山内
レーザーというのは皮膚科領域で非常に活躍するようになって、ホクロ、脱毛といったものなどに非常に幅広く応用されていますが、実際、相当多くの方がこういった治療を受けていると見てよいですか。
山田
はい。最近は多くの皮膚科の施設でレーザー機器を購入して治療に使っているようです。特にシミ、くすみ、そばかすなど、美容系の治療頻度が高いようです。
山内
特に女性などには相当広く利用されていると見てよいのですね。
山田
そうですね。
山内
まずレーザーを皮膚に当てたらどうなるか、そのあたりから解説をお願いしたいのですが、例えばホクロに対して使った場合、メラニンに対しての作用は、いかがでしょうか。
山田
メラニンに吸収される波長のレーザー光を当てますと、レーザーの光エネルギーが熱エネルギーに変換されます。その熱の影響で組織の破壊、あるいは細胞の破壊が起こりホクロやシミの治療ができています。
山内
メラニン吸収がいい波長があるのでしょうね。
山田
メラニンの吸収曲線(図)というのがあります。吸収曲線というのは縦軸に吸光度、横軸にレーザー波長を取るのですが、メラニン吸収曲線は左から右への緩やかな下がりのカーブになります。したがって、左のほう、つまりレーザー波長の短いほうがメラニン吸収がよくて、右のほう、レーザー波長の長いほうが吸収が低くなります。
そうなると、短い波長のものを使えば治療効果がいいようにも思えますが、皮膚への深達度は逆になり、波長が長いほうが皮膚の奧まで入っていきますし、波長が短いと表層しか届かないということになります。したがっておおむね中間領域といいますか、赤い色の波長から近赤外線領域までの波長が、メラニンに対してふさわしい波長だということになっています。
山内
ホクロなどに関してはまた別の機会にということで、脱毛、むだ毛処理に移らせていただきます。脱毛に対してはどういったレーザー光になるのでしょうか。
山田
脱毛の場合には、目的とする毛包組織だけを破壊して、その周辺の組織には影響を与えないというのが大事な点になります。レーザー光線というのはそれが可能な光でして、これを選択的光熱溶解理論と、ちょっと難しく言うのですが、要は照射時間を調整することによってそういう選択的な治療が可能になるのです。
もう少し細かく言いますと、毛のメラニンに吸収されたレーザーの光エネルギーは熱エネルギー変換されます。すなわち毛が熱変性を起こします。その熱が周辺の組織に伝わって、目的とする物質、脱毛治療においては毛包を壊すのです。加熱された目的物質(毛包)の温度が周辺組織の温度と等しくなるまでの時間を熱緩和時間といい、その熱緩和時間以内の照射時間で治療をすると、目的とする物質だけが治療できるということになっています。ちなみに毛包の熱緩和時間は3~50m(ミリ)秒です。
山内
脱毛は基本的には毛包を選択的に破壊すると考えてよいのですね。
山田
そのとおりです。
山内
そのときにメラニンをうまく利用するというかたちになるのですね。
山田
はい。
山内
ほかに照射エネルギーの問題もあるのでしょうか。
山田
エネルギーは、目的とする物質を破壊するのに適切な量というのがあって、それを超えると問題が起こるし、足りなければ治療が不十分ということになります。レーザー機種ごとにエネルギー量の設定がされています。
山内
質問に、レーザーで毛根を焼くのはダメージになりませんかとあります。このあたり、もう少し詳しくお聞かせ願えますか。
山田
まさにそのとおりで、ダメージが起きなければ脱毛になりません。組織が壊れなければ、またそこから毛が生えてきますので、一時的な脱毛でしかないわけです。ですから、レーザー脱毛で永久脱毛を目指す場合には組織の破壊が必要なのです。
ちなみに、エステティックサロンなどでも脱毛治療ということでやっていますが、これに関しては厚生労働省医政局医事課長の通知というのがあります。それによると、用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線またはその他の強力なエネルギーを有する光線を用いて、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為は、医師免許を有しない者が行うと、医師法17条に違反するということになっていますので、エステで行う脱毛というのは、組織破壊をしてはいけないと理解していただきたいと思います。
山内
永久脱毛という言葉はよく使われていますが、今のお話ですと、あえて永久ではない脱毛にすることも可能なのでしょうか。
山田
はい、そのとおりです。私たちは実は永久減毛という言葉を好んで使うのですが、極力減らしていくという意味です。一般的には永久脱毛と理解していただいてもいいと思いますが、なかなか短い時間で100%、完全になくすというのは厳しいと思います。
山内
難しいということですね。わかりました。この質問は副反応、その他合併症についてですが、誰しも少し気になります。どういったものが頻度が高いのでしょうか。
山田
蕁麻疹、毛包炎、熱傷、色素沈着、色素脱出、紫斑、硬毛化などがレーザー治療の副作用として挙げられています。副作用・合併症の発生率は1.7~19%と報告者によって開きがあります。
山内
これはむろん医師の手技、技術力で随分差があると思いますが、先生が行われる場合でしたら、それほど多くの頻度はないと見てよいのでしょうか。
山田
レーザー照射の設定を正しく行えば、ほとんど副作用は生じません。
山内
さて、主な副反応に関して簡単に説明願いたいのですが、まず多い蕁麻疹、これはいかがでしょうか。
山田
これは一過性の軽微なものですので、治療を終了して冷却している間に消えてしまうことが多いです。レーザー照射によって肥満細胞からヒスタミンが出ることが原因です。
山内
ほかに、毛包炎、紫斑といったものがあるようですが、このあたりはいかがでしょう。
山田
毛包炎は、レーザー治療の操作の時点で細菌感染が起きれば生じてしまうことがあります。ただ、これも事前に清潔度を保っておけば、そんなに起きるわけではありません。
そして熱傷ですが、これに関しては、レーザー照射時の冷却が行われなかったり、あるいは弱かったり、照射エネルギーが強かったりすれば熱傷になります。ですから、設定が正しければ、熱傷も十分に防げる内容だと思います。
また、紫斑に関しても、熱エネルギーが強すぎると血管損傷を起こして、血液が血管外に漏出することによって起きますので、これも設定に気をつけていただければ防げます。
山内
レーザー脱毛を繰り返すと毛が太くなるとよく言われていますが、実際はどうなのでしょうか。
山田
これは本当に困った事象になるのですが、幸いにして私は硬毛化の経験はありません。部位的には、うなじ、上腕から肩、上背部、下顎などにレーザー治療を行った場合に、何回か繰り返していくうちに、毛がなくなるどころか、濃くなる、太くなるというのが硬毛化現象です。発生頻度は0.03~10.5%と、報告者によってやや開きがありますが、1割以下のことだと思います。
山内
原因は何なのでしょう。
山田
これは難しいところですが、今言われているところでは、照射エネルギーが弱いと組織損傷が中途半端になってしまって、逆に各種サイトカインが組織修復因子として働き、毛を成長させてしまうのではないかという説。レーザー照射によって毛の成長因子が分泌されるのではないかという説もあります。
山内
何か対策はありますか。
山田
これも難しいところでして、深達度の高いNd:YAG(ヤグ)レーザーを用いて強めのエネルギーで照射するという説もある一方で、硬毛化を見たら一度治療を中断してみるといいという説もあります。実際のところ、確実な対処方法はなくて、治療前にあらかじめ硬毛化の可能性を説明して、患者さんに納得してもらうしかないのが現状です。
山内
なかなか難しいところですね。最後に、皮下硬結、これはやはりできるものなのでしょうか。
山田
通常のレーザー治療では皮下硬結は起きません。もしあるとすれば特殊なケースではないかと思います。例えば、毛包炎が起きて、適切な治療が行われず、放置しておいたとします。毛包炎が遷延化して肉芽を形成することがあるかもしれません。肉芽になれば、しこりとしてさわることがあると思います。また、熱傷についても、熱傷の治療が十分に行われなくて、遷延化して線維化を起こすことがあるかもしれません。このようなときにも線維化を硬結として触知することになるでしょう。しかし、これらの事象はいずれも二次的な結果であって、初期に適切な治療が行われれば、その発症は十分に防げるものと考えます。
山内
ありがとうございました。