ドクターサロン

 池田 今、新型コロナウイルスのワクチンがアナフィラキシーを起こすという話題もあってこのような質問が来たと思うのですが、そもそもアナフィラキシーとアナフィラキシーショックというのは違うのでしょうか。
 海老澤 アナフィラキシーというのは、アレルゲン等の侵入により複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与える過敏反応をいいます。アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックといいます。アナフィラキシーの症状としては、皮膚・粘膜症状、あるいは呼吸器症状、循環器症状、持続する消化器症状などが代表的なものですが、皮膚・粘膜だけの症状が出て、それに呼吸器症状を伴ってくるような場合を、通常はアナフィラキシーととらえることが多いかと思います。院内で造影剤を使ったときにいきなりショックから始まって、発疹とか皮膚症状を伴ってこない、あるいは呼吸器症状を伴ってこないようなケースも、医薬品の場合などでは起こることがあります。
 池田 アナフィラキシーとアナフィラキシーショックは一つの範囲の中にあるけれども、ショックになると血圧低下とか意識障害とかが出てくるという理解でよいでしょうか。
 海老澤 基本的には循環動態に影響を与えて血圧が低下し、それに伴って脱力、あるいは意識障害等を伴ってくるような場合をアナフィラキシーショックととらえていただければと思います。
 池田 質問にあるように、アナフィラキシーショックの治療として最初の対応は、アドレナリンの筋注になるのでしょうか。
 海老澤 ショックまでいった状態でアドレナリンの筋注にいくと、複数回、アドレナリンの筋注が必要になることがよくあります。ヨーロッパ、アメリカなど世界中のガイドライン、そして世界アレルギー機構のガイドラインでは、アナフィラキシーであるという診断をつけた段階で、アドレナリンの筋注を第一選択薬として使用することが勧められています。
 池田 感覚としては、ショックにいく前に、皮膚の症状プラスほかの臓器の障害が出たときにはアナフィラキシーとしてアドレナリンの注射をするということでしょうか。
 海老澤 皮膚とか粘膜の症状が出た場合というのはとてもわかりやすく、それに呼吸器系の症状、循環器系の症状、あるいは持続する非常に厳しい消化器症状を伴う場合に、通常はアナフィラキシーと診断することが多いと思います。そのような場合にはわかりやすいのですが、いきなり血圧低下で始まるとか、あるいは単独の呼吸器症状で出てきたような場合というのは、それがアナフィラキシーであるととらえていくのが意外と難しいこともあると思います。世界アレルギー機構の診断基準が2020年に改訂され、単独の循環器症状、あるいは単独の呼吸器症状でも、アナフィラキシーの可能性を考慮して治療を進めていくべきとされています。
 池田 例えば造影剤を使っている間に起こるとか、ほかの薬物でもそうですが、点滴をしている間に起こるとか、そういう場合は呼吸動態、循環動態の変化だけでアナフィラキシーとして治療するということですね。
 海老澤 先生がおっしゃるとおり、院内発生の場合には医薬品によるものが多いです。PMDA等に上がってくる副作用報告をまとめていくと、特に造影CT、点滴静注、あるいは冠動脈造影などで起きることが多いです。薬物が原因で点滴静注の場合、あるいは造影剤の場合のアナフィラキシーの起こり方というのは、例えば食物とかのアナフィラキシーに比べると時間的にたいへんスピードが速いという特徴があるので、皮膚・粘膜の症状が必ずしも出るとは限らないと思います。そこでそのような判断、対応が必要になると考えられます。
 池田 質問の3番に、βブロッカー服用時のグルカゴンの使い方というものがあるのですが、まさに冠動脈CTでβブロッカーを使って徐脈にしておいて造影CT、というときの質問なのでしょうか。
 海老澤 そういうケースもあると思いますし、血圧の管理でβ刺激薬を使われているような患者さんで造影を行ったときにも起こりうると考えられるので、比較的高齢者に起こりうることだと思います。もちろん最初に問診などを十分取っていて、βブロッカーを使われていることをきちんと把握していればいいのですが、担当医が十分に把握していないこともあります。そのような場合には、当然アドレナリン筋注を最初に行うと思うのですが、その反応性が良くないようなケース、複数回投与してもなかなか血圧等が上がってこないようなケースも実際にあると思います。その場合にはグルカゴンを使っていくのですが、院内で発生した場合にはおそらく初期対応ではなく、ICU管理や入院管理において行われていくような場合に、グルカゴンの使用につながるのではないかと思います。
 池田 このケースは一般診療の医師はあまり考えなくていいのですね。
 海老澤 そうですね。基本的にはアナフィラキシーといえばアドレナリンの筋肉注射です。その方法としては、院内等で患者さんが実際にお持ちになっているオートインジェクターのエピペンで行う場合もあるでしょうし、シリンジに詰められたかたちでのアドレナリン製剤もありますし、あとはバイアルから1,000倍希釈のアドレナリンをシリンジで吸い取って使っていく。その3つのパターンがあるのではないかなと思います。
 池田 いずれでもよいのですね。
 海老澤 はい。そこにある製品を迅速に的確に使っていただくことが重要ではないかなと思います。
 池田 ②の質問、アナフィラキシーショックの対応として抗ヒスタミン薬、ステロイドはどのように使うのでしょうか。
 海老澤 基本的には抗ヒスタミン薬、あるいは経口、静注投与のステロイドに関しては、アナフィラキシーの治療においては第一選択薬ではありません。あくまでもこれは、例えば抗ヒスタミン薬ですと蕁麻疹等の治療経験に基づいた効果を期待したうえで皮膚・粘膜症状に対しての投与ということになるかと思います。ほかの呼吸器系の症状、あるいは持続するような消化器系の症状に対し、抗ヒスタミン薬は有効性がないので、そこは注意が必要です。
 また、ステロイドに関しては、非常に多岐にわたる作用がありますが、もちろん作用時間の違いがステロイドの中にもあるものの、実際の効果は数時間たたないと症状の緩和にはつながりません。現在、アナフィラキシーのガイドライン等では二相性反応を抑制する目的で使っていくことがうたわれています。これに関しても基本的にエビデンスレベルとしては非常に低いものになるので、ステロイド、またβ刺激薬の吸入等が呼吸器系に使われることもあるかと思いますが、それらはあくまでも第二選択薬であるということを十分認識したうえで、もしそれらで十分な効果が得られない場合には当然アドレナリンを使っていくことが求められていると思います。
 年配の医師ですと、アナフィラキシーのときにステロイドと抗ヒスタミン薬を使うことがいまだけっこう多いのですが、アドレナリンの筋肉注射がアナフィラキシーの第一選択薬というのは国家試験の問題等でも非常に大きなウエートを置いて出されています。若い医師と年配の医師でこの辺の違いがあり、抗ヒスタミン薬、ステロイドを使いがちなのは年配の医師に多いのではないかと危惧しています。
 池田 そういった背景があるのですね。例えば、新型コロナウイルスのワクチンを打って蕁麻疹が出た。ほかに特に症状がない場合はアナフィラキシー、あるいはアナフィラキシーショックではなくて、単なる蕁麻疹として対処していくということでしょうか。
 海老澤 はい、それで十分ではないかなと思います。ただ、それが最初のアナフィラキシーの皮膚症状の一つである可能性も十分ありますので、打った後、そういう症状が出てきた場合には、その先に呼吸器系の症状、循環器症状、あるいは持続する消化器症状が出てこないかどうかをその後十分に経過観察していただきたいと思います。
 池田 アレルギー歴がある方がワクチン接種後30分はその会場にいるのはそういう目的なのでしょうか。
 海老澤 基本的にはすべてのアレルギーの経験者というわけではなくて、過去に医薬品等を含めてアナフィラキシーを起こしたことがあるような方に関しては30分程度、新型コロナウイルスのワクチンを打った後に経過観察することが推奨されています。
 池田 最近ではそれがアレルギー全般に拡大されてきたような気がしまして、アレルギーの「ア」の字が出ると、「はい、あなたは30分」という感じになっているみたいですね。
 海老澤 アレルギー疾患がある方には新型コロナウイルスのワクチンを打つのをためらう方がけっこういるので、外来でそういう質問をたくさん受けます。そこで、日本アレルギー学会のウェブサイトに学会からの新型コロナウイルスのワクチンに対するステートメントが出ているので、ぜひご覧いただきたいと思います。
 池田 ありがとうございました。