池脇 渡邉先生は小児外科で便秘外来もやっておられます。
便秘は大人の病気で、子どもは関係ないと思っていたのですが、小児の便秘はむしろ多いぐらいだとのことで、なぜ子どもに便秘が多いのか。あるいは、最近増えている原因など、そのあたりの背景から教えてください。
渡邉 小児の便秘は、比較的小さい時期から始まるお子さんもいますし、小学校に入ってからのお子さんもいます。各年齢層でそれぞれに原因は異なっていて、最近なぜ増えているかというと、食生活の変化や家庭の環境、それから幼稚園や保育園、小学校での環境のストレスなども、子どもは繊細に感じているところがあり、そういった面で便秘が増えているのではないかと思います。
池脇 確かに、乳児期は、普通の食事ではなくて、母乳あるいは人工のミルクで、ようやく半年ぐらいから離乳食が始まる。当然その間はおむつに垂れ流しているわけで、そこから徐々にトイレに行って排便をして、大人の排便に近づく。子どもさんが本当に何もできないところからそこまで歩んでいくという、長い道のりを順調に歩めるかどうかに、食事や周りの環境が密接に関係していくのですね。
渡邉 そう思います。
池脇 今回の質問は、小児といっても、乳児、幼児、学童と、それぞれ便秘になる背景が違うのではないかということで、まず乳児の便秘はどういう背景からなのでしょう。
渡邉 まだいろいろな組織が未熟です。腸で感じた便意が脳からの信号となり排便が起きるのですが、腸も脳もまだ未熟、いってみれば制御が利かないといいますか、先ほどおっしゃっていたように、垂れ流しという状況はそういうことなのです。逆に排便がしにくい、力を入れにくいとか、そういったことも一つの原因だと思います。
出生後、早い段階から便秘というお子さん、それから離乳食の時期から便秘傾向になったというお子さん、だいたい大きく分けるとその2つになりますが、まず早い段階からの便秘というお子さんは、いわゆる外科的疾患も除外しつつ、母乳がしっかり出ていて、しっかりのめているかのチェックが必要であるのと、もちろん体重の増加についてもチェックしていく必要があります。外来で見落とされやすいのが肛門の位置です。低位鎖肛といって肛門の位置が少し前方に偏位しているお子さんは、孔があいているので見落とされやすいのですが、中にはそういうお子さんもいるということと、それからもともと肛門が狭いお子さんがいます。ちょっと指を入れるとわかりますので、そういったことが診察上は必要だと思います。
池脇 赤ちゃんの早期からの便秘は、器質的なものではないにしても、多少そういった要因があるので、用心深くそういったところをチェックする必要があるのですね。
渡邉 そうですね。まずはそういうものを除外する必要があるかと思います。生まれてすぐの、便秘のお子さんはまずそこから入ってもらって、離乳食が始まってから便秘傾向になったという方に関しては、食事によって便が固くなってきたり、それから水分とのバランスですね。食事量とミルクのバランスがうまく取れていればいいのですが、ほかのお白湯やお茶がなかなかのめなかったり、その切り替えがうまくいかないときは少し便が固くなり、便を出しにくいので治療が必要になると思います。赤ちゃんでも、排便のときにすごく出しにくそうにしている子は、見ればわかると思います。あまりそういうことがないようにしたほうがいいと思いますので、そういうときは坐薬や浣腸を使ったり、離乳食以降のお子さんは内服治療も必要になります。
池脇 まだ乳児なので、このあたりは母乳、あるいは離乳食をチェックして、必要なことがあればそれを改善するのが主な対処の仕方ですね。
渡邉 そうですね。
池脇 そこを過ぎて幼児ですが、これはまた便秘の背景が異なってくるのですか。
渡邉 幼児に入ると好き嫌いが出てきます。偏食ですね。便秘のお子さんは特に野菜が嫌いな子が多いです。そういったことから便が固くなって、排便のときに苦しむ、痛い思いをするという排便に対する恐怖感が生まれます。幼児で発症する便秘は、これがまず一番大きいと思います。あとは、保育園や幼稚園の環境の変化で起きるストレス。そういったことで、これまで便秘傾向だったお子さんが悪化したり、この時期から発症するお子さんも多いです。排便に関する恐怖感が一番重要な問題かと思います。
池脇 原因の一つが野菜を食べないということは、食物繊維が大事なのでしょうか。
渡邉 そうですね。ただ、食物繊維を食品から必要量取るにはけっこうな量が必要になります。それはお母さんの負担もかなり大きいと思いますので、野菜が嫌いであれば、食べられる野菜が中にはあると思いますので、そういったものを使う。そのまま食べるのが嫌であれば、刻んだりとか調理の工夫ですね、そういったアドバイスが大事かなと思います。
池脇 そういう時期になったら、あまり便が固くならないようにしないと、子どもさんが最初の排便で痛い思いをすると、そこから便秘の悪循環が始まってしまうので、そこを極力減らすためにこの年齢あたりでの生活指導、あるいは薬物は何かありますか。
渡邉 理想は食事と水分で、いい便が毎日もしくは1日おきぐらいで出るのがいいのですが、排便に対する恐怖感を一回味わってしまったお子さんは、排便イコール怖いものというイメージからなかなか抜け出せないのです。治療としては、そのイメージを変えてあげることが第一歩だと思うのです。そのためには、食事と水分でうまくいっていないので、薬をのんでもらうということです。少し便をやわらかくしてあげて、出しやすい状態をつくってあげるのがいいと思います。
内服薬はいろいろありますが、これまで多く使われてきたのは酸化マグネシウムです。あとピコスルファートナトリウムもよく使われてきました。また最近、2018年に承認されたポリエチレングリコール製剤、これは2歳以降に使えて、いい便がまとまって出せるので、こういった薬なども使いながらやっていくのがいいと思います。まず排便のコントロールをしっかりつけることを優先させて、排便のイメージを変えてあげたうえで、食事とか、そういった生活指導をやっていくのがいいと思います。
池脇 幼いといっても、子どもさんも排便で辛い思いをして困っているので、便の軟化剤をのんでもらって良くなるというやり方に関しては、子どもさんもそんなに抵抗はないのでしょうか。
渡邉 中には薬をのめない、どうしても拒否が強い子がいます。ただ、のませる工夫はできます。例えば酸化マグネシウムの散剤は粉がちょっと溶けにくいです。そうすると、味はしなくても、舌触りがいやだというお子さんは、のめなくなってしまうので、そういった場合は、錠剤のほうが溶けやすいので錠剤を溶かす方法もあることをお母さんに教えてあげるのと、何かと混ぜることです。食事と混ぜてもいいですし、ヨーグルトなどがよく使われますが、そういったものと混ぜる。そういったアドバイスをしています。
池脇 ちょっとした工夫が必要だということですね。最後に学童の便秘の背景はどうでしょう。
渡邉 学童は、実は幼いときから便秘だったけれども、それが長く続いていたので、その状態が普通になっているお子さんがまずいます。それから、学校という環境ですね。学校のトイレ環境も、最近は改良されてきていると思うのですが、恥ずかしくて排便ができないとか、トイレに行く時間的な余裕がない、ちょっと我慢してしまうことで便秘になるということがあります。腹痛とか、あとは便失禁という症状が学童期のお子さんには特徴的かと思います。
池脇 どのような指導や治療をされるのですか。
渡邉 親が気づいていないということと、本人も自覚がないというところがあるので、これが実は便秘なのだということをじっくり話してあげる必要があるのと、便を漏らしてしまうという症状がおかしいことだということを指導します。治療は、やはり服薬ですね。薬はだいたいのめますので、そこをしっかりのむことで治療をしていきます。
池脇 小児の便秘といっても、乳児、幼児、学童と、それぞれ背景が違う。それに合わせて適切な治療、対処をしていくことで、大人の便秘に引きずらないようにするのですね。
渡邉 そうですね。
池脇 ありがとうございました。
小児の便秘
杏林大学小児外科講師
渡邉 佳子 先生
(聞き手池脇 克則先生)
便秘を訴える小児が増えたようです。乳児、幼児、学童の各年齢層における非器質性の慢性便秘の生活指導と薬物療法についてご教示ください。
埼玉県開業医