池脇
これまでも先生には高血圧、特に家庭血圧に関してお話をいただきまして、前回は日本の家庭血圧計は諸外国に比べても非常に精度が高い、安心して測れますという非常に心強い言葉をいただきました。日本には今、家庭血圧計が約4,000万台、1世帯に1台ぐらいの数があるということですが、こんなに普及している国は日本ぐらいでしょうか。
星出
ほかの国に類を見ない、かなり特殊な例だと思います。
池脇
家庭血圧に関しては、朝と就寝前のタイミングについて指導する内容がある中で、質問の深呼吸に関しては特段明記はされていないのですね。
星出
ガイドライン上は明記はされていません。これは診察室血圧の測定条件でも同様で、深呼吸に関しては特別、こうしてから測ってくださいとか、こうしたらいけませんということは明記されていません。
池脇
私も診察室で患者さんに、いろいろと話した後に「さあ、血圧測りましょうか。深呼吸を何回かしてください」といったことはいいますので、家庭でも深呼吸して測る方が多いかもしれませんね。
星出
いらっしゃると思います。
池脇
質問は、ちょっと体を落ち着かせるという意味で、安静にするけれども、それに加えて深呼吸をするべきかどうか。明記されていないので、なかなか難しい質問かもしれませんが、どう考えますか。
星出
先ほど申し上げましたように、やっていいとか悪いということはありません。これは実際、患者さんはこちらからそういうことをいわなくても、している可能性は十分あり、それに基づいての血圧の評価です。結局、家庭血圧の一番のメリットは、複数回、長期間測れることですので、診察室血圧みたいに1回で、「深呼吸して、測って、この血圧で」ということではありません。家庭血圧は診察室血圧のメリットを凌駕しますので、そこまで大きくこだわる必要はないと思っています。
池脇
家庭血圧は、診察室で白衣高血圧にならないよう、本来のその方の血圧を測るという意味では、深呼吸によって本来の血圧から著しくずれるのなら困りますが、それほどずれるというほどではないのですね。
星出
家庭血圧ではありませんが、過去の報告を見ても、10も20も下がるということはなく、仮に実際下がっている人がいたら、それは1回目より2回目のほうが下がるとか、深呼吸している間、安静にしているために下がるということで、深呼吸の影響が著明に出ることは考えにくいと思います。
池脇
今の家庭血圧ですと、原則1機会に2回測ることになっています。おそらく患者さんが朝起きて、準備を整えて、1回目の前にはちょっと深呼吸をして測るかもしれませんが、2回目はそのまま測られる。その平均になるので、特段深呼吸をしてはいけないとも思えないですね。
星出
そうですね。
池脇
とはいえ、多少は下がるということらしいのですが、どうしてでしょうか。
星出
これは古くからいわれているのですが、実は明確なメカニズムは判明していないのです。一般的には深呼吸することによって肺が広がるので、その伸展受容体とか、あとは血圧を調整する頸動脈の圧受容体といったところに反応して副交感神経を活性化させることで血圧が下がるのではないかといわれているようです。
池脇
その下がり幅というのはどうなのでしょう。少なくともそう著しいものではないものの、多少個人差は出てきますか。
星出
ありますね。一般的に血圧が低い人に関してはそれほど下がらない、変わらないという報告が多いのに対して、当然ですが血圧が高い人ほど、振れ幅が大きいですから、通常の高血圧での血圧変動と同じように、そういう人のほうが下がりやすいというか、変動しやすいのだと思います。
池脇
細かいことになるかもしれませんが、収縮期と拡張期、おそらく下がる方向にいくのでしょうが、収縮期のほうがより下がりやすいとか、多少上と下で違うのでしょうか。
星出
これはなかなか難しいですが、おそらく収縮期血圧のほうが反応しやすいのではないかと思います。
池脇
そうなると、特に高齢者の場合には多少そういう深呼吸によって、特に上が下がってくることを、念頭に置いていてもいいかもしれませんね。
星出
そうかもしれないですね。
池脇
日本では本当に家庭血圧が普及しています。私は家庭血圧を指示するときに、基本は朝に測って、もし余裕があるときには週何回か、寝る前に測ってと指導をしてきました。基本、家庭血圧は朝と寝る前に測りましょうと指導されているようですが、どうなのでしょう。
星出
ガイドラインにも記載されているように、可能であれば少なくとも1日2回測っていただくといいと思います。我々のところでも行っていたこれまでの家庭血圧の心血管予後に関する研究ですと、日本の場合は就寝前の血圧よりも朝の血圧のほうがより心血管イベントを予測するのに優れます。どちらか測るというのであれば朝だと思います。
池脇
基本的には朝を重視するけれども、就寝前も大事なので、測れるようなら両方ともに、ということですね。
星出
はい。
池脇
例えば主婦の高血圧の方で、朝起きてからがすごく忙しく、5分、10分安静にする時間が取りにくいという相談がありますが、どうすればいいですか。
星出
これはやはり落ち着いたとき、就寝前に測れるのであれば測ってもらったらよいのです。一般的に朝の血圧が高くなる人のほうが多いですが、逆のパターンの方もいますので、そういった意味でも両方測って評価することは大事だと思います。
池脇
通常の生活のパターンではなくて、深夜働いて、朝近くに寝て、起きるのがお昼というようなシフトワーカーの方は目が覚めたお昼頃を一般的な朝と同じに取るのでしょうか。
星出
基本的にはそのようにすることが多いです。ただ、シフトワーカーの方に関しての家庭血圧のエビデンスはほとんどないので、おそらくそれで評価するしか今のところはないかと思います。
池脇
いずれにしても、可能であれば1日2回、しかも1機会につき2回血圧を測って、その平均を見ていくのが高血圧の診断、あるいは高血圧で治療中の方の経過の中では極めて重要ということですね。
星出
おっしゃるとおりです。
池脇
診察室以外の血圧測定に関しては、日本で普及しているこの家庭血圧と、もう一つ、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)というものがあります。多分先生は臨床研究で使われてきたものだと思いますが、日本ではあまり活用されていないのでしょうか。
星出
一日中つけておくのはどうしても行動制限に感じ、夜寝ている間もカフの圧によって目が覚めてしまうために、使いづらく、もう一回やりましょうというと、患者さんはなかなかやりたがらないのです。そうすると治療評価として使いづらいというのがあります。
池脇
むしろ血圧計の存在を感じないぐらいの血圧計のほうがいいのでしょうが、何か技術の進歩はありますか。
星出
今は、市販でも手首で測るような血圧計を売っています。まだ研究でしか使えませんが、手首で測れてタイマーで夜の血圧も測ることができ、しかも寝相が悪いような方も含めてバリデーションが取れるような血圧計もできています。実際に我々の施設でもそういった研究を行っていますが、ABPMよりもかなり負担が少なく夜間血圧が評価できます。
池脇
ちなみに、ABPMや今先生がいわれた新しいデバイスも、例えば血圧が高くて、ちょっとコントロールがうまくいかないような人が適応になるのでしょうか。
星出
一般的に血圧を評価するにあたっては、外来血圧、家庭血圧は通常の朝、就寝前ですから、まずコントロールをつけて、なおかつリスクが高そうな方は夜間血圧の測定を行ったほうがいいかと思います。
池脇
ありがとうございました。