ドクターサロン

 齊藤 COVID-19の公衆衛生的な対策について、2021年5月14日に収録しています。5月の連休後の状況について、和田先生は今、どのように見ていますか。
 和田 特に関西においてはゴールデンウイークで少し感染が下がってくる傾向が見えてきていますが、まだまだ厳しい状況が続いていると考えています。今、関西で頑張っている医療者方に本当に感謝申し上げます。本当にたいへんな状況であることは理解しています。関東、東京においてはゴールデンウイークの間にいろいろな呼びかけをしたこともあり、感染者の急増を抑えられているところですが、横ばい、ないしまだ微増が続いています。ですから、ここからどうやって下げていくのかが今後の大きな課題だと考えています。
 齊藤 政策にも関わっているということですが、今の動きはどうなっているのでしょうか。
 和田 どうやって感染を下げていくのかが一つ、もう一つはどうやってワクチンの接種をできるだけ早く進めるかになります。接種が行き届いていない医療者もまだまだいますが、だいぶ進んできたところもあります。次いで高齢者の方がけっこうな数いますので、比較的インフラの少ないそれぞれの市町村が、主体的にどう支援していくのかが、今後の大きな課題だと考えています。
 齊藤 ワクチンがどこまでスピード感を持って行き渡るかですが、その前に、まずは感染を抑えることですね。人々の行動に対する呼びかけなど、いろいろあると思いますが、この辺はどうでしょうか。
 和田 1年以上たつ中で、多くの市民の方においては意識が二分されているような感じがしています。片方では非常に心配して普段から感染対策をしている方々。こういう方々が日本では主体となっていて、かなりマスクもしていただいたり、会食を控えていただいています。一方で、若い年代にも多いとはいわれていますが、こういった状況においてもまだまだ自分は大丈夫だと、会食やバーベキューをする方々が行動を活発にするとどうしても感染が広まっていくという現状があります。
 ですので、やはり普段から接触機会の多い比較的社交的な方々が、しっかりと感染の機会を減らしていただくように、みんなで呼びかけをしながら感染を下げていくことが重要になってきます。それでも下がらない場合には、自治体として、いわゆる緊急事態宣言的なもの、場合によっては政府による重点措置や緊急事態宣言をタイムリーに使いながら、みんなでできるだけ感染を抑えていけるようにすることが当面の目標だと考えています。
 齊藤 感染を抑えるためにも、人の数、人の流れを減らすということでしょうか。この辺はどういった動きがあるのでしょうか。
 和田 人の流れの中でも接触機会、いわゆるマスクを外して会話をする。そして、ランチを食べる、夕飯を食べるといったところをしっかりと抑えていくことが重要だとわかっています。ですから、例えば東京で言うと、東京駅の人流は下がっても、あまり感染の拡大を抑えることはなく、むしろ新宿のような繁華街の人流で、特に昼間、そして夜間、やはり夜間の非常に密な接触が感染を上げることがわかっています。そういった意味で時短営業というものは一定の効果があるだろうと思っていますが、当然昼の人流も含めて接触機会、特に繁華街が今後もキーワードになると考えています。
 齊藤 それから、会社等でリモートワークを進めていますが、この辺はどうでしょうか。
 和田 特に最近、職場での感染事例が出ている中で、例えばランチタイムにどうしても話をしながら食べる方が、最近また増えているという話もあります。ですので、感染拡大しているときにリモートワークができる方はしていただくことによって、少しでも、一人でも患者さんを増やさないようにすることが重要だろうと考えています。
 ただ、リモートワークができてる人はもうすでにやっています。もしかしたらリモートワークができるよねという方でも、この機会にチャレンジしていただいて、どうしたらリモートワークができるのかを考えていただく。これは今後、働き方改革、そして今後も災害がある中では、危機管理的なBCP(事業継続計画)につながるでしょう。そういった利点も含めてこのリモートワークをこれまで以上に推進することは重要であると考えています。
 齊藤 人が集まるという意味では学校がありますが、その辺についてはどうなのでしょうか。
 和田 今までは大人の感染が広がっているのが変異株でも見られていますが、小中学生の間で地域に感染拡大している状況ではないと考えています。
 これはこれまでのインフルエンザとは違う特徴です。例えば緊急事態宣言等で、かつて地域の小中学校の一斉休校がありましたが、新型コロナでは必要ないのではと、今はやらなくなってきています。ただ、高校、大学となってきますと、感染が広がりやすいところがあります。大学生でも、例えば部活や、授業以外での対策をしっかりとやっていただくことが、今後も含めて重要になってくると考えています。
 齊藤 そういった場所に入るときに体温を測ることが通例となっていますが、これは軽い症状の人を見つけるという意味ではいいのでしょうか。
 和田 新型コロナに関しては、もっと症状について、例えばテレビ等で、こういった症状がある人は外に行かないように、場合によっては検査を受けるようにといったことを流しながら、皆さんに知っていただくことが重要であると考えています。発熱がないと外に出て感染を広げることがあります。のどの痛み、違和感、咳、倦怠感、場合によっては少し下痢を伴ったり、味覚・嗅覚障害といったものもありますが、こういった症状がある方は外に出ないようにする、または受診をして検査をしていただく。これを地域でしっかりと、特に感染の拡大期、そして感染のおさまりかけのときにも呼びかけていくことが、とても重要だと考えています。
 齊藤 ワクチン接種が始まりましたが、これをなるべく早くやるということでしょうか。
 和田 そうですね。まず一つは高齢者への接種を7月末までに行うのを目安に進めているところです。これをできるだけ進めることによって、医療の逼迫を少しでも予防する効果はあるだろうと期待しています。今の時期は、感染が拡大して緊急事態宣言が出ている地域が増えていますが、高齢者の重症化のリスクは非常に高いので、ある程度高齢者の接種が終わるまでは何とか流行を抑えて、そして次の年代も接種をする中で当然感染が広がらないようにすることが重要だろうと考えています。
 齊藤 ワクチンが足りないということで、なかなかたいへんだと思いますが、流行がひどい地域でワクチンを重点的に打つことができればいいのでしょうね。
 和田 そうですね。特に大阪で感染者が増えている中で、ワクチンを打っていない方に1回目だけでもできないかと議論がありましたが、なかなかロジ的な原因からそこに至らなかったのは非常に残念に思っています。当然、残念に思うだけではなくて、次に起きた場合にはどうするのかを考えていかなければいけないと思います。ワクチン接種することによって、潜在の看護師の中に、また現場でワクチン接種を含めてやっていただける方もいるということになりますので、そういった接種事業についても今後議論が必要だろうと考えています。
 齊藤 アメリカのバイデン大統領がワクチンをしなさい、すればもうマスクはしなくていいですと演説をして、話題になっていますが、ワクチンが行き渡った後はどうなるのでしょうか。
 和田 ワクチン接種が進む中で、ワクチンを接種した人は何ができるようになるのかを丁寧にお伝えしなければいけないと考えています。すでに言われているように、2回接種をして2週間たつとある程度免疫を獲得することになるわけですが、高齢者からも、では孫に会っていいのかといった質問をいただいています。中には、ワクチンを打ったら旅行に行っていいのか、会食をしていいのか、こういったことに対して、周りの方の接種がまだ進んでいないときに、どのような行動を呼びかけていくのかが、まさに今議論になっている最中です。近くそういった想定の質問に対して答えを出していく必要があると考えていますが、ぜひとも現場の医師を交えてその発信について考えていかなければいけないと考えています。
 齊藤 楽観的なシナリオもある半面、別なシナリオもあり得るということでしょうか。
 和田 はい。ワクチン接種が進むことによって感染が抑えられるとは考えていますが、一方である一定の期間、例えば今年の終わりぐらいまでに、いわゆる成人、そして最近では子ども、特に高校生ぐらいの年代も含めての接種があります。ワクチン接種が進む中で、場合によっては逆に感染対策をやってくださらない方が出てしまう、むしろそういった時期のほうが感染が広がるのではないかといった危惧があります。今、変異株が広がる中で、40~59歳の方でも重症化のリスクが出ていて、やはり引き続き感染対策をしっかりとやっていただくようなコミュニケーションも上手にしていかなければ、これまで以上に感染が広がるといったワーストなシナリオも想定しているところです。
 齊藤 ありがとうございました。

(2021年6月14日放送)