ドクターサロン

中村

2021年4月19日より始まりました新型コロナ感染症と感染症対策についてのシリーズは6カ月以上にわたる長丁場でした。その間、先生にはいろいろと企画いただきありがとうございました。その最後は将来展望として締めくくりたいと思いますので、よろしくお願いします。

対策の前に、感染症はこれからどうなっていくのか、ご専門の立場からお話しいただけるでしょうか。マラリアのワクチンも出てきたと聞いていますので、将来どうなっていくのかと気になるところです。

大曲

感染症の今後に関しては、正直なところ、また新たな感染症がどんどん出てくる時代になるのだろうと思っています。人の活動が非常に多様化し、またジャングルの開墾なども、例えばアフリカとかいろいろなところでむしろこれから進んでいくと思うのです。ですので、感染症に出会う機会が増えるだろうということと、あとは都市化の問題が大きいと思います。人々がどんどん都市に集まってくる分、感染症が広がりやすくなるということですね。

ほかにも最近、気候変動といった地球全体の環境の変化が感染症に及ぼす影響がすごく大きいと思います。いわゆる温暖化の問題でも、蚊が増えて、蚊が原因となるような病気、例えばデング熱が増えているのではないかともいわれていますし、また都市化が進むとデング熱がはやりやすくなるとか、いろいろなことが掛け合わさって、結果的に感染症がまた出てきやすい、はやりやすいような世の中になるのではないかと思っているのです。

中村

楽観的ではないのですね。

大曲

そう思えないのは、私が感染症医だからということもあるのかもしれません。ただ、我々は普段の市民生活でも、環境の変化などは大きく感じるところですし、感染症に相当大きい影響を与えるのではないかと思っています。

中村

それはバクテリア、ウイルス、あるいはその他、寄生虫も含めて、どちらのウエートが高くなっていくのですか。

大曲

短期的にはウイルスのほうが出てくる頻度が高いのではないかと思っています。一方でバクテリアは、抗菌薬、抗生物質、抗微生物薬の効かない、いわゆる耐性菌の問題が徐々に大きくなっていて、対策を打たないと長期的に相当大きな問題になるのではないかと思っています。

中村

それでは対策に移らせていただきます。感染ルートにもよるかと思いますが、おそらく日本の置かれた立場からしますと、今先生のお話にもありました輸入感染症、外から入ってくる感染症もかなり大きな意味を持つのだろうと思います。現在の検疫システムはこれでいいのでしょうか。

大曲

おっしゃるとおり、海外から入ってくる病気をいかに早くキャッチするかはとても大事だと思っています。検疫に関しては、もちろん普段から努力をしていただいており、検疫の強化は一般論として必要だと思っています。ただ、水際としてある程度防げると思うのですが、どのような対策をしても入ってきてしまうのは仕方がないところがあります。あとは、新しい病気や、まれな病気が入ってきたときに、すぐにキャッチできるような医療現場づくり、あるいは保健所を中心とした公衆衛生の場づくりをもう一度、今回の新型コロナウイルスのことも踏まえて考え直していく必要があると思います。

中村

それは入ってきてからでなくて、入りそうだという、まだ入る前に、ある程度洞察して対応できるといいかもしれませんね。

大曲

そうですね。そういう考え方も実際にあります。人々がAからBという国に移動する際には、A国にいる間にある程度感染のチェックをする。今はPCR検査が行われていますが、要は人々の移動の前にそうしたことをやってリスクを下げたうえで次の国に入るなど、ほかの感染症で考えてもいいのかもしれません。

中村

具体的にはどのような対策になるのでしょうか。

大曲

入国前ですと、先ほど申し上げたようなかたちですが、空港や港のようなところでの検疫については、ここをどうするか、なかなか難しいと思います。ただ、体調の悪い方に対してできる検査を増やしていくのは必要だと思っています。あとは、無症状で入ってくる方をどうするかの問題が残ります。無症状の方を検疫の場でどこまで調べるかは、やり出せばきりがないので、どこまでやっていけばいいかを専門医と議論したいと思っているのです。少なくとも入ってきたときは無症状で、国内で発症した方がいらした場合、そういう方々をすぐ調べられるような体制を改めて敷いてはどうかと思います。

実は日本で新型コロナウイルス感染症の1~3例目という最初の頃の患者さんは、ある程度重症の原因不明の感染症疑いの方を調べる疑似症サーベイランスという制度で見つかったのです。それはすごくよかったと思うのですが、もう少し軽くても調べてもらえる、つまりもう少し間口を広げていただくことを、検討いただいてもいいかと思っています。

中村

感染のルートによっても違うかと思いますが、今後は個人としてどういう対応をしていったらいいのか。例えば呼吸器感染であれば、マスク、手洗い、換気、あるいはソーシャルディスタンスを保つとか、そういったことが必要でしょうか。

大曲

いつまでもマスクをこうやって普段からし続けるのかは確かに難しいところだと思います。ただ、その時期に関してはまた議論するとして、先生がおっしゃったように、今からでもできる普段の暮らし方としては人と人の距離の取り方とか、換気の重要性は改めて科学的にも見直されたと思っています。特に新型コロナウイルスのようにエアロゾルが果たす役割はよくわかってきたと思いますので、病院だけでなく、いろいろな生活の場での換気のあり方とか、そういったものを社会全体として変えていく。私もエアコンとか、いろいろな商品で、換気の機能をしっかり持ったものが出てくるのを見ています。そういうエンジニアリングというのでしょうか、都市計画、都市構造、建物といったところからも、感染対策をやっていく必要があると思います。

中村

次に院内感染などにはどのような対応をしていくべきでしょうか。

大曲

院内感染について、改めて思いましたのは、もちろん鼻水などの呼吸器の症状、あるいはおなかをこわすなど下痢があるような消化器症状がある方に対して、こちらが感染しないように対策をするのは当然やっていくことだと思うのです。また、無症状でも人にうつす感染症があるのがわかったのが新型コロナウイルスの学びですので、そういう方々をどうスクリーニングしていくのか、これからの課題になると思います。

これは5年、10年、あるいは20年先を見据えてのお話なのですが、今回新型コロナウイルス対応をしてすごく思うのは、結局広範囲に広がる感染症は、我々のような感染症の専門医療機関でみるだけではとても済まなくなるのです。そうすると、どんな医療の場でも、診療所でも、介護の場でも、福祉の場でも対峙せざるをえない。そうした様々な場で最低限対応できるような技術としてできる感染対策が必要です。

中村

啓発が必要ですね。

大曲

そうですね。場合によっては建物の造りも含めて備えていくことも大事かと思いました。特に日本は超高齢社会です。高齢の方々のリスクが高いのは新型コロナウイルスでもよくわかりましたので、そういう方々が安心して生活できるような環境づくりを、感染症の観点から考えることを、みんなでやっていく必要があると思っています。

中村

最後に、ワクチンや薬の開発を、もう少しスピードアップできないか、この辺はいかがですか。

大曲

それは強く思っています。スピードに関してはだいぶ検討していただいていると聞いています。特に政府の規制、持っている薬の薬事の承認に係る規制を変えていったり、それを国際レベルでやっていったりすることが進んでいるのはすごくいいことだと思います。

あとは感染症はどちらかというと、今たくさんある病気だけではなくて、ひょっとしたらはやるかもしれない病気に備えるという面があると思うのです。

中村

おっしゃるとおりです。

大曲

ただ、それに対して研究開発をするにはコストもかかりますし、普通の経済原理では、そういうことを民間の企業が積極的にはされないと思うのです。でも、それでは国として備えられませんので、我々国民が少しずつ負担して、そうした研究開発をしておく。次、いつ来るかわからない大きなことに薬で備えられるような、そういう仕組みをこの際議論して作っていただければと思います。

中村

ありがとうございました。