池田 スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症〔TEN(テン)〕とは、どのような病気なのでしょうか。
山口 SJSとTENは薬疹の一番重症な型として知られていますが、一般的には目や口唇や外陰部などの粘膜に障害を及ぼして、全身の倦怠感と発熱と皮疹、水疱やびらんが出てくるような重篤な皮膚疾患です。ほとんどの原因が薬剤であることが多いですが、そうではないものもあります。
池田 薬剤以外ですと、どのような原因なのでしょうか。
山口 一番有名なのがマイコプラズマの感染で、ヘルペスなどもたまにあります。
池田 ヘルペスでもこのように重篤な皮膚症状になってしまうことがあるのですね。
山口 はい。
池田 怖いですね。薬剤で起こるとすると、どのような薬で起こるのでしょうか。
山口 実は普段から使われているものが多くて、一番多いのが抗生物質、抗菌薬です。次は解熱鎮痛剤など、いわゆる解熱剤で、あとは抗てんかん薬などが多いと思います。
池田 比較的よく使われている薬で起こるのですね。
山口 そうなのです。
池田 例えば、ある薬を使ってまず発熱しますよね。そして何か皮膚にポチポチと出ると、「あ、これはもしかして水痘じゃないかな」と、また消炎鎮痛剤などを使ったりすることがあります。そうすると、そこでまた急に悪くなるということですか。
山口 はい。
池田 SJSとTENはどう違うのですか。
山口 一般的には同じスペクトラムの疾患と考えられていますが、SJSは粘膜障害がメインで、皮膚に関してのびらん、水疱は全体の10%未満です。日本では、この表皮壊死によるびらん、水疱が10%を超えると、TENといっています。
池田 いきなり水疱になるのですか。それとも、何かびらんといいますか、こすれたりすると、ズルッとむけるとか、そんな感じなのでしょうか。
山口 最初はまず紅斑が出てきて、そしていきなり全部むけてしまうというよりは、触って圧力をかけるとずるずるずるとむけていく。表皮が壊死していますので、表皮と真皮の間で、シート状にむけていくかたちで進みます。
池田 水疱、びらんのような面積が10%を超えてくるということですから、より重症になるのでしょうか。
山口 そうです。TENのほうがより重篤なパターンです。
池田 SJSは粘膜の症状が中心でしょうか。
山口 そうですね。皮膚粘膜移行部の病変は必須のものになっていて、口唇とか眼球の結膜と、外陰部など、全部でなくてももちろんいいのですが、このような部位に病変があるのがまず条件に入ってきます。
池田 診断はどのようにされるのでしょうか。
山口 診断は、鑑別が重要になってきます。SJSの場合は今申し上げたような粘膜の皮疹と、発熱と、皮膚も水疱やびらん、紅斑があること。あとは、時に難しいのですが、多形紅斑という別の似たような皮疹の重症型のものと鑑別ができることが条件に入ってきています。この鑑別で重要なのが、皮膚生検をして表皮の壊死性変化がきちんとあることです。
池田 多形紅斑との鑑別というのはどのようにされるのですか。
山口 臨床的に見てわかりやすい場合もあれば、皮膚科医でも違いがわかりにくい場合もあります。多形紅斑でも重症型では口唇などに水疱を伴うことはありますので。ただ、先ほど申し上げたように皮膚の生検をしたときに壊死性の変化というのは多形紅斑の重症型ではあまりないのです。あとは、少し皮膚科的ですが、多形紅斑の斑がよりターゲットというか、水疱があって、浮腫の変化があって、盛り上がったような紅斑、このようなものはEMの、多形紅斑の重症型に多いのです。一方、SJSですと、もう少しフラットな感じの融合するような、中央が暗赤色の紅斑、そういうターゲットの紅斑が多いといわれています。なかなか難しいこともあります。
池田 先ほどのSJSとTENは同じスペクトラムというお話でしたが、どうしてこの状態が起こるのでしょうか。発症機序はわかっているのでしょうか。
山口 発症機序のすべてはまだわかっていないのですが、薬が入ってきたときに、それがいわゆる薬剤特異的なT細胞を活性化させて、皮膚での炎症を起こしてくるということ、また、表皮のFasとFasリガンドの関係が表皮のアポトーシスに関連するということがいわれていました。また、最近の話では、プログラムされたアポトーシスというかたちのネクロプトーシスや、好中球によるNETsが関わっているといわれています。いずれにせよ、炎症性のサイトカインとか表皮細胞から放出される炎症性の様々な因子が表皮に壊死性の変化を起こしてくるといわれています。
池田 血中にそれが流れているから広範囲に行ってしまうのですね。
山口 そうです。
池田 そういったものを取ってしまうのも一つの治療の候補ですね。
山口 そうなります。
池田 気になるのは治療法なのですが、ある程度重症度がわかったとして、どういう治療をされるのでしょうか。
山口 TENやSJSの治療の大原則で、まずやらなければならないのは被疑薬を見つけることです。疑わしきものは全部中止、もしくはほかの系統の薬剤に変更することがとても重要です。あとはどんどん進行する炎症を止めなければいけませんので、その治療法としては全身性のステロイド治療を行うことが多いです。ステロイドの投与方法にもいろいろありますが、勢いのある場合はステロイドパルス療法が必要です。あとは、感染症など二次的に起こってくるものを予防する。そして様々な合併症や後遺症を起こすことがあるので、目などの粘膜障害の程度がどうか、肝臓や肺など、他臓器にも薬剤性の炎症が起きていないかなどの管理を一緒に行うことも大切になると思います。
池田 皮膚だけではないのですね。
山口 そうですね。皮膚症状がメインの疾患ですが、SJSなどは目の炎症が取れなければ失明してしまうような方もいるので、眼科医との連携が本当に重要だと思っています。
池田 肺はどうなのですか。
山口 TENによる肺障害とか肝障害などの他臓器の重篤な病態があることがわかっているのですが、全部のメカニズムはわかっていません。肺では、TENによる閉塞性の細気管支炎のようなものが起きているのではないかといわれますが、当科でも肺障害を起こした方たちはやはり重篤で、亡くなってしまう方も多くいました。呼吸器内科の医師にも、一緒に診ていただいています。
池田 かなり重篤な後遺症ですね。
山口 はい。
池田 急性期に血中に流れているようなFasとか、そういったものを取る方法はあるのでしょうか。
山口 治療は大きく分けて3つを使い分けます。まず炎症を止めるためのステロイドと、あと先生がおっしゃったようなFasなどの液性因子や炎症性サイトカインを取るための血漿交換療法、これが2006年から保険適用になっています。あとは、IVIG、大量γグロブリン療法ですが、これが2014年ぐらいから使えるようになっていますので、まずステロイドで治療して炎症が止まるようであれば、単独でやることもありますし、TENのような重篤な状態ですと、この3つをうまく組み合わせて使うなど、症例によって組み合わせを変えています。
池田 おそらく経過が急激に動いていくと思うのですが、例えば診断がついて、ステロイドを投与する。どういった単位で、例えば1日おきに効果判定していくのでしょうか。
山口 とても重要なポイントで、まず最初診たときにぐったりとして重篤かどうかも治療選択のうえで大切です。また、眼科医に診察していただき、眼の上皮欠損や偽膜の形成などの眼病変があるとなったら、皮膚がそれほどひどくなくてもステロイドパルス療法が勧められています。皮膚がある程度むけていたときに、ステロイドを1㎎/㎏ぐらいの内服でいくのか、もしくは点滴でいくのか、もしくはパルス療法をするのかを症例の背景や重症度によって変えています。毎日必ず診察することは大切で、パルス療法は3日間やることになると思うのですが、パルス療法をやった時点で炎症が止まったという所見がない場合、つまり、まだ赤いとか、真皮からどんどん出血するとか、病変が新たに広がっていくようなことがあれば、そこで血漿交換を入れたり、血漿交換が使えなければIVIGを入れたり、日々変化していく様をフォローすることが重要になります。
池田 ステロイドの効果判定は2日、遅くても3日ですね。
山口 そうなります。
池田 それでオーケーならいいのだけれども、だめだったら、今度は血漿交換も考えたり、大量γグロブリン療法を考えたりですか。
山口 そうです。
池田 この1週間はたいへんですね。
山口 そうですね。毎日しっかり見ていきます。
池田 感染症では抗生物質も使われますが、全身の皮膚がむけていると、なかなか表在性の静脈を確保するのも難しい場合があると思うのですが、そういうときは中心静脈栄養などですか。
山口 中心静脈管理ですし、あとTENの場合はかなり皮膚の傷みも強いので、人工呼吸器管理でICUで見ることも多くあります。
池田 患者さんにとってもたいへんな状態が続きますね。
山口 はい。
池田 ちょっと失礼な言い方ですが生命予後はどうなっているのでしょうか。
山口 皮膚科で見る疾患の中ではかなり悪いほうだと思います。2016年ぐらいから3年間で厚生労働省の研究班と全国の皮膚科専門施設で検証した結果では、SJSが死亡率が4%ぐらいで、TENになってくると、30%近くの方がお亡くなりになっていたことがわかっています。
池田 SJSでも4%、TENにかわると30%と、かなり死亡率が高いですね。
山口 そうですね。高いと思います。
池田 ということは、一般の医師はこういうことが薬剤で起こることを頭に入れておいて、粘膜や皮膚の水疱が起きたときは皮膚科医に紹介するということでしょうか。
山口 そうですね。早い段階で皮膚科の専門医を呼んでいただければありがたいです。
池田 最初の2~3日がたいへん重要なときですから、すぐにですね。
山口 そうですね。
池田 どうもありがとうございました。
スティーヴンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の診断と治療
横浜市立大学医学部皮膚科学教室主任教授
山口 由衣 先生
(聞き手池田 志斈先生)
重症薬疹の診断と治療についてご教示ください。
千葉県勤務医