齊藤 COVID-19の治療ということで、通常の経過だとどういう方が多いのでしょうか。
土井 COVID-19の患者さんというのは、多くの方は軽症である、自然に軽快されるという点は大きく変わっていないと思います。ただ一つ、今回、第4波でいわれているように、重症化に至っている方が少し増えているかもしれないということ。また、若年層の方、若年といっても医療でいう若年ですので、40~60代ぐらいの方というイメージですが、以前であれば入院に至っていなかったようなこういった方々が入院して、場合によってはICUでの管理が必要になる症例が以前より増えているという点が、今回の第4波の特徴であることは、報道されているとおり私どもも実感しています。
齊藤 軽症の患者さんに対しての治療はどうされているのでしょう。
土井 軽症の患者さんといいますと、酸素投与に至っていない患者さんに当たると思うのですが、現在の状況では、こういった方はほぼ入院にならず、自宅または宿泊での療養になっています。基本的には現在でも対症療法、発熱があれば解熱剤を使ってといった治療になっていると思います。
齊藤 風邪の患者さんに対する対応のようなことでしょうか。
土井 そのとおりです。
齊藤 経過を見ていく上で、酸素飽和度は見たほうがいいでしょうか。
土井 そうですね。今回のCOVID-19の特徴として、呼吸不全に入りつつある段階でも本人が自覚されない場合があることが特徴です。客観指標、簡便に測定できるものとして酸素飽和度のモニターが望ましいということで、多くの自治体では自宅療養の方の場合でも、例えばパルスオキシメーターを貸し出して自分でモニターをしてもらうということが行われています。
齊藤 インフルエンザの場合、日本では検査で陽性になるとほぼ100%、直ちに抗ウイルス薬投与になりますが、COVID-19でもそういった戦略というのはいかがなのでしょうか。
土井 おっしゃるように、ウイルス感染症ということで、理屈から考えると、なるべく発症早期のうちに有効な抗ウイルス治療を行うことができれば早期の症状軽快や重症化の予防が期待できるのではないかということで、幾つかの特に経口で内服できる薬剤が試されてきました。国際的には抗HIV薬であるロピナビル、リトナビル、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、また日本では、抗インフルエンザ薬のファビピラビル、こういった経口薬でこれまで臨床試験が行われてきていますが、いずれもはっきりした有効性を示す、あるいは承認されるまでは至っていないのが現状です。
齊藤 先生もファビピラビルで研究されたということですが、よい傾向が見られたのでしょうか。
土井 私どもの研究では、参加人数が少なかったということはあるのですが、発熱している方ですと、1日ちょっとぐらい発熱期間が短縮することが見られましたし、ウイルス量も投与されている方のほうが若干早く陰性化していくことが見られたのですけれども、有意差のあるレベルではなかったため、データはデータということで論文として発表しました。
ほかにもファビピラビルについては国内での企業治験、また海外でも幾つか試験が行われています。やはり全体として今申し上げたような傾向は見られているようですが、インフルエンザにおける例えばオセルタミビルのような大規模な試験ではっきりと統計的に有意な差で示されるというところには至っていません。
齊藤 さて、中等症あるいは重症になった場合の治療はどのようにされているのでしょうか。
土井 これは酸素投与が必要で入院に至っている方が該当します。こちらはかなり治療のかたちが薬物療法についても固まってきています。具体的には、抗ウイルス薬として日本ではレムデシビルが肺炎に適用があるので、静注ですが、これを入院している方に使う場合が多い。もう1点は酸素投与、特に一定量以上の酸素投与が必要になってきているような方については、ステロイドであるデキサメタゾンを投与することも現在ではほぼ標準治療になってきています。ですので、この2剤、レムデシビルとデキサメタゾンの併用が行われる場合が多いです。
齊藤 今の治療を軽症の段階でやって入院に至らなくするという戦略はうまくいかないのですね。
土井 そうですね。医療逼迫がいわれる昨今ですので、軽症の方がその後進行して入院に至るのをいかに防ぐかは、医学的にも、また公衆衛生上も非常に大事なポイントです。そこがまだもう一歩といいますか、新しい治療法あるいは抗ウイルス薬などの開発、登場が望まれる領域だと思います。
齊藤 感染後患者血漿の使用が話題になりましたが、いかがでしょうか。
土井 回復者血漿、あるいは高度免疫グロブリンといった製剤ですね。これについてもいろいろな試験が国際的に行われてきています。完全に決着はついていない認識ですが、はっきりポジティブのデータは出ていないため、パンデミックが始まったときほどの高い関心は今なくなってきているのかなと思います。これから国内での回復者血漿の試験も始まるところなので、ぜひいい結果が出てくれればいいと個人的には期待しています。
齊藤 それから、モノクローナル抗体もあるのでしょうか。
土井 モノクローナル抗体についてはかなり先に進んでいて、少なくとも米国では外来の患者さんを中心にモノクローナル抗体による治療が緊急承認され、実際に行われています。治験のデータを見ていくと、7~8割ぐらい入院を防ぐことができるという結果が示されているので、これが日本でも使用することができるようになると、先ほど話題に出た軽症の方の入院、重症化を予防していくという点では、一つの武器になるかと期待しています。
齊藤 これは外来で使用するものなのでしょうか。
土井 当初はおそらく入院で始まるかもしれないのですが、現在一番治療法に欠いているのは入院前の段階ですので、あくまでも私の意見として、外来などでうまく使えるようになっていければという期待を込めて申し上げている点です。
齊藤 これがアメリカではもう使用可能ということですね。
土井 はい。
齊藤 またもう少し治療薬の進歩がありそうですか。例えば抗ウイルス薬とか、どうでしょう。
土井 抗ウイルス薬についても幾つか、特に今回のSARS-CoV-2に合わせて開発された新規の抗ウイルス薬が幾つか治験の段階に入ってきているので、うまく間に合えば、今回のパンデミックにこういった新たな抗ウイルス薬が使えるようになる可能性は十分にあると思います。
齊藤 ワクチンが広く行き渡っておさまるまでは、こういった治療の出番がまだまだあるということでしょうか。
土井 そうですね。出口は近いと思いますので、ワクチンと、やや限られてはいますが、こういった治療法の組み合わせで何とか乗り切れればと思います。
齊藤 ありがとうございました。
(2021年5月24日放送)