ドクターサロン

齊藤

COVID-19と基礎疾患ということで2021年5月18日の収録になりますが、COVID-19に罹患した患者さんの通常の経過はどうなのでしょうか。

加藤

2週間ぐらいの臨床経過が典型的とされています。発症した方の80%ぐらいは軽症で、1週間前後で回復される。ただ、重症化される患者さんの場合ですと、1週目を超えたぐらい、発症から2週目に入って、肺炎、あるいはARDSといった呼吸不全の症状がはっきりしてきて、その時点で酸素投与が必要になる方も10%ぐらいいる。そういう経過を取ることが多いと思います。

齊藤

入院期間はどのくらいになるのですか。

加藤

軽症の方は自宅療養とか宿泊療養が多いと思いますが、退院基準は発症から10日、かつ症状が軽快してから72時間以上たっているということになりますので、10日ぐらいで退院することが多いと思います。

齊藤

施設の場合は、軽い方も酸素のモニターになるのでしょうか。

加藤

COVID-19は肺炎が主な病態ですので、呼吸不全の有無を確認していく。それほど呼吸困難を訴えなくても、しばしば低酸素になっている方がいますので、酸素飽和度をチェックするのが非常に重要とされています。

齊藤

発熱には、必要に応じてアセトアミノフェンなどを使うことになるのですか。

加藤

軽症の方については対症療法になります。特に発熱、頭痛、筋肉痛を訴える方が多いので、アセトアミノフェンなどが一番よく処方される薬剤ではないかと思います。

齊藤

NSAIDsは使わないほうがいいのですか。

加藤

まだはっきりしていないところですが、アセトアミノフェンが一番安全ではないかと思います。

齊藤

その後の残遺症状もあるといわれていますが、まずは2週間ぐらいで終わるだろうと。そういった中で重症化する方がいて、一つは高齢者が有名ですが、糖尿病患者も悪くなるといわれましたね。

加藤

糖尿病は代表的な基礎疾患で、世界中でほぼ同じデータが出ています。糖尿病は独立した重症化のリスク因子だと思います。

齊藤

糖尿病をしっかりコントロールしていったほうがよいことはわかっているのですね。

加藤

まだはっきりしていないところはありますが、COVID-19も重症の感染症と考えますと、血糖のコントロールが悪いと感染症のコントロールもつきにくくなるといったことも予想されます。基礎疾患のコントロールがいいほど感染症の予後もいいだろうと考えられます。

齊藤

糖尿病の薬で、一般的に使われている薬はそのまま継続していくことが原則になりますか。

加藤

新しい感染症なので、これからわかってくることもあるかもしれませんが、原病をいい状態に保つというのが重症化を防ぐ方法といえるのではないかと思います。

齊藤

頻度が多いものとして高血圧とか循環器疾患がありますね。高血圧領域ですと、約30年ぐらい前にACE2が血圧低下に役立つものだという話題があったのですが、それが立ち消えになっていました。その後SARSがACE2と関係しているということがあったようですが、今回、ACE2が新型コロナウイルスの受容体ということで話題になってきました。高血圧あるいは心不全で使うACE阻害薬、あるいはARBがACE2にも影響するので、この病気に影響を与えるのではないかという話がありましたが、結局今はどうなっていますか。

加藤

ACE2をレセプターにするというのはたいへん興味深い知見だと思うのですが、初期に懸念されていた、そういった薬剤の影響というのは、あまりないだろうということになってきているかと思います。

齊藤

一時、研究的にACE阻害薬をやめて、ほかの薬で血圧をコントロールしていく群と、そのまま継続する群で比較した研究もあったようですが、差がないようですね。いずれにせよ、高血圧あるいは心不全をそういう薬で治療している患者さんは継続ということですか。

加藤

そうですね。先ほど申し上げた基礎疾患をよりよい状態にしておくというのは重症化を防ぐ上で重要なことだと思います。

齊藤

呼吸器疾患に移りますと、喘息で吸入薬が話題になったことがありましたが、これはどうなのでしょうか。

加藤

ステロイドがCOVID-19に対してどのような影響を与えるかですが、現時点ではステロイド吸入を継続して喘息をいい状態に保つことが重要とされています。また、日本では国立感染症研究所がシクレソニドという吸入ステロイドが実験室のレベルでSARSCoV-2という病原体の増殖を抑えることを見いだし、臨床試験が国際医療研究センターを中心に行われました。その結果を見ますと、肺炎の所見をかえって悪くしてしまうこともわかっています。最終結果は出ていませんが、普段使っている吸入ステロイドはぜひ継続すべきですが、新たに加えることについては少々慎重であるべきかと思います。

齊藤

喫煙に関してはいかがでしょうか。

加藤

喫煙についても、独立した重症化のリスク因子であるという知見が増えてきていると思います。ですので、禁煙も重症化を防ぐのに非常に重要な点だと思いますので、呼吸器学会等も禁煙を強く勧めているところかと思います。

齊藤

禁煙を勧めていくことが重要なのですね。患者さんに入院してもらう場合には基礎疾患がある方を優先することになりますか。

加藤

私どもの病院も基礎疾患のある方は非常に注意しなければいけないとしています。また、国も入院勧告の対象として基礎疾患のある方を挙げているので、基礎疾患のある方、高齢の方に関してはできるだけ入院とし、丁寧に経過観察ができる環境が望ましいということになろうかと思います。

齊藤

ワクチン接種でも基礎疾患が話題になっていますね。

加藤

やはり重症化しやすいので、ワクチンの優先順位を決めていく上でも基礎疾患のある方、高齢の方は検討する要素になると思います。

齊藤

ありがとうございました。

(2021年5月31日放送)