ドクターサロン

 齊藤 今回は尿酸の排泄、今まで行われていた痛風の病型の分類が変わるという話、またそこで関わってくるABCG2という遺伝子の関わりなどについてうかがいます。
 まず、尿酸の排泄についてお話しください。
 市田 尿酸の排泄は、腎臓と腸管から主に排泄されています。食事の量によって変わりますが、全体の排泄量が1日当たり700㎎ぐらいで、腎臓から排泄されるのが1日当たり500㎎ぐらいです。ですから、2/3ちょっとが腎臓から排泄され、1/3、だいたい200㎎ぐらいが腸管から排泄されるといわれています。それ以外に、汗などいろいろなものからも排泄されますが、そちらは非常にわずかで、ほとんどが腎臓と腸管からの排泄になります。
 齊藤 腎臓から排泄される分は尿中の尿酸を測定することでわかるのですね。
 市田 はい。
 齊藤 腸管の場合はどうでしょうか。
 市田 腸管に分泌された尿酸は測定できません。測定できないというのは、腸内細菌によって尿酸が分解されてしまうので、どれぐらい腸管に分泌されているかは、便などを使って測定しようと思ってもできないということです。それは我々にとっては、ちょっと嫌だったので助かりました。
 齊藤 腸管に出ていった尿酸は基本的には壊れて、再吸収はされないのですか。
 市田 分泌された尿酸は腸管に再吸収はされないです。
 齊藤 腸管からの排泄は従来はあまり注目されていなかったですね。どうして先生はこういった点に注目したのでしょうか。
 市田 先生がおっしゃるように、尿酸の排泄は、多くの物質がだいたい腎臓からの排泄で血中濃度がコントロールされていること。それから、消化管は栄養素などの吸収に関係していても、分泌する臓器とは認識されていませんでした。ずっと長い間、腸管から1/3弱が出ているといっても、ほとんど何もやってなくて、腎臓が制御していると考えられていたのです。
 我々がABCG2の解析をするなかで、ABCG2の機能低下がある患者さんで尿中にどのようなかたちで出ているかを見たら、意外にも尿中の尿酸排泄量が増えていたのです。ABCG2は腎臓でいえば尿酸を分泌する、捨てる方向のトランスポーターですから、その機能が落ちるというのは、ABCG2を介した尿酸排泄は減るはずです。それが全体として増えるという結果になり、もう一回、代謝マップとかいろいろなものを見ながら考え直し、腸管に関してはABCG2からの尿酸排泄は減ると考えました。腎臓は、ほかにも尿酸を輸送するトランスポーターがありますので、腸管で減った分を腎臓が代わりに排泄する。そういうメカニズムを考えれば説明できることから、腎外排泄低下型を最初に提唱しました。
 齊藤 今のお話ですと、従来、痛風患者を産生過剰か排泄低下と分類していたと思いますが、その辺が変わってくるということですか。
 市田 そうですね。もともと腎臓からの尿酸排泄が多いものを産生過剰型といっていましたが、それはプリン代謝で尿酸になる量を測定していたわけではなくて、尿中に尿酸がどれぐらい出ているかを見て、毎日、大量に排泄されるので、これはたくさん作っているに違いないと命名されていたのです。我々の研究から腎外排泄低下型が実際には多いだろうとなりましたので、今まで産生過剰型と呼ばれていたのは腎負荷型としました。腎負荷型の中に、レッシュ・ナイハン症候群などの本当の産生過剰型があるので、産生過剰型と腎外排泄低下型、その2種類がサブタイプとしてあるという位置づけを提唱しました。
 齊藤 先ほどの分類から高尿酸血症の治療薬を選び分ける話もありましたが、今はどうなのでしょうか。
 市田 最初の病型によって薬を使い分けるかどうかでいうと、そこは必ず病型に従って薬を選択してくださいというわけではなくなったのです。フェブキソスタット、トピロキソスタット、最近出たドチヌラド、どれも強力な尿酸低下作用を持っているものですから、病型にかかわらず血清尿酸値を下げることができます。そのため、病型分類による薬物選択は絶対ではなくて、好ましいぐらいになったのです。
 それから、腎外排泄低下型でいえば、もちろん原因となっているところを治せば一番いいですから、消化管からの尿酸排泄を増やすことが一番理にかなっています。しかし、残念ながら現在、そういう薬の開発はされていませんし、先ほど言ったような新しい薬で十分尿酸値を下げられるので、ニーズとしてはなかなか厳しい状態です。
 齊藤 このABCG2というのは、先生がそういったかたちで別な機能を見つけたということですが、別な領域では有名な遺伝子なのでしょうか。 市田 もともとABCG2はBreast can cer resistance protein(BCRP)と呼ばれていて、乳がんの耐性遺伝子です。乳がん細胞の抗がん剤耐性の研究で、そこから何が原因かを調べていて、BCRPとしてクローニングされてきた遺伝子です。ですから、長い間、がん領域で非常に研究されていた分子です。
 齊藤 乳がんの薬に対しての抵抗性を増すということですか。
 市田 はい。例えば、抗がん剤耐性がある乳がんの細胞を、よく調べてみたらABCG2が発現していて、抗がん剤をせっせと細胞の外に出してしまう。それによって耐性を獲得していたということです。
 齊藤 そちらの領域では注目されていたわけですが、尿酸については今回、先生方が新たに役割を見つけたのですね。
 市田 そうですね。
 齊藤 ABCG2、先ほど痛風の治療戦略的には当面大きな変化はないということでしたが、CKDに関しては何かありそうでしょうか。
 市田 ABCG2を介した尿酸の腸管からの排泄を増やすことができれば、実際にはかなりメリットがあるのです。というのは、腎臓から尿酸がある程度排泄されています。そうすると、尿路結石やCKDなどを促進してしまうことが知られています。しかし、腸管からの尿酸の排泄量が増える分には、石もできませんし、何も起きません。本当に今まで必要だった尿路管理などを緩めることができるという意味では、非常にメリットがあると思っています。
 齊藤 CKDの進行を抑制する方向にいけるということになりますか。
 市田 そうですね。腎臓に対する尿酸負荷を軽減できるので、その可能性は高いと思います。それと腎障害が起きてくると尿中の尿酸排泄量が減るといわれていたのです。その理由は、ヒトでは確認できていないのですが、動物ではABCG2の発現が増えて、それで腸管からの尿酸排泄が腎臓からの尿酸排泄の減少分を補うために増えていることがわかっています。
 齊藤 腎障害と関わって、ABCG2の実験的なデータとして何か面白いデータがあるとうかがいましたが、いかがでしょうか。
 市田 インドキシル硫酸という代表的な尿毒症物質をABCG2が輸送することがわかってきました。ただ、マウスでの話ですが、ABCG2をノックアウトしただけでは何も起きないのです。生存曲線を見ても、ワイルドと同じように普通に生きていくのです。ところが、腎障害を負荷したとき、ワイルドは少し生存曲線が落ちるのですが、ABCG2のノックアウトマウスはダイナミックに生存曲線が落ちていくのです。つまりABCG2を持っていないので、インドキシル硫酸が非常に蓄積して、生存曲線が非常に下がってしまうことがわかりました。ですので、動物実験での話ですが、ABCG2の機能をなるべく維持していたほうがよさそうだというのが最近のエビデンスです。
 齊藤 腸管からの排泄に関連して、いろいろな面白いデータがあるのですね。ありがとうございました。