ドクターサロン

池田

帯状疱疹のワクチンについての質問です。予防目的の接種はどのような方が適応になるのでしょうか。

今福

適応は50歳以上の成人になっています。なので、帯状疱疹の予防目的では2つワクチンがあるのですが、基本的に50歳未満の人は現状ではいずれも使えないことになっています。ワクチンの場合、適用違反であると救済制度などが使えなくなりますので、あくまで50歳以上がよいと考えます。

池田

保険はないので自費扱いなのですね。

今福

はい。

池田

値段はどのぐらいなのでしょうか。

今福

子どもにも接種されている弱毒生ワクチンはだいたい1回8,000円~1万円ぐらいではないかと思います。施設によって変わりますが、もう少し高いところもあるかもしれません。もう一つの成分ワクチンは2万円強というのを2回打ちますので、合計でかなりの値段になります。

池田

生ワクチンは1回ですか。

今福

そうです。

池田

随分値段が違いますね。

今福

生ワクチンは古くから小児水痘の予防ワクチンとして使われているものと同じです。一般的に成人に接種する場合に少し高めに設定している施設が多いかもしれませんが、これは伝統的なワクチンですので、それほど費用はかからない。一方で成分ワクチンは遺伝子組み換え技術を使った、1種類の蛋白を人工的に発現させているものとアジュバントを組み合わせた最新のワクチンになっていて、費用が高くなります。

池田

生ワクチンは従来のものですね。ウイルスを育てておいて、ちょっと半殺しみたいにしておくという。この成分ワクチンというのは例えばウイルスの表面にあるような蛋白質なのでしょうか。

今福

そのとおりです。グライコプロテインE(gE)と呼ばれる、感染の際に必ず発現する蛋白質を1つだけ人工的に合成したものをアジュバントと一緒に投与するかたちになります。

池田

今コロナワクチンで有名になっているスパイク蛋白のようなものなのですね。

今福

まさにそのとおりです。

池田

それを人工的に合成したり、少し調整するのでちょっと高くなるのでしょうか。

今福

おそらくそれが理由と思っています。

池田

なぜこういった部分的な蛋白質を合成して作ることになったのでしょうか。

今福

gEという蛋白は感染のときに必ず発現するもので、これを中和することでウイルス感染を抑制できる、発症を抑制できる分子です。この蛋白だけをワクチンに取り込むことで効率よく抗体ができます。例えば子宮頸がんのワクチンなども、ウイルスそのものではなくて、ウイルス様の蛋白を人工的に合成してアジュバントを加えて投与しているのですが、近年のモダンなワクチンは多くがこのように生きたものではなく、成分をアジュバントと一緒に投与するというかたちになっているようです。

池田

生ワクチンで起こる不都合なことというのは感染なのでしょうか。

今福

この帯状疱疹に限っていえば、一度みな感染しているので、生ワクチンで起きる不都合というのはあまり多くはありません。しかし、免疫不全などがあると再感染を起こすリスクがあるので、生ワクチンの最も大きな不都合は、免疫抑制者、あるいは免疫不全者は接種できない「禁忌」がある点です。

池田

それで部分蛋白を合成して作ったのですね。なぜ2種類あるのかと思ってうかがっていたのですが、禁忌になっていますので、免疫不全者、免疫抑制にある人は、合成蛋白のほうだけを使うということですね。

今福

はい。禁忌に引っかかる、例えばプレドニゾロンなどを内服している人も明記されていますので、そういう方は生ワクチンは使えないことになります。

池田

そのときは合成した蛋白質のワクチンを使うということですが、生ワクチンですと免疫が落ちた方は副反応で水痘になってしまうと思うのですけれども、合成の蛋白質で免疫したときにも何か副反応はあるのでしょうか。

今福

成分ワクチンはアジュバントと呼ばれる細菌由来の、いわゆる自然免疫を刺激して炎症を強く起こす物質を一緒に取り込んであります。実際には2つバイアルがあって、片方はアジュバント、片方は蛋白で、それを混ぜてその場で投与するかたちになっています。このアジュバントはコロナのワクチンでもかなり有名になりましたが、熱を出したり、倦怠感をもたらす。つまり、感染したときのような強い免疫を引き起こすための炎症を起こすので、コロナワクチンと似たような副反応が起きることが知られています。

池田

投与した部位が腫れ上がったりとか、赤くなったりということですね。

今福

局所反応と全身反応とがあります。

池田

発熱等全身反応も起こりうるのですね。

今福

そうですね。

池田

今、成分ワクチンのほうは2回打つとのことですが、1回目にそういう反応が出た場合、2回目はどうされるのですか。

今福

解熱鎮痛薬などで対処することになっていて、コロナとちょっと違い、副反応はなぜか1回目のほうがけっこう顕著であることがいわれています。そして、熱が出た場合にはアセトアミノフェンなどで解熱をして様子を見るなど、特別そのほかに何か指定されているものはなく、一般的な治療です。1回目と2回目の間は8週間という投与間隔になっていて、コロナと一緒で、年齢が高くなるほど副反応は少なくなる傾向があります。

池田

ちょっと不安ですね。1回目でかなり腫れたり、発熱したりすると、今のコロナでも2回目をどうしようかとみんな悩みますよね。先ほど2回目は1回目よりそうでもないという話がありました。その場合にどうしても患者さんが怖いという場合は、コロナのストーリーと同じように、最初からNSAIDsとかをのんだりするのでしょうか。

今福

推奨されているわけではないですが、どうしてもという方にはそういうものも一つの対処方法かと思います。

池田

中には1回で、もうやりたくないという患者さんがいますよね。そういうときのムンテラというのはどのようにするのでしょうか。

今福

どうしても受けたくないという場合は仕方がないと思うのですが、2回受けたほうが予防効果は明らかに高いということがわかっていて、2回打って効能どおりの抑制効果がはっきり出ることになっています。生のワクチンは発症率で、1/2ぐらい。発症しても重症度でいうと1/3ぐらいに抑えてくれるのですが、成分ワクチンのほうは非常に強力で、90~95%ぐらい。そして年齢を問わない。70代でも9割ぐらいの方が発症を予防できるということで、副反応は強く起きるものの、効果は高いといえると思います。

池田

イメージとしてコロナと同じような感じですね。

今福

そうですね。

池田

やはり2回やらないと高い抑止効果はないのですね。

今福

一応それが推奨されています。

池田

それから、コロナの場合もありましたが、間を空けすぎても大丈夫なのですか。

今福

半年までは延びてもよいようですが、治験の間隔が8週なので、そうなっています。

池田

今後、新たに導入されるようなワクチンはあるのでしょうかという質問ですが、どうでしょうか。

今福

私が理解している限りは、開発が進んでいるものの、治験などがあるので、mRNAのかたちのワクチンなど新規のものは、まだすぐには手に入らないのではないかと思います。当面は生ワクチンか、今ある成分ワクチンかのどちらか2種類だと思います。

池田

今回のコロナのこともありますから、mRNAワクチンも進みつつあるという認識でよいでしょうか。

今福

そうですね。効率の点から蛋白を人工的な細胞や、動物の細胞で培養して、合成させて、精製してという過程よりも、ヒトにそのままmRNAを打ったほうが、ヒトの蛋白が作られるので、いろいろな面で効率あるいは安全性が高いのかもしれません。やがては競合化のかたちで出てくる可能性はあると思っています。

池田

今の状態ですと、なかなか日本ではmRNAワクチンはできづらいという感じでしょうか。

今福

そうですね。生ワクチンは水痘ワクチンという名前で、成分ワクチンは筋注のワクチンなのですが、コロナのワクチンで筋注がかなり一般的になったことと、ウイルス感染症は予防したほうがいいという考えが普及していて、徐々にやや高額の成分ワクチンも普及してきているという話です。もしかすると自治体などの肺炎球菌の公費助成のように、補助がつけば、今後もっと普及し、開発も進むかもしれません。

池田

ありがとうございました。