齊藤 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は比較的新しい病気だと思います。高橋先生が日本での第一発見者とうかがいましたが、どういった経緯で発見されたのでしょうか。
高橋 私たちが初めての患者さんを診たのは2012年の秋です。発熱が続くこと、血小板減少と白血球減少があるということで当院に紹介となりました。血液内科の私たちに相談があり、調べてみると、血球貪食症候群という病状を合併していることがわかりました。この患者さん、実は診断を進めるうちに4日間の経緯でお亡くなりになりました。しかしながら、血球貪食症候群を急性に起こす疾患としてウイルス疾患が疑われましたので、この方の血清を使って何らかの病原ウイルスを見つけることができないかと取り組んだときに、SFTSウイルスという、日本では初めてのウイルスが分離され、診断に至ったという経緯でした。
齊藤 この病気は、いつ頃からいわれ出しているのでしょうか。
高橋 初めは中国でわかった病気です。2006年頃から中国では発熱、血小板減少、そして下痢を伴う病気がはやっていて、どうもそういう症例が農業従事者を中心に多数見られるようになった。それをまとめてSFTSウイルスという病原ウイルスが原因であることを突きとめたうえで、2011年の「The New England Journal of Medicine」に初報が出ています。
齊藤 その翌年ということですが、この患者さんは外国帰りではないのですね。
高橋 渡航歴はない主婦でした。
齊藤 普通の主婦の方ですか。
高橋 そうです。特に気になるような職業歴もありません。
齊藤 そういう方が急性の病気で亡くなられて、調べてみたらそうだったのですね。これはマダニからの感染といわれていますが。
高橋 中心的な感染ルートはマダニであると考えています(図1)。マダニがこのウイルスを保有していて、そのマダニにかまれたときに人にウイルスが伝播してしまう。これが発症の大きなルートだと思います。ただ、半数ぐらいの方はマダニにかまれたエピソードがありません。ですから、わからないときにかまれているのかもしれませんが、ほかにも何か感染ルートがあるのではないかとずっといわれていました。
齊藤 マダニについて、ペットはどうなのですか。
高橋 ネコやイヌなどによくマダニがついていることを見ると思いますが、実はマダニは野生動物との間でウイルスをやりとりしていますが、普通の野生動物、シカやイノシシなどは不顕性感染を起こしています。つまり、SFTSウイルスを受けても発症しないのですが、ネコや一部のイヌはSFTSを発症していることがわかっています。近年問題となっているのはそういうSFTSになったネコにかまれた人が発症する、こういうルートも重要な問題として挙げられています。
齊藤 ペット由来ということですね。飼い主などですか。
高橋 そうです。飼い主も病気のネコを介抱しますし、あるいは病院に連れていきますから、動物病院の獣医師、そしてスタッフの方、こういう方が少し暴れるネコやイヌにかまれてしまうことで感染するケースが実際、日本で幾例も起こっているのです。
齊藤 院内感染のようなルートもあるのですか。
高橋 患者さんはウイルスを排出していますから、血液や体液、あるいは糞便、尿、こういうものに直接曝露することでウイルス感染を起こしてしまう場合があって、中国や韓国では院内感染による発症がいわれています。今のところ日本では1例も出ていませんが、注意は十分必要になります。
齊藤 疫学的には今、どこの国で多いのでしょうか。
高橋 やはり中国が中心で、最も患者数が多いです。次いで、日本、韓国で比較的患者が発生しています。日本では年間80~100人ぐらいが確認されています。ただ、周辺国のベトナム、台湾、ミャンマーなどでも患者さんや抗体陽性の方が確認されているので、東アジア全体のウイルス感染症であると考えるべきでしょう。
齊藤 日本でも患者さんがいるということですが、地域差はありますか。
高橋 たいへん面白いのですが、西日本に患者が集中しています。最も多いのは宮崎県で、広島県、そして私どもの山口県、高知県、鹿児島県、このあたりが非常に多いです。つい最近までは三重県ぐらいまでが東の限界でしたが、今年に入ってから静岡県で3例、また愛知県でも患者が発生していますし、千葉県でも2017年の振り返り症例ですが、SFTSの患者がいたことがわかっていますので、東日本にも患者が出始めているといえます(図2)。
齊藤 第1例目の患者さんはすぐに亡くなってしまったということですが、一般的に経過はどうなるのでしょうか。
高橋 SFTSの患者さんはマダニに咬傷を受けてから、だいたい潜伏期の1週間ぐらいを経て、発熱、血小板減少、嘔吐、下痢、といった症状が出てくることが多いです。血液検査ではほかに白血球減少もよく目立ちますが、だいたい最初の1週間、ウイルス血症がどんどん悪くなっていく間に、病状や検査所見は悪くなっていきます。ただ、10日目ぐらいをピークにしてウイルス血症が改善してきますから、それに伴って軽症や中等症の患者さんは症状が改善に向かいます。ただ、重症例はこのウイルス血症が最もひどいところで乗り越えられず死亡してしまう転帰になる方がいらっしゃるのです。
齊藤 死亡率はどのくらいになりますか。
高橋 8~30%まで、いろいろな報告が出ていますが、日本で振り返って調べてみたところ、およそ25%と極めて高い致死率が観察されています。
齊藤 治療は何かあるのでしょうか。
高橋 治療については、全身状態を対症療法で十分に管理することが大切です。血球貪食症候群を起こしますので、それに伴うDICなどの管理をしっかり行って、何とか急性期を乗り切ることが治療の中心になります。
新しいトピックとしては、ファビピラビルという薬、皆さんもよく耳にされた薬かもしれませんが、これをSFTSウイルス感染症に使ってみるという治験が今、進んでいます。ファビピラビルが新しい治療の選択肢になるかもしれませんが、現状では対症療法をいかにしていくかが重要です。
齊藤 新型コロナウイルスで有名になったファビピラビルですね。最初のウイルス血症の時期に抗ウイルス薬を使って、ウイルスを減らすことができればいいということでしょうか。
高橋 理論的にはできるだけ早くそういった対処が取れれば経過の改善につながるのではないかと期待はしています。
齊藤 予防では何かあるのですか。
高橋 予防に関しては、マダニに刺されないことが最も重要ですので、野山に出るときには肌を露出しない、農作業などから帰ったときには裸になって体にマダニが付着していないかをよく確認してもらう、そういったことがとても大事です。先ほど少し触れましたが、ネコとかイヌを飼っていて、それが非常に重篤な病気になったときに、うかつに近寄ってかまれないようにすることも大事な予防策ではないかと思います。
齊藤 獣医師、ペットオーナーの対策も重要だということですね。ありがとうございました。
新型コロナウイルス感染症の最新情報と感染症対策の重要課題(Ⅳ)
重症熱性血小板減少症候群の現状
山口県立総合医療センター血液内科診療部長
高橋 徹 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)