池脇 私は非常勤で産業医をやっていますが、肝機能障害が多いのは実感しています。右肩上がりに多くなっているとすると、その背景には何があるのでしょうか。
石川 やはり近々は肥満の方が増えてきていることが一番大きな要因だと思います。人間ドック学会の人間ドックでの有所見に関する報告でも、肝機能障害は脂質異常症、肥満よりも多いか、ほぼ同等の頻度です。有所見の男性では約40%、女性では約25%が肝機能障害といわれています。また、男性の場合は壮年期、40~50歳代で肝機能障害の頻度が高く、女性の場合にはむしろもう少し高い50歳以降で有所見が高い傾向にあります。やはり生活習慣が大きく関連していると思っています。
池脇 やはり肥満が異常を引っ張っている一つの要因で、男性で約40%を超えるというのはとても高い頻度ですね。
石川 そうですね。有所見の中では非常に多いと思います。
池脇 ほかの生活習慣病の異常も増えていると思いますが、担当する産業医は、異常が出たときにどう対処するか悩む症例もあるかと思います。実際、この異常は加齢によって増えるのかと思ったりもしますが、男性だと壮年期が多いということは、例えば飲酒などの背景もあるのでしょうか。
石川 有所見の中を精査してみると、今一番多いのは脂肪性の肝疾患で、その中ではアルコール性よりも、むしろ4~5割がNASHといわれている非アルコール性脂肪性肝炎、あるいはその前段階であるNAFLD、非アルコール性の脂肪性肝疾患といわれているタイプのものが多いと思います。最近の1人当たりの日本人のアルコール摂取量は以前に比べると減少してきています。若年者の飲酒の嗜好は変わり、飲酒量は少なくなってきています。
池脇 背景の病態についてご説明いただきましたが、通常、健康診断で肝機能といいますとAST、ALT、γGTP、だいたいこの3つですね。
石川 そうですね。一般的な企業健診、また自治体の特定機能診査という、メタボリックシンドロームを調べる健診ではAST、ALT、γGTPが肝機能検査として取り扱われています。人間ドック、それから節目健診といった場合には、肝炎ウイルス検査や、ビリルビン、アルブミンといったような付加的なものも加わっていますが、基本的にはAST、ALT、γGTPの3つが指標の主なもので、その中でご判断いただくことになると思います。
池脇 基本的な質問で恐縮ですが、AST、ALT、γGTPについて、より肝特異的、あるいは肝臓にたくさん含まれている、そうではない、といった特性の解説をお願いします。
石川 ともにトランスアミナーゼといわれているAST、ALTは肝臓の中に含まれています。肝の含有量ではALTに比してASTが多く、ALTの方が肝特異的な酵素です。一つ強調したいのはASTとALTの比率をご覧いただくのが肝要だということです。昔ではGOT、GPTという表記になっていましたが、この比率の中でASTが有意に高いか、あるいはALTが有意に高いかで、ある程度この病態を類推することができるからです。
特にASTが有意な場合は肝障害としてはオンゴーイングとか、あるいは急性、急激に上がってきている徴候として捉えたほうがよいですし、またアルコールに伴う肝疾患はどちらかというとASTが高値になると思います。
それからγGTPの値は、よくアルコール性に特異的な所見とされています。γGTPは飲酒により酵素誘導が起きますので、そのほかの胆道系酵素は健診項目では含まれないことがありますが、ALP(アルカリホスファターゼ)や、LAP(ロイシンアミノペプチターゼ)といったほかの胆道系酵素とは異なり、アルコールをお飲みになる方はγGTPだけが有意に高くなります。先ほど先生からお酒というお話がありましたが、NASH、NAFLDと少し違い、アルコール性の場合にはγGTPが非常に突出して高くなることが特徴です。
池脇 ASTのほうが有意に高いときにはオンゴーイングな肝障害とおっしゃいましたが、一般的にはASTとALTの比率を取ると、ややASTのほうが低めに出るのですね。
石川 そうですね。
池脇 逆にいうと、それが明らかに高いときは先生方は要注意として見られるのですね。
石川 そうですね。今、肝障害が生じていて、これから何か起きるのかと危惧します。また、100台まで上がっている場合には、やはり要注意かと思います。一般的に健診のときのパニック値をトランスアミナーゼでは400で設定している施設が多いかと思いますが、通常200を超えている場合には即医療機関にご相談いただく。冒頭の質問の答えの一つとしては、それが一つ指標になるかと思います。
池脇 健診ですから、大多数の対象者は何も自覚症状がなくて、その中での異常値というのと、例えばAST、ALTが200、400を超えると、倦怠感やほかの症状も出てくるようなケースがあると考えたほうがいいのでしょうか。
石川 肝疾患はなかなか症状が出にくいので、1,000を超えても症状が出ない方も当然います。もちろん先生がおっしゃったみたいに倦怠感があるとか、指標には入っていませんが黄疸があるとか、そういった場合には急を要することだと思いますし、また発熱や腹痛などほかの症状があれば、そのほかの異常が原因のこともありますので、即ご連絡いただければと思います。
池脇 逆にいうと、パニック値をきたしていても本人はけろっとしているのでしょうか。
石川 むしろそのほうが多いような感じがします。
池脇 肝機能障害で、見事に体重の変動と肝機能の変動がパラレルになっている人がいます。
石川 そうですね。おっしゃるとおりだと思います。
池脇 これはどちらかというと、ASTとALTのうち、ALTのほうが特にリンクしているのでしょうか。
石川 ケース・バイ・ケースで、特に先ほど申し上げたNASHといわれている脂肪性肝炎の線維化が進む場合には、むしろASTのほうが高値になる傾向です。線維化が進んでいる場合、肝硬変になっている場合はそうだと思います。
比率は非常に大事だとは思いますが、あとは健診の場合、最近はエコーの検査が非常に有用です。健診で有所見の場合、厚生労働省が出している指針では、トランスアミナーゼで51、γGTPで101以上が受診勧奨になっています。こういった健診で見つかる多くの肝障害の場合、9割以上は肝臓の脂肪化が伴っているとの報告もありますので、その辺をご留意いただいて、質問のように精査の必要性といったときに、人間ドック等では必須ですが、可能であれば腹部エコーの検査は非常に有用かと思います。
池脇 その場合の精査は、肝臓の専門医に直接お願いしなくても、臨床実地の医師も腹部エコーを結構やられるので、そこで確認いただければよいですか。
石川 そうですね。ゼネラルといわれている医師もエコーをお持ちのことが多いですね。あと、強調させていただきたいのはFIB-4 indexというインデックスです。これはNASH、NAFLDのガイドラインの中にも入っていまして、インターネットで日本肝臓学会FIB-4 index計算サイト*を検索し、年齢、AST、ALTと血小板の値を入力すると簡単にデータが出ます。多くの場合、2.67がカットオフ値で、だいたい衆目一致し、それ以上だとかなり線維化が進行していることになります。昔、C型肝炎では血小板の数が非常に大事だという話がありましたが、血小板は確かに肝臓の線維化とリンクしているところがありますのでFIB-4 indexは非常に有益ですし、概算で出されている人間ドックの施設も多々あるかと承知しています。
池脇 確かにASTとALT、血小板、あとは年齢ですから、通常の健診でもできますね。
石川 そうですね。非常に簡略に、ある程度肝臓の線維化の状態を類推することができます。
池脇 最後に、最近は健康食品、サプリを摂っている方もけっこういるように感じています。もちろん、よかれと思って摂っているのでしょうが、ちょっと肝臓に悪さをするようなもので何か知られているものはあるでしょうか。
石川 肝障害と関連が比較的多いのは漢方系のものですかね。あとは、やせ薬といわれているようなものも時々肝障害をきたすことがあります。比較的糖尿病やほかの合併症を持つ方が多数、飲まれている印象です。それからサプリメントの場合には、どちらかというと女性の場合にその辺を問診されたほうがいいかという印象があります。
池脇 肝臓の数字だけではなくて、ほかのいろいろなパラメーター、体重、そしてサプリメントも含めて包括的にチェックしていくのですね。
石川 そうですね。そのほか、脂質異常症や糖尿病の合併なども十分配慮して、特に先ほどのNASHの線維化進行例の場合、肥満のほかに糖尿病を合併している方は予後も非常に悪くなることが明らかですので、総合的にご判断いただいて、精査の必要性を勘案していただければいいと思っています。
池脇 どうもありがとうございました。
*日本肝臓学会 FIB-4 index計算サイト
健康診断における肝機能
東京慈恵会医科大学教授/附属病院患者・支援医療連携センター長
石川 智久 先生
(聞き手池脇 克則先生)
健康診断における肝機能障害は頻度の高い異常所見ですが、精査の必要性の判断などについてご教示ください。
埼玉県勤務医