大西 國島先生、クロストリジウムディフィシル腸炎が大きな問題になっていると思います。どういった原因で起きてくると考えられているのでしょうか。
國島 このClostridium difficile感染症(CDI)ですが従来、クロストリジウムディフィシルという菌があります。抗生物質、抗菌薬を使った後に、おなかの腸内細菌叢が狂って、そこでC.ディフィシルという菌が増え、これが毒素を出し下痢をするという病気です。2016年にクロストリジウムからクロストリジオイデスという名前に変わりました。
大西 名前の変更に何か理由があったのでしょうか。
國島 従来はクロストリジウム属だったのですが、遺伝子解析等で性状等も勘案して、クロストリジオイデス属が新しくでき、そこで名前が変わりました。
大西 その菌は疫学的には広くいるものなのでしょうか。
國島 これはもともと芽胞という、アルコールとか酸に耐性のある菌で、環境にもけっこういるといわれています。入院患者さんを検査をすると、1割ぐらいの方から見つかるといわれていますし、芽胞ですので、環境とか動物や野菜などでも見つかるといわれています。
大西 その腸炎を起こす患者さんがけっこういますが、リスクファクターのようなものはあるのでしょうか。
國島 一番大きいものはもちろん抗菌薬を投与したことです。もう一つは高齢者、あとは免疫が下がっているような方は下痢症を起こしやすいといわれています。薬の影響としては、ほかには胃酸の阻害薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)をのむと少しリスクが上がるという報告があります。
大西 腸炎を起こす抗菌薬は何かある特定の種類のものに起きやすいといったことはあるのでしょうか。
國島 一般的には広域抗菌薬、要するに広いスペクトラムの抗菌薬のほうが多いといわれています。ただ、多種多様な抗菌薬でCDIを起こしますので、どちらかというと、抗菌薬の種類というよりは、長期にわたる使用のほうがリスクが高いといわれています。
大西 先ほど下痢の症状のお話がありましたが、その症状は抗菌薬をどのくらい使った頃から発症しやすくなるのでしょうか。
國島 だいたい1週間以降が多いといわれています。熱が出たり、白血球が増えたり、あとは炎症反応等もあることはあります。ただ、実際に入院中の患者さんですと、例えば便秘用の薬で下痢をしたり、抗がん剤で下痢をしたりすることもありますので、その判断を丁寧にする必要はあると思います。
大西 重篤になるケースもあるのでしょうか。
國島 日本では軽症のまま改善するような方ももちろん多くいますが、海外では、毒素をたくさん出すリポタイプ(遺伝子型)があり、重症化することがあります。あとは高齢の方が下痢をすると循環動態がかなり不安定になるので、日本では超高齢のような方だと何割かはお亡くなりになります。さらに大事なこととして、下痢をすると現疾患の治療が遅れてしまい、入院期間が延びることもあります。
大西 診断に関してはどのように進めたらよいでしょうか。
國島 まず、先ほど申し上げたようなCDIのリスクがあるかどうかを評価するのが1点。もう一つ大事なのは、例えば肺炎の治療では痰がたくさん出ているかどうかが大事なように、下痢がどのくらいの下痢かをまず評価することだといわれています。ガイドラインではブリストルスケールという客観評価で、1~7あるうちの5以上の検体を取りましょうといわれています。その次に、毒素を出すディフィシルと出さないディフィシルがあるので、ディフィシルがいるかどうか、毒素を出しているかどうかの迅速診断検査が行われます。
大西 毒素の検査の結果は早く出るものなのでしょうか。
國島 一般的に行われているのはイムノクロマト法のようなインフルエンザのような検査を使います。ですので、だいたい30分ぐらいで結果が出ます。ただし、その検査でわかるのはディフィシルがいるかどうかで、トキシンという毒素の感度は半分ぐらいしかないといわれています。本当に毒素を出しているかどうかはさらにPCR法に近い方法である遺伝子検査を行うとすぐわかるという、2段階の方法がガイドラインでは推奨されています。
大西 治療について教えていただけますか。
國島 一つは日本の非重症例ではメトロニダゾールをお使いいただくことがあり、再発のリスクがある場合や再発例ではフィダキソマイシンという薬を使うこともあります。重症と判断される場合はバンコマイシンという薬。あとは、日本ではプロバイオティクス、酪酸菌(宮入菌製剤)など、整腸剤を予防薬として使うこともあります。あとはモノクローナル抗体といわれるようなトキシンBの抗体薬を再発抑制として使うことができます。
大西 原因と考えられる抗菌薬ですが、その中止の判断はどのタイミングならよいのでしょうか。
國島 おっしゃるとおりで、現疾患で治療がある場合にはなかなか抗菌薬を中止できないケースがあります。その場合には現疾患の治療を優先しますから、そういうときはフィダキソマイシンなどをお使いいただくという選択肢になります。
大西 便移植という話を聞いたことがあるのですが、そういうものを行うこともあるのでしょうか。
國島 便移植は国内でも何施設かで行われることがあります。その方法については、ある程度確立しつつあるということですが、すべての医療施設でできるわけではありません。便をどのように客観的に評価したらいいのか。要するに、誰の便だったらいいのか、どういう便だったらいいのかというのをメタゲノム解析等で確認していくことも、今後は必要になってくるかもしれません。
大西 この腸炎を現場で予防するのにはどういった方法があるのでしょうか。適正な抗菌薬の使用や、普段気をつけることは何かありますか。
國島 すべての疾患においてそうですが、リスクをきちんと評価することだと思います。例えば、PPIなどは少しリスクになることがわかっています。それはCDIがあるなしにかかわらず、適正に使うということでしょうし、抗菌薬についても、CDIの可能性があるなしにかかわらず、普段から短期できちんと使っていくことが、抗菌薬の適正使用ということでとても大事だと思います。
もう一つ、この病気はとても大事なポイントがあって、2割ぐらい再発するのです。実は感染症の中で2割再発する病気はあまりなくて、私どもの検討ではDPCのデータですが、再発1例当たり医療費として128万円、入院が20日以上延びることがわかっています。これは患者さんもたいへんですし、医療費としてのインパクトが大きいという疾患の特徴があります。そういう意味では再発しないような、しにくいような、予防薬、新規薬剤の開発、今後はワクチンも期待されていますので、それらを発展させていく必要があるだろうと思います。
大西 ありがとうございました。
新型コロナウイルス感染症の最新情報と感染症対策の重要課題(Ⅲ)
Clostridium difficile感染症
聖マリアンナ医科大学感染症学講座教授
國島 広之 先生
(聞き手大西 真先生)