性腎障害の抑制につながるのではないかとする報告があります。
 大西 意外な薬を使うのですね。
 大野 そうですね。ガイドライン等で推奨されているわけではないのですが、場合によってはそういう報告例があるとされています。
 大西 もう一つの合併症で尿路結石に気をつけなければいけないということですが、そのあたりを教えていただけますか。
 大野 尿路結石は通常の痛風、高尿酸血症の方と一緒ですが、尿酸の尿中排泄が多いですから、いわゆるプリン体が多いものを控えていただいたり、尿量を増やすために飲水量を増やしていただいたり、それから尿酸は酸性尿では結晶化が起こりやすいので、尿のアルカリ化をきたすような、例えば海藻や野菜などを食べていただくというような通常の高尿酸血症のときの尿路結石と一緒の対策です。
 大西 普通は尿酸値が高いと起こしやすくて、気をつけなければいけないと思うのですが、低くても起きるのですね。
 大野 そうですね。これはいわゆる尿中尿酸が高いというのが問題ですから、尿中尿酸をいかに下げるかが大事になります。
 大西 この2つに気をつけるということですね。
 大野 そうですね。
 大西 合併症を発症しやすい年齢はあるのですか。
 大野 年配の方は少ないと思いますが、それは先ほど申しました運動会の練習やクラブ活動などのアクティビティとも関係するのかもしれません。
 大西 ありがとうございました。