ドクターサロン

山内

原発性マクログロブリン血症ですが、大ざっぱに言えば、B細胞、あるいはそれの進化型といいますか、形質細胞ががん化したものと捉えてよろしいのでしょうか。

渡部

おっしゃるとおりです。悪性リンパ腫と多発性骨髄腫のどちらに属するのかという点が昔から議論されましたが、結論としては、低悪性度のB細胞リンパ腫というところに現在落ち着いています。

山内

まだまだ不明点も多いと思いますが、原因、誘因、メカニズムに関しての最近のトピックは何かありますか。

渡部

がん細胞、腫瘍細胞のゲノム解析を行ったところ、B細胞の腫瘍化、あるいは増殖に関わる細胞内の因子である、MyD88遺伝子の変異が見つかっています。それが原発性マクログロブリン血症に非常に特徴的で、特異的ではないのですが、患者さんの組織検査では、9割以上、この遺伝子変異が認められます。

山内

そのあたりをターゲットにする薬も出てきているのでしょうか。

渡部

このMyD88がブルトンというB細胞の腫瘍化に関係する細胞内のチロシンキナーゼと非常に関係があり、そこに対する阻害薬が今、開発されてきています。

山内

さてもう一つ、M蛋白という言葉がよく出てきます。M蛋白とはどのようなものでしょうか。

渡部

M蛋白はモノクローナルに増殖したグロブリン蛋白を指します。通常、B細胞からはいろいろなグロブリン蛋白が作られるので、同一のグロブリン蛋白が単クローン性に増殖することは普通ありえないのですが、B細胞が腫瘍化しますと、同一のグロブリン蛋白が産生される状態が生じ、これをM蛋白と呼んでいます。

山内

この疾患、何となく無症状で発見されるような印象が強いのですが、いかがですか。

渡部

おっしゃるとおりで、最近、健康診断の結果、貧血あるいは血小板減少といった血球の異常で紹介いただき、私たちのところで骨髄検査をすると、この診断に至ることがよくあります。

山内

そうしますと、非専門医がこの疾患を念頭に置くときのコツといいますか、どういうところを手がかりにして気づくか、このあたりはいかがでしょう。

渡部

健康診断の血液検査の結果で、総蛋白が高く、アルブミンが低いといった状況が出てくるのですが、この差の増大がグロブリン分画が増えている証拠になります。血清蛋白に注目していただくのがよいかと思います。

山内

貧血はほかにもいろいろなものが多いので、鉄欠乏性貧血を除外した後、我々もその先、なかなか対応に困ってしまうことが多いのですが、こういった際に、注目したらいいものとしてはどういったものが挙げられますか。

渡部

正球性正色素性貧血と呼ばれるMCVとかMCHなどが正常の場合は、貧血を起こすような病態が骨髄という極めて限定的な場所に起きているのではないかと想定されます。また、同時に血小板が減少することがあるので、これらを認めたときは、原発性マクログロブリン血症など骨髄の中に起きる疾患の存在を少し考えていただくとよいかと思います。

山内

血小板減少が一つのポイントと考えてよいのですね。

渡部

そうですね。

山内

白血球分画はいかがでしょうか。

渡部

白血球分画ではリンパ球が増加していたり、白血球数の増減などの異常がありうると思います。

山内

次に我々は血液内科に紹介というかたちになるかと思うのですが、血液内科では次にどういったステップの検査がなされるのですか。

渡部

まず血液の生化学検査で、先ほどありましたM蛋白がどのようなものかを調べます。これは免疫電気泳動法や免疫グロブリン定量、フリーライトチェーン定量という方法でIgMと軽鎖の増加を調べます。診断確定のために骨髄検査が必須になります。これは患者さんに少し痛い思いをさせてしまうのですが、腸骨という骨盤の骨の奥に針を刺して、そこの骨髄液と組織を取ってくる検査です。

山内

質問の医師は多発性骨髄腫も疑われていましたが、こういった鑑別上の類似疾患などで紛らわしい疾患にはどういったものがありますか。

渡部

たいへん鋭い質問で、一番私たちが恐れるのがIgM型の多発性骨髄腫です。IgM型骨髄腫は骨髄腫の中でまれであり、原発性マクログロブリン血症と比較すると予後が不良という報告もあり、比較的急激な病勢の悪化を起こすこともあります。多発性骨髄腫の症状である骨病変を起こしてしまうこともあるので、骨の痛み、病的骨折などを患者さんが発症されていないかは十分注意しなければいけません。それから、多発性骨髄腫の合併症である腎不全や、高カルシウム血症などの異常が出てくることがあり、電解質も含めた血液データをチェックすることが必要だと思います。ただし、当初は見分けがつかないことがあります。

山内

なかなか難しいですね。

渡部

あとは、少し難しいのですが、慢性リンパ性白血病、MALTリンパ腫というようなほかの低悪性度リンパ腫ともなかなか区別がつかないので、病理組織学的な診断による鑑別が必要になってきます。

山内

また原発性マクログロブリン血症に戻りますが、一般的に予後はそんなにいいとは思えないのですが、比較的経過観察になるケースが多いようです。これはなぜでしょうか。

渡部

基本的にはほかの低悪性度リンパ腫と同じような考え方をするのですが、すぐに病勢が進行する場合と、落ち着いた状態が長く続く病態もあることがポイントです。もう一つのポイントがこの疾患はご高齢の方に多いことです。この患者さんは50代ということですが、通常、60代以降の高齢者に見つかることが多いので、最初から根治を目指すよりは、患者さんの状態が良いうちはそれを維持する方法も考えられます。患者さんに応じてどのような治療が最も良いのかを十分に考えなければいけないところが難しいと思います。

山内

無症状ということもあるので、抗がん剤でQOLを損ねないようにと、そういったところでしょうね。

渡部

そうですね。ただ、この患者さんは53歳という若い年齢ですので、この先どこかで病態が進む場合には積極的な化学療法を行い、状態によっては自家末梢血幹細胞移植という治療も適応になるかと思います。今後も経過観察を慎重に行うべきだと思います。

山内

末期にはどういった症状になってくるのでしょうか。

渡部

末期といいますか、途中でこれは治療しなければいけないという病態が出てくることがあります。一つはほかの低悪性度リンパ腫同様に、リンパ節、肝臓、脾臓が腫れて症状が出てきたり、あるいはリンパ腫のB症状といわれる、発熱、盗汗、体重減少など、患者さんが消耗して苦しむような症状が出てしまうことがあります。この場合は治療適応だと思います。また、貧血が進行し全身倦怠感が生じてしまったり、血小板減少による出血傾向が出現した場合も治療適応になると思います。

山内

それ以外にも何か気になる症状はありますか。

渡部

原発性マクログロブリン血症の有名な合併症として、過粘稠度症候群という病気があります。増加するIgMの分子量が大きいので、血液の粘稠度が増加し、口腔内出血、鼻出血、頭痛、時に神経症状として意識障害まで起こす方がいます。眼底出血などを起こしてしまうこともあるので、たいへん危険な合併症といわれています。

山内

治療対象になるのですね。

渡部

はい、緊急の治療対象です。治療として時に血漿交換などを必要としますので、ご注意いただきたいと思います。

山内

ありがとうございました。