ドクターサロン

池田

アトピー性皮膚炎に対するデルゴシチニブ療法とは何なのでしょうか。

杉浦

これは1年ぐらい前に発売されたアトピー性皮膚炎に適用のある新しい作用機序のJAK(ジャック)阻害薬という薬で、アトピーにおいてはとても重要な機能をする蛋白を阻害する塗り薬です。

池田

塗るだけでオーケーなのですね。

杉浦

そうなのです。塗るだけで効果を発揮します。

池田

JAKとは何なのですか。

杉浦

JAKはサイトカインと関係があります。アトピー性皮膚炎に関係するIL-4、IL-13、IL-31というのがありまして、そのレセプターと会合する蛋白としてJAKというものがあります。JAKはリン酸化蛋白ですが、それが活性化されると、IL-4、13、31などのシグナルが入るのです。ですから、アトピーの重要なTh2サイトカインであるそれ以外のサイトカインもシグナルを抑えることから、アトピー性皮膚炎に対しては本質的な治療になります。

池田

しばらく前からデュピルマブというものが売られていますよね。いわゆる生物学的製剤ですが、あれはレセプターに対する抗体でしたね。

杉浦

そうです。IL-4レセプターαです。IL-4レセプターαというのはIL-4と13と両方抑えます。それはJAKのちょっと上にレセプターがあり、JAKはレセプターにくっついていますので、IL-4レセプターα抗体はJAKと似たようなところがあります。

池田

抗体がくっつくのがレセプターで、JAKというのはそのレセプターのちょっと下流にあるということですか。

杉浦

そういうことです。

池田

IL-4とか13のシグナルをレセプターとして入ってきたところの下流でJAKを止めてブロックするのですね。

杉浦

そのとおりです。

池田

わかりました。でも、塗り薬で塗って、表皮を越えて真皮とか、その下のほうまで入っていくものなのでしょうか。

杉浦

分子として、炭化水素ですので、抗体と違って、中に入っていって作用します。

池田

分子量としては小さいのですね。

杉浦

分子量としては小さいですね。ステロイドよりも小さいぐらいだったと思います。

池田

そうなのですね。タクロリムスは分子量が大きいものですから、正常な皮膚には入りづらくて、病的皮膚が入りやすいとされているのですが、JAK阻害薬ですと正常な皮膚でも十分入りうるのでしょうか。

杉浦

入りうると思います。ステロイドより小さいぐらい。タクロリムスより確実に小さいです。

池田

どのように使うのでしょうか。

杉浦

アトピー性皮膚炎でも、顔の赤い人、顔の症状の人には最初からこのデルゴシチニブを使うこともあります。体でも効果はありますが、強さとしてはちょうどステロイドの強さのミディアムぐらいですので、重症な人はベリーストロングなどのステロイドの外用薬で抑えた後に、良くなってからデルゴシチニブという方法で使用しています。

池田

効果は最初から大きく出るわけではなくて、症状に合わせて、弱いところだったら最初から使ってもいいし、ちょっと病気の勢いがあるような皮膚はステロイド等で良くしてから使っていくのですね。

杉浦

そのようにしたほうがよいのではないかと思います。ちょうどタクロリムスと同じような感じです。タクロリムスもだいたいそのような方法で使うことが多いです。

池田

今、タクロリムスは、プロアクティブ療法、悪くしないようにという感じで使っていることも多いのですが、デルゴシチニブ軟膏もそうなのでしょうか。

杉浦

私は同じようにプロアクティブ療法としてデルゴシチニブを使うこともあります。

池田

おそらく、タクロリムスもそうでしたが1日の使用上限量がありましたね。どのくらいなのでしょうか。

杉浦

これも覚えやすく、ちょうどタクロリムスと一緒で、1回の使用量が1本、5gです。1日2回まで使用可能ですので、1日使用量は2本までです。10gまで使用可能です。

池田

10gだと、もし全身に塗ることになると難しいと思うのですが、先生はどのように指導されているのでしょうか。

杉浦

特に顔が多いのですが、顔では、だいぶ良くなった後は保湿剤に替え、体の場合は症状がある程度良くなったところを中心に塗ります。プロアクティブ療法に変更できた場合は特に症状が出やすい部位、関節部や手など、個人にとって気になるところを中心に塗っていただきます。

池田

ある程度部位限定になってくるのですね。

杉浦

そうですね。最大使用量を超えてはいけませんので、使用できる範囲内で塗っていただくようにしています。

池田

一方、タクロリムスのときに問題になった刺激感というのがありましたね。デルゴシチニブ軟膏は刺激感など、副作用はないのでしょうか。

杉浦

一応添付文書には刺激があることもあると書いていますが、実際、患者さんに使っていただいていて、タクロリムスよりは刺激を感じない人が多い印象です。私見ですが、例えば、タクロリムスではちょっと刺激があって使えないという人でも、デルゴシチニブであれば大丈夫という方もいるので、刺激感という意味ではタクロリムスより優るのではないかと思います。

池田

タクロリムスもそういう話があったのですが、どういう状態になったら一応やめる、あるいは保湿剤だけにしていくとか、先生はどういう目安で処方されているのでしょうか。

杉浦

自分で手でさわって、平たくなったり、色素沈着になったら抗炎症をする必要は特にないので、そういう場合は保湿すればよいかと思います。紅斑ではなくて、立体的に発疹をさわれなくなってから、やめていくべきかと思っています。

池田

さわって平坦化したということは、おそらく表皮の厚みがなくなっているということでしょうか。

杉浦

そのとおりです。

池田

さわった感じが大切なのですね。それと、まだ結論は何も出ていないと思うのですが、タクロリムスも、ほかのワセリンなどで半分に割って量を増やすということをされていましたが、先生はデルゴシチニブ軟膏でそういう経験はありますか。

杉浦

以前勤めていた施設では半分に割っていたのですが、当院に移ってからは割ることがもともとできないことになっていますので、残念ながらその経験はありません。今のところ割るというエビデンスはあまり出てきていないので、割らないでやったほうがいいのではないかと思っています。

池田

軟膏によっては基剤で割ることによって全然効果がなくなってしまうことがありますよね。

杉浦

そうですね。酸性、アルカリ性の関係でなくなってしまうものもあれば、むしろ効果が強くなるものもあります。経験的にわかっているものに関してはそれでもいいのかもしれませんが、デルゴシチニブはまだその辺のところは見えてきていないと思うので、慎重にしたほうがいいと思います。

池田

あと、JAK阻害薬、内服も最近出てきましたよね。バリシチニブが新型コロナウイルス感染症でも使えるようになりましたが、デルゴシチニブ軟膏と併用された経験はありますか。

杉浦

はい、実際にあります。ステロイド忌避の患者さんはいまだにいます。バリシチニブは本来重症の人に使うことが多いので、バリシチニブとベリーストロングクラスのステロイド外用薬のほうが体に対していいのですが、どうしてもそれが嫌な人もいます。顔などはデルゴシチニブでも大丈夫なので、顔とか、体もステロイドが嫌な人はバリシチニブとデルゴシチニブと一緒に使うことはあります。

池田

バリシチニブは内服で、全身に影響がある薬ですので、副作用といいますか、バリシチニブを使うときの注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。

杉浦

バリシチニブは関節リウマチに使われた薬なので、今はB型肝炎とC型肝炎と結核、T-スポット.TB、胸部レントゲンは治療する前に検査をするべきということになっています。また、関節リウマチの場合は帯状疱疹がある程度出てしまう。そのほか、単純ヘルペスなども出現しやすいとされていますので、その辺は注意が必要です。そういう副作用が出ないように注意しながら治療する必要があると思います。

池田

生物学的製剤と同じようなプロフィールがあるのですね。

杉浦

そうですね。生物学的製剤並みの検査が要求されますし、生物学的製剤にない、ヘルペス属に対する合併症については気をつける必要があります。

池田

ありがとうございました。