池田
片頭痛予防の三叉神経刺激装置についての質問ですが、その前に片頭痛とはどういう機序で起こるとされているのでしょうか。
竹島
片頭痛の痛みは三叉神経血管説という学説が有力でして、三叉神経が何らかの刺激を受けて、CGRP、カルシトニン遺伝子関連ペプタイドという物質を放出して、血管の周囲で炎症が起こります。炎症が起こって血管が拡張すると、三叉神経をまた刺激する。その刺激した三叉神経からまたCGRPが出て、神経原性の炎症が広がった状態が片頭痛の発作であると考えられています。
池田
三叉神経と血管とCGRPの悪い循環になっているのですね。
竹島
はい。脳の表面、硬膜の三叉神経と血管系でそういった現象が起こっていると考えられています。
池田
ある程度発作的に起こると思うのですが、刺激としてはどのようなものがあるのでしょうか。
竹島
いろいろなものが刺激になるのですが、外的なものとしては例えば強いにおいや光などといったものもありますし、あるいはストレスやホルモンの影響もあります。分子レベルでいえばイオンの濃度の変化とか、あるいは興奮性アミノ酸、グルタミン酸のようなものが、そういった刺激の最初のトリガーになるといわれています。
池田
なぜか三叉神経がそういうCGRPを出す準備状態になっていて、そういった刺激によって出してしまうのですね。
竹島
はい。それが連鎖反応的に広がったものが片頭痛の発作なのです。
池田
CGRPに対して最近抗体製剤ができたとうかがったのですが、どのようなものなのでしょうか。
竹島
CGRPに対する抗体、あるいはCGRPの受容体に対する抗体が薬として開発されました。月に1回注射しておくとCGRPの作用がブロックされますので、CGRPが引き起こす三叉神経血管系の炎症を抑制することで片頭痛発作を抑制する、非常に期待されている薬です。
池田
2021年4月下旬に1つ認可されたとうかがっています。
竹島
4月下旬にガルカネズマブという薬が承認されました。日本では今ちょうど使い始めたところで、5月の連休明けに使った患者さんが、月に1回ですから、ちょうど1カ月目で2回目の注射に帰ってこられているような状況でした。効果のあった方は本当に片頭痛の発作が少なくなって、こんなに症状が軽くなったのは初めてというようなことをおっしゃる方もいます。
池田
こういった抗体製剤の適応はどのような方になるのでしょうか。
竹島
既存の治療でなかなかうまくいかないことで、既存の片頭痛の予防薬の効果がない、あるいは忍容性が悪くて使えないというのが一つ。あと、片頭痛の日数が月に4日以上あることが条件になっています。そういう方に使いましょうという保険適用になっています。
池田
先生もおそらく治験に参加されたと思うのですが、先生の感じられている手ごたえといいますか、どのくらいの方で有効なのでしょうか。
竹島
有効性はかなり高くて、どの薬も片頭痛日数が半分以下になる人がだいたい50%以上います。1/4以下になる人が25%ぐらいで、1割ぐらいの方はほとんど頭痛がなくなるようなかたちです。半数以上の方が明らかに有効で、QOLが良くなっていて、1割ぐらいの人がほとんどhead ache free、全く頭痛がなくなってしまう薬と理解しています。
池田
その方のライフチェンジングになる、そういう薬なのですね。
竹島
はい。片頭痛というのは直接命にはかかわらない疾患ですが、生活の支障がすごく大きいのです。月に何回も片頭痛の発作が起こると、そのために日常生活への支障が大きい。日常生活の積み重ねが人生ですので、私は片頭痛というのは人生を破壊する疾患だと思っています。
例えば職場でも時々片頭痛が起こることで予定が立たなかったり、スケジュールどおりに仕事が進まなかったり、プロモーションの機会を失ったりするようなこともあります。それがコントロールできて半分以下になると、例えば職場でも積極的になったり、プロモーションもできるようになって、本当に人生を変えるような可能性のある薬だと思います。
池田
そうですね。本当に変わってくると思いますが、逆に50%の方たちはあまり効かないのですか。
竹島
はい。おっしゃるとおり、半分ぐらいの人は頭痛が半分ぐらいにしかならないということですが、それでもQOLの阻害としてはかなり改善している。全く効果がない方は多分1~2割だと思うのですが、今までの予防薬はだいたい30%ぐらい、頭痛が1/3減ると、ある程度有効、有意差がついている薬が多かったのですが、この新しいCGRP抗体に関しては50%以上効く人が半分以上いるということで、今までの予防薬と比べるとかなり効果が大きいと判断できます。あるいは、頭痛の回数や日数はあまり変わらなくても、1回、1回の発作が軽くなっている方もいますので、そういう意味で全般的なQOLの改善はかなり期待できると思っているところです。
池田
発作の回数は変わらなくても、1回の頭痛症状が軽くなってくるのですね。
竹島
おっしゃるとおりです。
池田
質問に三叉神経刺激装置というのがありますが、どういったものなのでしょうか。
竹島
三叉神経の1枝は眼窩の上から出てくるのですが、このあたりに電気刺激を加えることで三叉神経に刺激を与えて、三叉神経の疼痛閾値を上昇させて、痛み発作を起こしにくくすることで片頭痛を予防する装置です。CEFALYという名前で海外では販売されているのですが、まだ残念ながら日本では承認されていないので使用できません。
池田
この器械自体は以前からあるものなのでしょうか。
竹島
海外では随分以前から使用されています。日本でも承認してもらおうとある会社が申請をしたのですが、海外のデータが日本のGCPの基準に合わないということで、ブリッジングのデータとしては厚生労働省が認めてくれなかった。そういった事情があり、まだ日本では承認されていません。
池田
近年、抗CGRP抗体が出てきたということで、この三叉神経刺激装置の立ち位置はどのようになっているのでしょうか。
竹島
三叉神経刺激装置、CEFALYも含めて、Neuromodulation、いろいろな刺激装置が今幾つか開発されているのですが、薬を使うことに少し抵抗があるような方などはこういったものCEFALYが選択肢になるというのが一つ。それから一つの治療で薬だけでは不十分な方の補助的な治療として、神経刺激装置が位置づけられると思っています。
池田
抗CGRP抗体を使って患者さんはだいぶ良くなったのだけれども、もう少し何とかならないかという感じで、一緒に刺激装置も使うとか、そんなことが想定されているのですか。
竹島
そうですね。そういった使い方も可能だと思います。
池田
説明は難しいと思うのですが、その装置はどのようなものですか。
竹島
おでこにあるティアラをイメージしていただくといいですね。
池田
ティアラですね。よく皇室の方がつけていらっしゃるような。
竹島
はい。
池田
眉間をちょっと圧迫するようなかたちでつける。 竹島 おっしゃるとおりです。CEFALYの2というのはティアラ型ではなくて、ボタン型みたいになっていて、おでこの眉間のところにぽこっと小さな刺激装置を貼りつけるようなイメージで、充電式のものが使用できるものもあります。
池田
非常にコンパクトになっているのですね。
竹島
そうですね。
池田
どのような使い方をされるのでしょうか。毎日やるのでしょうか。
竹島
予防的な使い方が原則で、毎日20分程度、時間を決めて使うと片頭痛が起こりにくくなるとされています。ただ、条件によっては発作時に使っても効果があるというデータもあるのですが、実際に日本で使えるようになったときにどういうかたちになるかは、もう少し検討が必要かもしれません。
池田
先生がおっしゃったとおり、片頭痛の方は非常に発作を心配されていて、外出もままならない、旅行も何もままならないという感じです。もしこの三叉神経刺激装置がポータブルで持ち運べれば、患者さんの生活の質もまた変わってくるのではないかと思います。
竹島
おっしゃるとおりだと思います。選択肢がたくさんあることは患者さんにとっていいことだと思います。
池田
抗CGRP抗体を定期的に打ちつつ、もし発作にもこの装置が効くのであれば、それを持ち運んでいて、ちょっとおかしいかなと思ったら、そこでちょっと刺激する。そういった使い方の広がりも考えられますね。
竹島
おっしゃるとおりだと思います。患者さんそれぞれのライフスタイルに合わせていろいろな使い方がされていくのではないかと思います。
池田
そして患者さんの生活の質を変えて行動範囲が広がるということで、本当に素晴らしいと思ってうかがっておりました。どうもありがとうございました。