ドクターサロン

 池田 清水先生、薬疹というのはどのようなものをいうのでしょうか。
 清水 薬疹の定義というのは、生体内に治療、検査の目的で取り入れられた薬剤によって引き起こされる有害事象、adverse reactionの中で、皮膚に紅斑とか水疱が見られるものをいいます。個々の薬剤によって特徴があればいいのですが、特徴がないので、薬疹の診断は難しいのです。
 池田 薬疹と一言にしていますが、どのような症状になるのでしょうか。
 清水 薬疹の症状というのは、既成の皮膚疾患の病態と合致するようなかたちですから、全身に丘疹、紅斑を見る、あるいは手足に浸潤を見る浸潤性の紅斑、多形紅斑型、あるいは全身に水疱を見るような水疱型、あるいは日光に当たる顔面と前腕に皮膚の紅斑が見られる日光皮膚炎型。そして特殊なものとして、薬剤を服用することによってごく一部の同じ部位だけに症状が見られる固定薬疹があります(表1・2)。
 池田 非常に多彩ですね。薬疹の発症機序はわかっているのでしょうか。
 清水 生理的な機序によっても起こりますし、薬剤が過剰に投与された場合や、短時間に投与された場合に薬剤の血中濃度が高くなり起こることもあります。よく知られる例としては、バンコマイシンの静脈内投与で血中ヒスタミンの上昇が見られ、顔面の紅斑を見ることがあります。これがレッドマン症候群と呼ばれるものです。しかし、同じ医薬品でありながら、バンコマイシンはアレルギー機序によって水疱、表皮壊死を起こすこともあります。
 また、抗がん剤の場合にはフルオロウラシルなどの蓄積障害型として手足に角化が起こります。多くのアレルギー機序は、薬剤がハプテンとして蛋白と結合して抗原になり、抗原認識をする薬剤投与10~14日後に感作が成立すれば反応が見られることになります(図1)。また、ClassⅠ抗原とCD8細胞を介する機序が明らかになってきて、これは病理組織学的検査や、特に免疫組織学的特徴が現れますので、発症が急速に見られる場合には素早い対応が必要です。
 池田 やはり症状と相関するぐらい多彩な発症機序が考えられているのですね。非常に難しいのですけれども薬疹は投与開始後何日後から起こるのでしょうか。
 清水 投与開始の10日後から2週間後に感作が成立すると出ます(図2)。しかし、血圧降下剤などのように内科で投与されている場合には、何年かしてから出ることもあります。したがって、投与された薬剤の時期と投与量をチャートに記載し、発症がどこにあるかを判断することになります(図3)。逆に、セフェム系抗生剤とか鎮痛解熱剤などの中毒性表皮壊死症の場合では、感作が成立していれば投与数時間後に症状が現れる。しかも数日で非常に急速に広がることが知られています。
 池田 ということは、以前処方してもらって大丈夫だから、今回も大丈夫だろうという考えは成り立たないということですね。
 清水 そうですね。いつ感作が起こるかわかりません。薬剤を投与されているときは正常な状態ではない、異常な免疫状態ですから、非常に薬疹が起こりやすい。風邪を引いた後に薬疹が起こりやすいということもあります。
 池田 宿主側の問題もあるのですね。
 清水 そういうことです。
 池田 薬疹を起こしやすい薬剤はありますかという質問についてはいかがでしょうか。
 清水 使用頻度の高いセフェム系抗生剤で、かつて多かったペニシリン系薬剤にかわって多く見ることがあります。しかし、現在、ピロリ菌除菌の3剤併用療法のパック製品はペニシリン系薬剤のAMPCが投与されますので、投与開始10日後に多形紅斑型、あるいは全身の紅斑を見ることがあります。現在ではセフェム系が多く出ることはよく知られているのですが、ペニシリン系薬剤とセフェム系薬剤とは交差感作が成立しますので、ペニシリン系で起こっている人にはセフェム系でも起こるということです。
 池田 あと、悪性腫瘍の薬が最近多彩に出ていますが、こちらはどうでしょうか。
 清水 悪性腫瘍の場合にはフルオロウラシルによる足掌、あるいは手のひらの角化型がよく知られていますが、最近ではほかに腫瘍選択的に作用する分子標的薬の皮膚障害が注目されてきました。それには、手足症候群、ざ瘡様皮疹、脂漏性皮膚炎、乾皮症など多彩な皮膚炎を起こし、爪の周りの変形があることが知られていますので、皮膚科医はそういうものを見る必要がある。手足の先端の変化を見ることが必要です。
 池田 明らかで、にぎやかな状態の皮膚症状だと薬疹を疑うと思いますが、一方で見過ごしてしまうような薬疹はあるのでしょうか。
 清水 通常多いのは固定薬疹で、口唇および性器の表面にびらんが来ますが、これは単純ヘルペスとして扱うことがあります。アセトアミノフェン、ミノサイクリン、それからニューキノロン系薬剤も原因薬剤となります。同じ場所に繰り返してくることから、患者さんに説明する必要があります。
 池田 一時期話題になった薬疹などはあるのでしょうか。
 清水 ニューキノロン系の薬剤で日光過敏型の発疹が現れましたが、これは量的に多い場合に出現しました。しかし、いずれもアレルギー反応によるものです。それから、一時期、降圧剤の中でジェネリックとして使用されたARB利尿薬配合剤としてクロールサイアザイドが使用されたときに、日光皮膚炎が多数の民間の病院で出ました。しかし、現在ではほとんど見ることはありません。
 池田 そういった昔のことがまた現在でも起こっている感じですね。
 清水 比較的早く重症化する疾患として、2000年頃から、薬剤性過敏症症候群、Drug induced hypersensitivity syndrome(DIHS)という薬疹が注目されました。抗痙攣剤など比較的限られた薬剤で引き起こされて、発熱、リンパ腺腫脹、多臓器障害、皮膚は紅斑、びらんを広範囲に見る疾患です。発症に対して、HHV6ウイルスの再活性化が注目されました。そのため、このときはウイルス活性の検討をする必要があります。
 池田 単純な薬疹ではなくて、ウイルスの再活性化。最近、DPP-4阻害薬で何か皮膚症状が起こるとうかがったのですが。
 清水 インクレチン関連薬のDPP-4阻害薬は糖尿病治療薬として爆発的に使用されるようになりました。2013年に学会発表で施設内に多数の報告例の集計がありましたが、それとともに広く使用されて、一般の病院でも見ることがあります。皮膚科医はこのときに水疱を見ますので、抗BP-180抗体の検索をして診断しようとしたのですが、これは北海道大学の西江先生が全長BP-180ELISA法でないとこの反応が出ないことを発表されました。現在ではDPP-4阻害剤を投与されて水疱を見る患者の検査では抗BP-180抗体が発現されない。したがって、臨床症状で診断することになっています。
 池田 それですと、なかなか診断も難しいですね。
 清水 しかし、DPP-4阻害剤を使っていますので、おそらく広範囲ではないですが、幾つかの水疱ができますので、皮膚科医が知っておく必要はあります。
 池田 そうですね、この疾患は臨床で多く見ることがありますね。ありがとうございました。それから、薬疹の診断、特に複数の薬剤を使用している患者さんの場合は、どのように診断するのでしょうかという質問です。
 清水 通常はDLST(リンパ球幼若化試験)という検査は検査会社がやってくれます。これは全血と被疑薬を添えて、前もって連絡のうえで提出する。そうすると、この薬剤は1.6倍、この薬剤は2.0倍だから陽性だというように返事が返ってきます。
 池田 あと、皮膚科でよくやられるパッチテストとか内服試験はどのようにされるのでしょうか。
 清水 パッチテストは10%重量で行うのですが、出る薬と出ない薬があるのです。50%ぐらいの確率で出ます。それから内服の場合には常用の1/10量から始め、投与間隔を広げて行わなければなりませんが、少なくとも1/2量までに制限しないと全身症状が出るので注意する必要があります。
 薬剤の性質上、生体内での代謝過程において薬剤で薬疹が発生することがあります。例えば、痛風治療薬のアロプリノールでは生体内で短時間にオキシプリノールになり、効果を発揮すると同時に感作が成立するので、アロプリノールでは反応が出ない。したがって、DLSTはオキシプリノールで行わないとだめだということになります。それが薬疹の診断の難しさになるのです。
 池田 最後に治療法について聞かせていただけますか。
 清水 通常、抗ヒスタミン剤とトラネキサム酸のほかにステロイドの内服が必要となることがあります。中毒性表皮壊死症とかスティーブン・ジョンソン症候群では臨床症状で水疱、表皮の壊死の程度が非常にひどく早く起こりますので、同一スペクトルの疾患と考えられていますが、この場合はキラーT細胞が優位な状態ですから、免疫組織診断をするとともに、早くステロイドの内服、パルス療法が必要です。
 池田 これが薬疹のもとだろうというのがわかった場合、再投与は可能になるのでしょうか。
 清水 なりません。アレルギーの反応の常識から考えると、10年以上たたないと抗体が落ちませんから、おそらく一度感作が成立したら、その薬に関しては一生だめだと思ったほうがいい。ですから、薬疹カードというものを作るところがありますけれども、メモに書いてでもいいから、必ず内服するような治療のときにはこれを医師に見せてください。この薬はだめですということを知らせておく必要があります。
 池田 どうもありがとうございました。
付記
放送原稿中に挿入した表、図は清水正之:薬疹[診断とその対策]金原出版、1999年より引用した。