ドクターサロン

 齊藤 ウイルス性肝炎について、まずB型肝炎の現況はどうなっているでしょうか。
 加藤 B型肝炎は、ご存じのように母子感染で主に生き残ってきたウイルスです。1986年から母子感染の予防ができるようになって、35歳以下のキャリアの方はほとんどいなくなりました。それでも、いまだ人口の1%ぐらい、約120万人のキャリアがいます。
 齊藤 相当な数ですが、診断はどういう流れになりますか。
 加藤 基本的にはHBs抗原が陽性であればウイルスのキャリアと考えられます。我々は、日常的に、HBs抗原をわざわざ測定する機会は普通にはないですが、献血などをしていただくと必ず測定しているので、結果の通知が来ます。また、今は40歳からは肝炎ウイルス検診というものがあり、5歳ごと、切りのいい年にHBs抗原を測定することになっています。そういう検査で引っかかってこられる方もいます。
 齊藤 治療はどういうかたちになりますか。
 加藤 B型肝炎の場合は、ウイルスを持っていても、いわゆる無症候性、何の問題もない方が8~9割います。ですから、治療対象はだいたいウイルスキャリアの1~2割になりますが、現在は非常にいい薬、核酸アナログ製剤があり、1日1回のんでいただくことで、ほぼウイルスの制御が可能になっています。ウイルスを制御できれば、ほかに病気がない場合にはいわゆる肝機能検査の異常値、特にAST、ALTの上昇も正常化します。ただ、残念ながらこの治療でウイルス排除ができるわけではありませんので、治療は非常に長期にわたり、時に一生薬をのんでいただかなければいけない、そういう状況です。
 齊藤 治療の際に何か指標を見ながらやっていくのですか。
 加藤 おっしゃるとおりで、その一番の指標はHBV-DNA、DNAウイルスですから、血中のHBV-DNAの量を計測しながら治療経過を見ていきます。特に、PCRを使ってこのHBV-DNAが検出できない、あるいはプラスであるけれども、数としては測れないぐらいのところまでウイルスをコントロールするのが基本になっています。そこまできちんとその指標に持っていくことが、発がん予防という観点からも大事なところです。
 齊藤 ずっと治療していくということですが、それが再び活性化することはあるのですか。
 加藤 実際に薬をのんでいただいていれば、基本的にウイルスが出てくることはほとんどありません。以前の薬は耐性ウイルスという変異型のウイルスが出てくるという問題がありましたが、現在その問題はなくなっています。時にキャリアの方のウイルスが増えて重症化することもあり、それを再活性化と呼んでいるのですが、今一番問題になっているのはいわゆる既往感染です。 大人になってウイルスにかかった人は治ってしまうといわれているのですが、いわゆる水疱瘡のウイルスと同じように、実はこのB型肝炎ウイルスは一度感染すると肝臓内にずっと潜伏しています。結局、免疫の力でこのウイルスが増えないような状態になっています。HBs抗体陽性で、いわゆる治癒したと考えられていた人が、抗がん剤や免疫抑制剤の投与を契機にウイルスが再増殖、再活性化した結果、重症肝炎を引き起こすことがあり、今それが少し問題になっています。
 齊藤 その場合もまた核酸アナログ治療をするのでしょうか。
 加藤 おっしゃるとおりです。ウイルスを制御することが一番大事です。もちろん見つかった時点でウイルスの制御をしなければいけないのですが、これはコロナにちょっと似ていて、肺炎がひどくなったときに実はウイルスはあまりいないのと同様に、いわゆる重症肝炎、劇症肝炎になったときにはウイルスはあまり検出されません。そのときには免疫が自分の肺に感染していた細胞を破壊しているのと同じように、抗ウイルス療法をするのですが、場合によっては肝臓の細胞が、感染肝細胞が相当やられてから病院に来ることになります。その時点からウイルスを抑え始めても、抗ウイルス薬では命を救えない場合があり、その場合は肝臓だと移植まで考えなければいけないという局面が、かなり高率にやってきます。
 どういうことかというと、再活性化で、特に肝障害が起きてから見つかったような方の致死率は、優に5割を超えるのです。ですから、早めに見つけなければいけない。要するに、最初からウイルス、HBV-DNAやHBs抗原を測定しながら薬の投与をしなければならないことが、既感染、あるいはHBVのキャリアの方に対して必要なことかと思います。
 齊藤 そういった注意点があるのですね。それでは次にC型ですが、この状況はどうなっていますか。
 加藤 C型は1989年にウイルスが見つかって、日本では1992年ぐらいからインターフェロン治療が始まっていますが、2014年からは、とうとうのみ薬だけで治療できるようになりました。現在はだいたい8~12週間薬をのんでいただければ、95%以上の方でウイルス排除ができる、そういう病気になりました。
 齊藤 疫学はどうなっていますか。
 加藤 今これを正確に把握するのは難しいとはいえ、150万人ぐらいの方がウイルスを持っているのではないかといわれています。ただ、先ほどの治療でウイルスを排除できた方は50万人ぐらいといわれています。薬の売上からここだけははっきりわかるのです。結局残りは二通りで、まだ自分がウイルスを持っているのに気がついていない方が30万人ぐらいいるだろう。それから、ウイルスを持っていることがわかっていても、何らかの理由、ほとんどは痛くもかゆくもないからだと思いますが、治療を受けていない方が30万~70万人ぐらいいるといわれています。
 齊藤 ウイルスを持っているけれども未治療の方は、結局肝硬変になっていくのですか。
 加藤 そのとおりです。B型肝炎という病気は基本的に1~2割の方しか慢性肝炎、肝硬変、肝がんと進んでいかない病気ですが、C型の場合は、ウイルスを持っている方はほとんど慢性肝炎、肝硬変、肝がんと、スピードに差があるとはいえ、進んでいく病気です。
 齊藤 そうなりますと、手術の前などでHCV抗体を調べますね。これが陽性でも肝機能は全く正常な方がたくさんいて、その場合、こういうことになりがちだということでしょうか。
 加藤 ご指摘のとおりで、自分たちでしたら内視鏡検査、それから手術時でも、必ずHCV抗体の検査をしているのです。ただ、問題は従来医療従事者が自身を感染から守るという目的で検査していたことですから、必ずしもその結果が患者さんに伝わっていない。その検査で陽性になったにもかかわらず、実は患者さんはHCV抗体が陽性であることを知らされていないケースがけっこうあります。
 ですから、今は厚生労働省から術前に行った管理料としてお金を取る場合、その説明もしなければいけないという通達が出たのです。しかしいまだに外科系の診療科、特に短期間入院や、がん科や整形外科の手術のために検査を受けられた方で、そのままHCV抗体陽性が放置されている方が多いのが現実です。
 齊藤 HCV抗体陽性に気がついたら、とにかく消化器内科の医師に相談するということですね。
 加藤 それが一番いいですね。AST、ALTが正常でも肝硬変まで進んでいる方もいますので、我々に任せていただければと思います。
 齊藤 発見されていない患者さんにはどうやって対策するのでしょう。
 加藤 今、国を挙げて先ほどの肝炎ウイルス検診を行っていて、我々も千葉県の拠点病院になっています。今は、基幹病院の医師に、ぜひまず自分のところの患者さんをきちんと見直してくださいとお伝えしています。こういう取り組みにおいて、一番効率がいいのは病院なのです。その次にクリニックぐらいに広げていって、その一方で国や県の取り組みで一般住民の方を検診で拾い上げる。そういう試みがどこでも行われているところかと思います。
 齊藤 患者さんの掘り起こしということではまだまだ多くの医師の力が必要だということですね。
 加藤 はい。
 齊藤 ありがとうございました。