ドクターサロン

 池田 岡田先生、小児の予防接種について質問です。まず初めの質問の、接種部位について、1歳未満では上腕より大腿部での接種が勧められていますが、複数同時接種はしないほうがよいでしょうか。私はこの質問の意味がはっきりつかめていないのですが、大腿部で同時に複数接種はしないほうがいいでしょうかということですかね。
 岡田 おそらく質問者の意向は、同時接種で、1回に2本、3本するときのことだと思います。これまで日本では乳児には単独接種で上腕にやっていました。海外では乳児で例えば1日3本やるとき、両腕と例えば足など、一応腕を変えて、あるいは上肢と下肢を変えて行われています。このため国内で同時接種するときに、例えば右の足、左の足、右の腕、左の腕にすれば、1日4本の同時接種ができますよね。1歳未満でヒブのワクチン、小児用の肺炎球菌ワクチン、4種混合ワクチン、B型肝炎ワクチンなどを、生後2カ月とか3カ月ぐらいから始めると1回に4本ぐらいできます。このときに大腿部だけでなく上腕にも同時に接種しています。
 池田 例えば、右の大腿部に複数やるのではなくて、手足4本のところに別々に打っていくいわゆる接種部位の組み合わせによっては複数同時でも問題ないということですね。
 岡田 そうですね。結局、複数同時という意味からすると、一つの製剤を混ぜ合わせることはできないということです。例えばB型肝炎のワクチンとインフルエンザのワクチンを別々に打つことは同時接種で問題はありませんが、製剤として違う2つのワクチンを、その場で混ぜ合わせて同時接種することはできません。
 池田 混合はだめということですね。
 岡田 そうです。
 池田 単品でやっていくとなると、複数ですと別々の腕にやるということですね。
 岡田 何本かやるときには部位を変えてやるということです。
 池田 なるほど。それで合点がいきました。
 岡田 質問いただいた先生の、1歳未満では上腕より大腿部が勧められているというのは、1歳未満で今までは1本だけでしたから、乳児期に同時接種を3本、4本するときに、両腕、両足、大腿部での接種というのが最近勧められてきたのだと思います。
 池田 そういうことなのですね。質問②では接種方法について、4種混合ワクチンは添付文書では皮下接種となっているけれども、筋注してはいけないのか。また、筋注あるいは皮下注のどちらかに決まっているワクチンはありますかという質問です。
 岡田 これは開発治験のときに皮下注、筋注というアームを作って開発試験をするかどうかだと思います。ワクチンによっては、皮下注と筋注ができるワクチンもあれば、年齢によって分けているワクチンもあります。皮下注だけのワクチンもあったりします。海外では不活化ワクチンは基本は筋肉内接種です。日本はかつて大腿四頭筋短縮症という、筋肉内接種で筋肉が拘縮した後遺症を残したことがあったため、筋肉内接種を皆さんが怖がられていたという背景があると思います。
 しかしその当時、筋肉内接種されたものに関しては、解熱鎮痛薬とか抗菌薬しかなくて、ワクチンが大腿四頭筋短縮症を起こしたという事例は日本国内ではありません。ワクチンの筋注というのは海外でも広くやられています。しかし、日本では大腿四頭筋短縮症のトラウマがあるものですから、海外で筋注で行われているワクチンでも、わざわざ日本では開発治験のときに皮下注で開発治験をしています。このため、海外では筋注で行われているのに、日本では皮下注しか認められていないということになっていると思います。
 池田 最近、新型コロナウイルスのワクチンも皮下注はないのかという話があったのですが、海外ですと筋注がゴールドスタンダードみたいなものなのですね。
 岡田 そうです。
 池田 日本で皮下注のワクチンをやっているというのは、日本独自のプロトコールを作って治験をやっているということですか。
 岡田 そうです。先ほど大腿四頭筋短縮症の話を申し上げましたが、結局、筋肉内注射そのものを皆さん不安に思われている。ワクチンでそんなことは起こっていないのに、筋肉内注射という行為そのものに関して不安があるのかと思います。
 池田 ということは、どのような種類が筋注か、皮下注かというのは、プロトコールに決まっているということですね。
 岡田 そうです。開発のときに決まっています。
 池田 そのプロトコールに書いてあるものはそのとおりにしなければいけないということですね。
 岡田 そうなのです。
 池田 ではその添付文書を見て、そのとおりにやるということだけですね。
 岡田 はい。結局、海外で筋肉内注射されているワクチンでも、わざわざ日本では筋肉内注射のプロトコールを作らずに、皮下注のプロトコールを作っているので、ヒブのワクチンや肺炎球菌のワクチンは日本だけが皮下注なのです。
 池田 やはり特殊ですね。
 岡田 そういう意味で全くグローバル・スタンダードになっていないと思います。
 池田 よくわかりました。開発の仕方がそうなっているということですね。
 あと、質問③の接種間隔について、15歳以上で生ワクチンの2回目の接種を希望される場合、接種する必要があるのかどうかも含めて、時期とか、あるいはこの年齢を越えて打つことはまずないというような基準はありますか、という質問なのですが、いかがでしょうか。
 岡田 15歳以上の生ワクチンというのが、何を思って質問されたのかと思って考えていました。15歳以上でやる生ワクチンは、風疹の第5期接種で、今、成人男子に接種されています。定期として2回目が望まれているワクチンに関していえば、必要性もあると思いますし、時期も上限も定期としての上限などは決まっていると思います。しかし、任意で必要な場合に行われる場合には上限はないと思います。接種時期も、例えば医療従事者には、はしか・風疹のMRワクチンは必要な回数をやるということになっていますから、2回、接種時期と上限に関しても基本的にはそのワクチンの添付文書に書いてあるやり方でやっていくしかないかと思います。
 池田 特に風疹のワクチンに関しては、やられていない時期の男性ですよね。今、積極的に皆さん、やっていますけれども、こういった定期ワクチンでも、親御さんの関係もあったりして、欠落してしまったりする人がいるのですね。
 岡田 そうです。いらっしゃいます。
 池田 おそらくその話ではないかと私も考えていたのですが、その場合ですと、もちろん抗体がない場合は当たり前なのですが、とにかくやってしまったほうがいいということですね。
 岡田 そうです。おそらく15歳以上で定期としてやる生ワクチンというのはないと思います。
 池田 おそらく忘れてしまったか、何らかの理由で受けられなかった。
 岡田 そういう場合には定期としてやれませんから任意接種です。これはそのワクチンの添付文書に書いてある年齢などを今一度ご確認いただきたいと思います。ただ、必要性に関して言えば、定期になっているようなワクチンは、2回やったほうがいいだろうと思います。2回という接種回数が決められていますから、もし1回しかやっていなくて、定期の年齢を越えられた場合には、2回目を打つ必要性はあるのだろうと思います。
 池田 逆に、いつやっても遅くはないということですね。
 岡田 そうですね。もし忘れられたときには、定期の上限を超えたとしても、任意ででもやってさしあげるほうがいいかと思います。
 池田 ありがとうございました。