ドクターサロン

 齊藤 食事、運動、薬物と尿酸値ということでうかがいます。 まず、高尿酸血症の方を見た場合に、どういった点から先生は入っていきますか。
 杉原 患者さんに対して一番基本となるのはやはり生活指導だと思います。生活指導には、食事、飲酒の制限、また運動の奨励、この3点をいつも先にお話しするようにしています。
 齊藤 そういったものをしっかり長く続けていくということですね。食事についてはどういった点を強調されますか。
 杉原 食事は適切なカロリーを摂取して体重の適正化を図ること、高プリン食である肉類、魚類などを控えること、また果糖の過剰摂取の回避やアルコールの制限、適切な飲水量を確保するということをお話ししています。
 齊藤 まず体重の適正化ということですが、そのゴールはどうされていますか。
 杉原 BMI22をベースとした個人の標準体重を算出し、それが目標であることをまずお示しします。急激な減量は避け、1カ月3%程度の減量で、時間をかけて目標に到達するようにお話しします。
 齊藤 ゴールを見つめて、まず食事ということで、具体的には肉、魚をほどほどにと、それから野菜を多めということですか。
 杉原 そうですね。基本的にはバランスのいい食事を目指すようにお伝えしています。主食のごはんやパン、麺などはプリン体が比較的少ないですが、カロリーの面から腹八分目にしていただく。主菜の肉、魚はプリン体が多めなので過剰な摂取は控えることが必要です。しかし蛋白質の摂取は筋肉の維持の面から大事ですので、大豆製品や卵を代用としてしっかり取っていただく。また、プリン体は水溶性ですので、肉や魚などでも煮汁を捨てるなど調理方法を工夫することもよいと思います。それに合わせて副菜として野菜や海藻などのアルカリ性食品を取ること、ビタミンやミネラルの補充も大事です。
 齊藤 間食のお菓子については何かありますか。
 杉原 やはり過剰な間食は肥満、内臓脂肪の蓄積につながりますので、それもほどほどにという言い方をしています。
 齊藤 果物はどうでしょう。
 杉原 果糖はカロリーも高いですし、果糖の取り過ぎは尿酸の産生の促進と乳酸を介した尿酸排泄の低下から、尿酸の高値につながりますので、過剰摂取は避けることが必要です。
 齊藤 お酒は具体的にはどうしていますか。
 杉原 お酒のプリン体の含有量より「休肝日」をつくることが重要ということをお話ししています。アルコール量は同じでも休肝日のない人のほうがある人と比較して血清尿酸値が高いことが知られています。またお酒の種類によってプリン体の含有量が違いますので、それを踏まえたうえで例えば日本酒であれば1合、焼酎であれば90mL、ワインであればグラス1杯、ビールであれば中瓶の500mLぐらいというような具体的な飲酒量をお話しするのがよいかと思います。
 齊藤 お酒を飲むと脱水になることもありますが、水分量については何かおっしゃっていますか。
 杉原 適切な水分量を取って尿量を確保するというのは尿路結石予防に重要ですので、基本的に腎機能に問題がない方でしたら、1日、食事以外に2~2.5L、しっかり水分を取っていただく。また、運動の後にはそれにプラスアルファで補っていただくことが重要だと思います。
 齊藤 食事についてのアドヒアランスについてはどうですか。
 杉原 痛風の患者さんのアドヒアランスは極めて悪いことがわかっています。高尿酸血症や痛風の方には目の前の尿酸値だけを考えるのではなく、尿酸の上昇は脳血管障害のリスクとなり、心不全や不整脈、腎臓病などの全身性の疾患と関連することをお話しします。将来の自分の健康を守るのは現在のあなたの生活習慣にかかっています、というような大きな視点をお示しするのが大事かと思っています。
 齊藤 医師は話したつもりでも、患者さんは覚えてなくて、何のためにやってるのかな、みたいなことをどうも思ったりしているようなので、そういう部分は繰り返し話していかないと忘れてしまうようですね。
 杉原 医師が話したつもりでも、患者さんにはなかなか伝わっていなかったり、忘れてしまったりということは本当によくあることです。診療のたびに、治療の目的やゴールを確認することは非常に重要と思います。
 齊藤 次に運動はいかがでしょうか。
 杉原 運動は肥満の是正とメタボリックシンドロームの予防ということでとても重要ですが、短時間の激しい運動というのは逆に筋原性の高尿酸血症をきたし、痛風のリスクとなることがわかっています。そのため基本的に運動強度は少し脈が速くなるぐらい、ボルグ指数で11~13ぐらいの有酸素運動を1日30~60分、週3回程度が適切だと思います。
 齊藤 先ほどアドヒアランスの問題がありましたが、開業医の臨床現場ではなかなか忙しくて、尿酸値が高い患者さんがみえて、一通りご説明して、「何かあったらまた来てください」みたいな対応になりがちかと思うのですが、継続的につながっていくということでしょうか。
 杉原 そうですね。尿酸値はただ見えている分だけであって、それ以外に全身性の疾患につながるリスクを大きく含んでいるということで、やはり継続的に通院していただき疾患教育を続けることが一番重要だと思います。
 齊藤 それから薬との関係についてですが、まず尿酸を上げるものにはどういうものがありますか。
 杉原 尿酸値を上昇させる循環器薬としてよく知られているものが利尿剤(サイアザイド系、ループ利尿薬)、またβブロッカーなどです。ほかに呼吸器薬では喘息の治療薬であるテオフィリン、結核の治療薬のピラジナミドなどがよくいわれております。また、少量のアスピリンなども尿酸を上げるといわれておりますし、近年のCOVID-19の治療薬として開発されている、ファビピラビルも尿酸値を上昇させることが報告されています。
 齊藤 逆に尿酸を下げる薬もありますね。
 杉原 高尿酸血症の方はメタボリックシンドロームや2型糖尿病の合併が多いので、その治療薬はできるだけ尿酸の低下作用のある薬を積極的に使っていきたいと思っています。具体的には、高血圧薬ですとARBのロサルタンカリウム、イルベサルタン、また長時間作用型のカルシウムブロッカーであるニフェジピン徐放製剤やアムロジピンなどは尿酸低下作用が報告されています。また、糖尿病に関しては、SGLT-2阻害薬のルセオグリフロジン水和物が尿酸値を低下させるといわれていますので、積極的に使用します。
 齊藤 こういった高血圧あるいは糖尿病の患者さんでは、そういったものを選んで、尿酸も合わせてコントロールできればさらによいということですね。
 杉原 はい。
 齊藤 生活改善の後に尿酸を下げる薬を使っていくタイミングがあると思いますが、どういったポイントがありますか。
 杉原 治療に関しては6・7・8のルールに準じます。まず血清尿酸値が7㎎/dL以上は高尿酸血症であり、8㎎/dLを超えると、腎障害、高血圧、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの合併症がある方は薬物治療も考慮します。治療目標は血清尿酸値を6㎎/dL以下に維持します。
 齊藤 尿酸は生活改善で頑張るとどのぐらい下がりますか。
 杉原 生活習慣の改善で血清尿酸値1㎎/dL程度は低下しますが、生活習慣の改善だけで6㎎/dL以下を維持することが難しい場合があります。その際は薬剤の追加を考えます。
 齊藤 薬を嫌がる方も多いですが、そこは目的をしっかりお話しして、そちらを選択するようにともに決めていくということでしょうか。
 杉原 そうですね。やはり何度もお話ししながら、納得していただいたうえの治療選択が必要だと思います。
 齊藤 どうもありがとうございました。