ドクターサロン

 大西 この放送は2021年6月17日の収録です。新型コロナウイルスの、特に変異株が大きな問題になっていますので、それを中心にうかがいたいと思います。 まず海外のいろいろな報告事例から、変異株というのはいったいどういうものなのでしょうか。
 齋藤 ウイルスというのは常に遺伝子変異を続けていて、性質がいろいろ変わったものも出てきます。その中で、感染しやすいものや増殖しやすいもの、生き残っていくのに適した性質を持ったものが残ってくるのですが、この新型コロナに関して、最近、非常に増殖しやすい、感染しやすいものが出てきて、それが問題になっています。
 国内でも幾つか違う型のものがこれまでも流行してきていたのですが、2020年12月にイギリスのある地域で患者が急に増えてきた。ある変異株の割合が急に増えてきたことから、これまでよりずっと強い感染力を持つ株が出てきたのではないかと世界の注目を集めました。これは今、アルファ株と呼ばれているもので、国内にもそれが入ってきて、ほとんどがこれに置き換わっている状況になってきました。
 大西 どういった点が脅威になっているのでしょうか。
 齋藤 まずこの変異株は感染しやすい、あるいは伝播しやすいという性質があります。例えば1人の感染者から今までより多くの人にうつるようになったり、あるいは感染者の家族にうつす確率が非常に高くなったりしている。そうすると、これまでよりずっと早く感染者の数が増えていくことになります。急に感染者が増えてきて、医療の供給体制が追いつかなくなり、そして最後はなかなか入院ができないといった事態につながっていきます。そのほかにも、感染した際に重症化しやすくなるとか、あるいはこれまでのワクチンが効きにくくなる。そういった性質の変化がある場合もあります。
 大西 感染力が上がる、伝播しやすくなるというのは、具体的にはどういうことなのでしょうか。
 齋藤 どうしてこういうことが起きているのか、そのメカニズムについて、一つはこの変異株のウイルスがヒトの体に入ったときに、ウイルスが体の細胞あるいは受容体となる部分へ結合する力が上がっている。そのため、少しのウイルス量でも感染しやすくなっている。こういうことが起きていると考えられています。
 大西 今、世界ではどのような変異株がはやっているのでしょうか。
 齋藤 多種多様ですが、その中でも大きく2つに分けて整理しています。1つは懸念される変異株、もう一つが注目すべき変異株という言い方をしています。
 懸念される変異株というのは、性質の変化が明らかに起こっているもの。例えば、感染力が上がっている。免疫や、今までのワクチンなどが効きにくくなっている。そうしたことが明らかにわかっているもの。 注目すべき変異株というのは、まだ性質の変化が起きているか、はっきりしていないけれども、そういう可能性がある。注意して見ておくべきものということで名づけられています。
 国によってもいろいろ位置づけは違いますが、世界的に懸念される変異株として今位置づけられているものは4つあります。1つは英国で初めて見つかったアルファ株、南アフリカで初めて見つかったベータ株、ブラジルで初めて見つかったガンマ株、そして最近話題になっている、インドで初めて見つかったデルタ株、この4つを特に注意して世界でも見ています。
 日本は、現在アルファ株が主流です。ところが、世界的にはインドで最初に顕著に増えてきたデルタ株というのが増えつつあることから警戒を強めています。イギリスではこれまでアルファ株がほとんどだったのが、一気にこのデルタ株が主流になってしまいました。これまでのアルファ株よりもずっと感染しやすくなっているため、今後日本でも増えてくる可能性があります。
 大西 現在、日本ではワクチン接種が急速に進められていますが、こういった変異株にはワクチンは実際どの程度効くのでしょうか。
 齋藤 これも変異株の種類によって様々ですが、その中にはこれまでのワクチンが効きにくくなっている、とわかっているものもあります。ただ、それでも全く効かなくなっているわけではありませんし、そのようにワクチンが効きにくくなる変異株というのは日本では多くはありません。
 大西 そうしますと、感染対策は何か変わる点、より強い対策が必要になるかと思うのですが、いかがでしょうか。
 齋藤 おっしゃるとおり、これまでよりも感染対策に注意を払っていく必要があります。ただ、そこで何か新しいことをやらなければいけないかというと、そうではありません。例えば従来どおり、屋内や会話をするときにマスクをしっかりつける。それから手指消毒、3密を避ける、これが基本であることには変わりません。
 ただ、改めて3密とはどういう状況なのかをよく考える必要があると思っています。換気の悪い密閉された空間を避ける。人との間の距離を取って密接にならない。狭いところに多くの人が集まるような密集を避けること。世の中では、この3つが重ならないと感染しないと誤解されているところもあるかと思うのですが、そうではなくて、このうち1つの密があるだけでも感染リスクが上がることを、皆さんに改めて気をつけていただきたいと思っています。
 大西 これから五輪を控えていろいろ注意しなければいけない点があるかと思いますが、そのあたりを教えていただけますか。
 齋藤 ちょうど今、全国的に感染者は減少傾向になっていて、沖縄を除いて緊急事態宣言からまん延防止等重点措置などに移行しようとしているところです。ただ、人の流れ、外出している人などの数が非常に増えてきており、そういう状況では感染者がまた増えていく可能性があります。このような中で、より感染しやすい、感染力が強いとされるデルタ株が増えてくると、これまでの経験よりも急速に感染者が増えてくる可能性があります。そうすると、重症者も急速に増えて、医療体制を圧迫することがまた起きるかもしれません。
 今、ワクチン接種もだいぶ進んではいますが、流行を止めるには、まだ十分な接種率に達していません。まだまだ大きな流行が起きれば重症者が出る可能性があり、気をつけていく必要があります。
 大西 変異株がこれからますます増えてきそうな状況ですが、日本全体でどれくらいの方がワクチンを打つと、いわゆる集団免疫のようなものが期待できるのでしょうか。変異株の場合、少したいへんなのかという気もするのですが。
 齋藤 このように感染力が増したものが出てくると、集団免疫には非常に高いワクチンの接種率が必要になってきます。7割が一つの目安になるかと思うのですが、これは特に世代に偏りなく、しっかりと達成していくことが大事だと思っています。
 大西 少し話題を変えて、海外の対策の例を教えてください。台湾、ニュージーランド、スウェーデンなど、幾つかのモデルがよく話題になりますが、海外の対策例の特徴を教えていただけますか。
 齋藤 日本はわりと特殊な対策の例に入るかもしれません。強く呼びかけてはいますが、どちらかというと人々の行動変容に依拠しているところが多いと思います。一方、台湾やニュージーランドはしっかりと国境で海外からの感染者の流入をできるだけ防ぐ。あるいは、入ってからも継続してしっかり待機期間を取るなどして、なるべく国内に入れない。あるいは、その後の接触者の追跡をしっかりやるといったかたちで非常に少なくしていると思います。
 大西 ヨーロッパ、特にスウェーデンなどは少し特殊な対策を取っていたような気もするのですが、集団免疫、自然免疫といいますか、それを狙っていたのですか。
 齋藤 当時、そういった報道もありましたが、それには相当な感染率、人口の7割が感染するような状態まで持っていかなければならず、それまでの間にかなり重症者がたくさん出ることになるので、痛みを伴う政策であっただろうと思います。
 大西 東南アジア、ベトナムでは、けっこう抑え込んでいたと思いますが、最近になって急速にまた一部感染が出ているように思います。そのあたりはいかがですか。
 齋藤 変異株の影響もあると思いますが、それと一緒に対策の緩み、やはり長期にわたって我慢していると、なかなか行動の抑制であったり、感染対策が難しくなってくる部分もあると思います。そういうことも影響していると思います。
 大西 日本も自粛の期間がけっこう長かったので、少し皆さんが疲れている面もあるのではないかと思いますが、そのあたりは今後気をつけていかなければいけないですね。
 齋藤 人々が感染対策の重要なところをより理解してやっていただくことが大事だと思います。
 大西 今後の日本の対策では、特にどういう点が重要ですか。ワクチンをとにかくスピードアップしてどんどん接種するとか、ポイントはどのあたりにあるとお考えですか。
 齋藤 これまでかなり国民の皆さんの協力、接触機会を避けるなどで本当に感染者も死者も少なく抑えてきたと思います。最終ゴールではないのですが、ワクチンをある一定数打つことがまず当面の最大の目標になるので、とにかくできるだけ早くたくさんの人に、今のうちに打っていくのが大事なことだと思います。
 大西 どうもありがとうございました。

(2021年6月21日放送)