齊藤
COVID-19の院内感染対策をするうえでも、疫学、流行状況の把握が重要とうかがっていますが、どうご覧になっていますか。
坂本
今、東京では3回目の緊急事態宣言が出ていますが、東京よりもむしろ、地方に感染拡大しているのが心配な状況です。全国で医療従事者のワクチン接種がだいぶ進んでいて、だいたい25%が2回接種完了、1回完了が6割まできました。以前に比べて病院でのクラスターを耳にする頻度は減ってきた印象がありますので、感染は拡大はしているものの、医療機関ではワクチン接種率の上昇によって安全な環境が生まれつつあるところかととらえています。
齊藤
病院でのクラスターが話題になってきたのが2020年の早い時期で、その報告も出ているようですが、どういった経路が重要だったのでしょうか。
坂本
国内、海外の様々な報告を見ていますと、必ずしもCOVID-19患者を受け入れている病棟や外来がハイリスクというわけではなく、それ以外の、通常はCOVID-19以外の患者さんを中心に診ている部門でのリスクも高いようです。例えば、発熱がCOVID-19ではなく別の疾患によるものだと思っていたとか、個人防護具をつけずに無症状感染者の飛沫を浴びて感染するといったケースがあります。あとはプライベートでの友人、知人との飲食や家庭内感染などの経路で医療従事者も感染する。そういったことがきっかけとなったクラスターは珍しくないですね。
齊藤
例えば、手術目的で入った患者さんが実は術後、症状が出てわかったということですか。
坂本
そうですね。安全策として入院時や手術前にPCRスクリーニング検査を行う病院がありますが、陰性の結果を感染していないと解釈し、標準予防策も破綻して飛沫を浴びたり吸い込んだりしたことが、クラスターにつながったケースもあります。
齊藤
その辺がCOVID-19の難しいところなのでしょうが、クラスターが起こる場合に、食事中やロッカールームなどでの油断も話題になったことがあるようですね。
坂本
はい。職員食堂のようなところは比較的管理がしやすいですね。しゃべらないで食べましょうという指導が行われているところが多いと思いますが、休憩室や医局のように、仕事が一段落してほっとする場面が生じる場所でのマスクを外した会話がきっかけになった感染例があります。あとは、患者さんがマスクをしていない場面で医療従事者が目に飛沫を浴びたり、吸入するというケースもあります。
齊藤
マスクの話がありましたが、今は日本の医師はほとんど100%マスクをしていると思うのですが、患者さんがマスクをしている場合にはかなり大丈夫だということですね。
坂本
マスクをつけている者同士の接触に関しては、よほど長時間、あるいは大きな声を出すということがない限りは比較的安全だと考えていいと思います。
齊藤
患者さんがマスクをしてくれない場合にはちょっと気をつけないといけない。
坂本
特に近くで話をしたり、処置や診察をする場合は、医療従事者のほうがゴーグルやフェイスシールドなどの個人防護具を活用して目を守ることが重要です。
齊藤
飛沫に加えて手洗いが強調されていますが、この辺はどうでしょうか。
坂本
手を介して伝播する病原体は新型コロナウイルス以外にも数多くありますので、それを踏まえると、患者との接触前後にアルコール性の手指消毒薬で手指衛生を日常的に行うことが大切だと思います。
齊藤
いわゆる聴診、触診のときも含めて一連の動きの後に、それをするのですね。
坂本
直接接触が起こる前と終わった後のタイミングでいいと思います。
齊藤
今アルコールを用いた手指消毒の頻度はお話しいただいたのですけれども、マスクの取り替え頻度、これは何か目安はあるのですか。
坂本
COVID-19の診断を受けた方との接触の後は、マスクの表面が汚染されている可能性がありますから取り替える必要があります。また、ユニバーサルマスキングとして飛沫の飛散や吸入を抑制するためにつけているマスクは、汚れたり濡れたり、形が崩れたときに交換すればよいと思います。あと少なくとも1日1回は替えたほうがよいでしょう。
齊藤
今の日本では医療者は1年中マスクをすることになっていますよね。以前は冬場だけみたいなこともあったかもしれませんが。ただ、国際的に見ると日本は進んでいて、アメリカなどがマスクをしだしたのは比較的最近だと聞いています。
坂本
アメリカやヨーロッパ諸国では市中でマスクをつける習慣が今までほとんどありませんでした。飛沫感染対策として医療従事者がつけるものという位置づけだったと思います。ユニバーサルマスキングについてはこれまでも免疫不全患者に対して行う、インフルエンザ対策として一部の施設で行われていました。それがCOVID-19の流行拡大に伴い、病院でも市中でも行うことが初めて推奨されて、最初は抵抗感を持つ人が多かったと思いますが、全世界に浸透しました。今後、少なくとも医療機関ではCOVID-19が収束してもユニバーサルマスキングは飛沫感染予防策として定着するのではないかと思います。
齊藤
ワクチンについては何かありますか。
坂本
今はとにかくワクチン接種率を上げることが重要だと思います。すべての人に行動変容を求めるのは難しい部分がありますから、ワクチンで防げる部分は防ぐのが理想的だと考えます。
齊藤
今後どういった場合に就業停止にすることになりますか。
坂本
ワクチンの2回接種が完了しても、感染の防御効果が100%ではないので、しばらく疑わしい症状があれば積極的に受診して、就業停止をかけていくことが必要だと思います。
齊藤
PCR検査あるいは抗原検査を保証の意味で定期的にやったらどうかという話もありますが、どうですか。
坂本
それはコストとベネフィットの関係の中で各施設で検討すればいいと思います。参考までに東京都が4月から6月にかけて医療機関100施設余りでスクリーニングをしているのですが、約1万5,000件の検査に対して陽性となったのがわずか5件です。それを考えると、1万5,000件の検査をしてようやく5人つかまえるということが、果たしてかけた労力と費用に見合うのかは1つの検討課題です。あとは、有症状者が陰性の場合に感染していないと考えて対応するのはリスキーだと思います。
齊藤
ワクチンを皆さんが打ってくれればいいのですが、一部に拒否する人がいます。その辺に対するメッセージはいかがでしょうか。
坂本
今、厚生労働省、あと首相官邸がホームページで非常にわかりやすい情報発信をしています。また、民間でも幾つかわかりやすい解説をしているところがあります。例えば「こびナビ」というプロジェクトは一般の方にもわかりやすい情報発信をしていますから、ぜひそういうところにアクセスしていただいて、正しい情報を得たうえで各自で判断してもらいたいと思います。
齊藤
とにかくしっかり理解していただいて、積極的にワクチンを打っていただくということですね。
坂本
接種するメリットとデメリットを考えますと、圧倒的に接種するメリットが大きいワクチンです。発症、重症化、死亡を抑制する効果は高いという報告がイギリスやイスラエルといったすでに接種率が高い国々から出てきています。副反応もほかのワクチンに比べて特段に高いわけではないことを考えると、打つメリットは大きい。クラスターを防ぐことにもつながっていくと思います。もちろん強制であってはなりませんが、私としては多くの人に受けてもらいたいと思っています。
齊藤
ありがとうございました。
(2021年6月7日放送)