山内
GIST(ジスト)という病名、私はあまり耳慣れない病名なのです。まずは概要からお話し願いたいのですが、そもそも珍しい病気なのでしょうか。
地口
消化管間質腫瘍といいまして、gastrointestinal stromal tumorの略です。消化管にできる悪性腫瘍の一つです。消化管蠕動運動のペースメーカー細胞であるCajalの介在細胞が消化管の筋層内にあるのですが、それが腫瘍化したものと考えられています。臨床的な発生頻度は年間10万人に1~2人で、いわゆる希少疾患ですが、消化管にできる肉腫の中では最も頻度の高いものです。
山内
原因はいかがでしょう。
地口
GISTの9割方はc-kit遺伝子、あるいはPDGFRα遺伝子の変異によって起こっていると考えられています。
山内
原則的には遺伝子疾患と考えてよいのですね。
地口
そうですね。遺伝子変異が原因となっています。
山内
先ほど発生源をお話しいただきましたが、これは胃、小腸、大腸と分けた場合、どこに多い腫瘍なのでしょうか。
地口
最も多いのは胃で、60%ぐらいです。次に多いのが十二指腸・小腸で、これが30%ぐらい。直腸が5%ぐらいで、食道などは非常にまれです。
山内
胃に多いのですね。遺伝子疾患ということですので、やはり若い方に多いのでしょうか。
地口
いいえ、好発年齢は中年以降です。ただ、一部は小児や若年成人に起こる若年性GISTというものもあります。
山内
少しタイプが違うのでしょうか。
地口
そうですね。c-kit遺伝子、あるいはPDGFRα遺伝子がドライバー遺伝子となって発生しているのが通常のGISTなのですが、そういった一部の若年性GISTの場合にはコハク酸脱水素酵素、すなわちSDHの機能欠損が主な原因と考えられています。
山内
性差に関してはいかがでしょうか。
地口
性差は特にないです。
山内
さて、臨床的な話に戻りますが、肉腫と聞きますと、非常にたちが悪いという印象があります。がんと比べてもそのような印象がありますが、いかがでしょうか。
地口
悪性腫瘍であることは間違いないのですが、幅がありまして、手術で切除されたGISTを再発リスク分類によって悪性度を評価します。現在、最も使われているリスク分類はJoensuu分類というものですが、①腫瘍の大きさ、②核分裂像数、どこの消化管に発生したかという③原発臓器、④腫瘍破裂を起こしていたか、いなかったか、この4つの因子で4つのグループに分けます。再発高リスクに分類された場合には、手術後3年間の術後補助化学療法が推奨されています。
山内
治療に関しましてはまた後ほどうかがいますが、まず先にどういった症状が多いのでしょうか。
地口
GISTは、よほど大きくならない限り基本的には無症状が多いです。ある程度大きくなりますと、周囲の臓器を圧迫しますので、圧迫症状や消化管の通過障害、あるいは時々出血を起こしたりすることもあります。
山内
ということは、無症状、無症候性が多いということでしょうか。
地口
そうですね。諸外国に比べて、わが国は胃がん検診が発達していますので、上部消化管スクリーニングで偶然発見されるような小さなGISTもそう珍しいことではないです。
山内
よく胃の内視鏡で粘膜下の隆起性病変という返事が返ってくることがありますが、こういった返事を見た場合は疑うべきでしょうね。
地口
そうですね。その中でも粘膜下腫瘍というような特徴的な隆起の場合には、かなりの確率でGISTであると思います。
山内
そうしますと、次は画像診断ということでよいのですね。
地口
そうですね。超音波内視鏡を用いたり、あるいはCT、MRIを用いて、存在診断であったり、病期診断をしますが、GISTの確定診断は病理診断によってなされます。
山内
CTスキャンの画像の特徴としては、どういったものが挙げられるでしょうか。
地口
がんの場合には主に浸潤性発育をすると思いますが、GISTの場合には被膜のようなものに包まれているので、膨脹性発育をします。したがって、粘膜下、あるいは消化管の外側に向かって類円形で大きくなっていきます。小さい場合には内部は均一であることが多いですが、ある程度大きくなって、悪性度が高くなってくると、内部は不均一になってきたり、出血壊死を起こしているような画像上の特徴があります。
山内
がんと違って、被膜に覆われているような感じで、境界はわりに鮮明と考えてよいのですか。
地口
おっしゃるとおりです。
山内
非常に特徴的な像になるのですね。
地口
はい。
山内
遺伝子診断はいかがですか。
地口
切除されたGISTの遺伝子変異解析は、実臨床でも行われているのですが、c-kit遺伝子、あるいはPDGFRα遺伝子の変異を解析することで、ある程度予後が予測できたり、治療薬に対する反応性も予測することが可能となっています。
山内
日本の胃がん検診は非常に発達していますから、無症候性がかなり多く発見されて、当然小さいものも多いと考えてよいのですね。
地口
そうですね。
山内
予後と治療に移りますが、放置しているとほぼ死に至ると考えてよいのですね。
地口
そうですね。ただ、ここが難しいところで、すべてのGISTがどんどん進行していって死に至るかというと、そうではないのです。基本的には悪性と考えられていますので、GISTと病理診断がつけば切除が推奨されていますが、偶然見つかるような粘膜下腫瘍、例えば1~2㎝ぐらいの大きさで、悪性を疑うような所見がなければ、年1~2回の経過観察をすることもあるのです。
そのまま大きさも変わらず、悪さをせずに一生終わるというものもあるので、そこはいまだにはっきりわかっていませんが、c-kit遺伝子、あるいはPDGFRα遺伝子といったようなドライバー遺伝子の変異に加えて、何らかのさらなる遺伝子変異が加わることで進展していく可能性が考えられています。それが起こらなければ、おとなしく、そのまま経過する場合も多々あります。
山内
非常に小さいGISTは、そのまま、あまり悪いこともしないで、その方の一生が終わってしまう、そういったものもあると考えてよいのでしょうか。
地口
そうですね。これまでの研究では、3人に1人の胃には1㎝以下のマイクロGISTがあることもわかっています。その大半は臨床的に問題とならないもので、一生小さいまま、おとなしい性格のままでいることが多いのですが、何らかの遺伝子異常、あるいは染色体異常が加わることで急にスイッチが入って、発育、進展していくことも考えられています。
山内
そこのあたりはまだなぞの部分があるのですね。
地口
おっしゃるとおりです。
山内
最後に、先ほども出ましたが、治療のあたりをもう少し詳しく教えていただきます。無症候性ですと、基本は経過観察になるのでしょうか。
地口
はい。粘膜下腫瘍というかたちで発見された場合には、悪性所見がなければ経過観察する場合もあるのですが、ただ、例えば超音波内視鏡を用いたり、何らかの方法で粘膜の下にあるGISTの組織を取ってくることで、病理組織診断がつけば、現在のガイドラインでは、大きさが小さいものであれ、切除しましょうとなっています。外科的に完全に切除することがGISTの基本的な治療法です。
山内
サイズに関してはいかがでしょうか。
地口
5㎝以上の場合には、病理組織診断がついていなくても切除対象となります。
山内
5㎝以上ですね。
地口
5㎝が一つの目安です。
山内
かなり大きいですね。
地口
そうですね。5㎝以上で見つかることはそんなに多くはないですね。
山内
普通、腫瘍では疑わしきは罰しろみたいな感じで、肺がんなどは小さかったらどんどん取ってしまうところがありますが、これはそういうわけではないのですね。
地口
まだその辺がはっきりわかっていない部分もありますので、現在のガイドラインでは病理組織診断でGISTと診断がつけば、小さいものであっても切除しましょうとなっています。それはmalignant potentialがあるからです。
山内
4~5㎝以下のものですと、通常は経年的に経時的な変化を追うことでもいいのですね。
地口
そうですね。増大傾向とか、出血とか、あるいは形がいびつになってきたとか、そういった悪性を疑うような変化がなければ経年的に経過観察することもあります。
山内
ありがとうございました。