ドクターサロン

 山内 通年性花粉症という言葉自体は我々もよく使います。実際そういった患者さんには、一年中花粉症という方がいますが、この定義に関してはいかがでしょうか。
 大久保 実際には一つの花粉が一年中飛んでいることはありません。例えば2~4月がスギ、5・6月がヒノキ、6・7月で例えばイネ科の花粉が飛んで、8~10月でブタクサ、ヨモギ、そういった秋のキク科の花粉が飛ぶということで、およそ一年中、症状が出ます。そのような複合的なアレルゲン、抗原陽性の花粉症のまとまりのケースの通年性花粉症があります。もう一つ、スギ花粉症の方はどうしても鼻粘膜が常時過敏な状況です。ですから、朝、くしゃみが出やすい、鼻水が出やすい、副交感神経の反射で出るような通年性の鼻症状を血管運動性鼻炎といいますが、スギ花粉症だけでも通年性の症状を持つ通年性花粉症といえるかと思います。
 山内 アレルゲンが多様なために、一見、一年中出ているかたちになる。
 大久保 そうですね。そういった体質の方、アトピーの体質、もともと喘息があって、アトピー性皮膚炎があって、それからアレルギー性鼻炎になったという方、ハウスダストやダニも少し関与しているかもしれませんが、花粉にも多くの反応を示すという方もいますので、そういった方の場合は通年性の花粉症と考えてもいいかと思います。
 山内 多くのアレルゲンを持っているタイプ、もう一つは過敏性体質、この2群に大きく分けるということですが、国際的にもこういった分類になるのでしょうか。
 大久保 そうですね。国際的にWHOのガイドラインでARIAというものがあるのですが、そこではintermittent、4週間以内のものと、persistent、4週間以上症状が続くもの、といった観点で分かれていて、特に通年性とは定義はしていません。症状のある期間と、重症度、mild(軽症)、moderate(中等症)、severe(重症)という観点から分けられています。ですから、通年性に花粉症があったとしても、この海外の定義とは特に相反しないだろうと思います。
 山内 アレルゲンが多様なタイプと、ベースにそういった過敏性の素因を持たれる方ということですが、頻度としてはどういった感じでしょうか。
 大久保 アトピー体質の方が増えてきたといっても、やはり圧倒的にスギ花粉症の単独の方のほうが多いので、複数抗原で通年性に症状を持たれる方が2~3割、そしてスギ花粉症で過敏性の体質を持って通年性に鼻炎の症状がある方が7~8割ぐらいの分け方になるかと思います。
 山内 ハウスダストやダニに対する反応がある方はどちらかといいますと過敏性の素因を持たれているほうに入ると考えてよいでしょうか。
 大久保 ハウスダスト、ダニについては、アレルギーを二面性から考えると、一つは先生がおっしゃられた過敏性の部分、これは粘膜の過敏性なので、神経反射がだいぶ関係してきます。それともう一つは免疫学から分けるタイプ、これは抗体産生が強いタイプで、複数抗原のタイプということになるのだろうと思います。ですから、ハウスダスト、ダニがあるということは、どちらかというと複数抗原を作りやすい。根本にあるのがハウスダスト、ダニで、そこでアトピーが起こって喘息が起こる。
 ただ、ハウスダスト、ダニは年齢とともにわりと消えていきやすいのです。それは抗原のハウスダスト、ダニが高さ1m50㎝の位置に存在しないためです。だいたい1m以下のところにハウスダスト、ダニが下から舞い上がり多くなります。そうすると、お子さんに発症しやすい理由としてわかりやすいと思います。基本的に、大人になってくると徐々にハウスダスト、ダニは消えて、上から舞い降りてくるスギ、ヒノキだけ、あるいはほかの花粉だけが残っていくのが感作という部分の経年的変化だろうと思います。
 山内 なかなか奥深いですね。
 大久保 そうですね。
 山内 ただ、実際の臨床上は、どちらのタイプにせよ、一年中ということですから、治療方針としては同じと考えてよいのでしょうか。
 大久保 そうですね。治療方針としては同じメカニズムといっても、アレルギー反応と過敏の反応。過敏の反応もどちらかというとヒスタミンの反射で起こってくることが多いので、そういった部分では抗ヒスタミン薬を中心に、反射性の鼻汁は抗コリン作用のあるもので抑えます。前立腺肥大や緑内障では使いづらいのですが、抗コリン作用を持つ抗ヒスタミン薬は鼻水をよく止めると考えられています。一年中、鼻炎の症状があるわけですから、粘膜も炎症を起こしていると考えると抗ヒスタミン薬を中心に鼻噴霧用ステロイド薬を抗炎症薬として使っていく。基本的にはこの組み合わせで使っていければ症状が良くなるだろうと思います。
 山内 本来は、花粉症は目安としてどのぐらいの期間使うのでしょうか。
 大久保 スギ花粉症単独であれば2~5月で、我々は3カ月というのですが、実臨床では症状が治まるまでは薬剤を使っていいと話をしています。軽症、中等症であれば経口薬で大丈夫かもしれませんが、重症になると、それに鼻噴霧用ステロイド薬を付け加えて、経口薬と点鼻薬です。その方向で症状がなくなるまで治療を継続しても全然問題ないだろうと思います。
 山内 ただ、専門医に来られる患者さんはいいのですが、我々のところに来て、ついでに薬を、という方ですね。気がついたら5年、10年、出しっぱなしというケースも出てきかねないわけですが、これはいかがなのでしょうか。
 大久保 実際のところ、喘息やアトピーでもかなりの長期間、薬剤をのんでいますし、抗ヒスタミン薬自身はタキフィラキシスというような、どんどん効果が薄まるという現象もありません。継続して使用することは全く問題ないだろうと思っています。
 山内 自然治癒はしないものなのでしょうか。
 大久保 抗体を作るという意味においては、今は70歳のご高齢の方でもスギ花粉症を発症することがありますので、抗体産生の程度としては以前よりも長期にアレルゲンに対してのIgEの抗体産生は続くと考えてよいと思います。実際、60代、70代になって約1割は自然治癒するかどうかで、残りの8~9割は症状や抗体産生が残ってきますので、自然治癒はなかなか難しいかもしれないです。
 山内 時々、免疫療法、手術といったものを聞きますが、こういったものは重症度によって決めると考えてよいのですね。
 大久保 そうですね。重症度と、我々は年齢によっても決めていきたいと思います。例えば免疫療法の恩恵が50代から始めて10年というのと、10歳から始めて40年というのでは、試行期間が同じ5年であっても、3年であっても、やはり免疫療法は低年齢から始めたほうがいいでしょう。ある程度の年齢になって鼻閉が常時続く場合であれば、20代、30代でも鼻の手術を考えることも必要になってくるかもしれません。
 山内 最後に対策ですが、日常生活の対策として、どういったものが勧められるのでしょうか。
 大久保 先ほど反射の話をしましたが、新型コロナウイルス感染症の時代、あまり外に出てはいけないわけですから、皆さん方が一番足りなくなっているのが運動です。そうなると、交感神経系を使わないので、どうしても副交感が優位になる。となれば、やはり鼻水が出やすくなる体質になっていると思います。一方でマスクを使っていますので、花粉症の時期はかなり症状を抑えられることを考えると、適度な運動は必ずしていく。どうやったら過敏性が減るか。昔の人はよく寒中水泳だとか乾布摩擦という鍛錬療法みたいなものをしていましたが、確かに皮膚感覚がそういった刺激をある程度受けてくると副交感神経の反射が弱まると考えます。
 あとは、抗体産生に関しては、抗原をなるべく吸わないようにするという対策、自宅でもマスクをつけてもいいと思いますし、掃除などもしっかりやっていただければ、自宅の環境は非常に良くなるのだろうと考えます。
 山内 今の反射でいいますと、例えばよく朝だけくしゃみをするケースがありますが、これも同じようなメカニズムでしょうか。
 大久保 そうですね。眠っている状況、副交感神経が急に交感神経に切り替わるとき、こういったときにどうしても反射としてくしゃみが出て、くしゃみが出ると鼻水が出てくるという現象が起こってきます。朝だけくしゃみをするというのはお子さんにも非常に多いですし、花粉症の方でも、全然花粉が飛んでいない季節でも起こってきますので、そういったこともその症状の一つかと思います。
 山内 ありがとうございました。