ドクターサロン

 池脇 造影CTによる造影剤腎症に関しての質問をいただきました。確かに私も病棟で主治医から「この患者さん、腎機能が悪いので造影CTはできませんでした」と言われて非常に困ることがあります。まず造影剤が腎症を起こす機序ですが、どういうことなのでしょう。
 藤垣 造影剤自体に尿細管細胞のアポトーシスを起こしたり、壊死を起こすという、直接的な障害の機序が明らかにあります。それ以外に、血管作動性物質をいろいろと障害し、腎臓の中の血流を悪くすることで糸球体の血流が悪くなり、活性酸素が出て、それがさらに障害を増悪させることが大きな基本的な機序になっています。最近、脱水が起こると尿細管細胞が非常に造影剤を取り込みやすくなってしまって、さらに悪さをしているのではないかという動物実験の報告も出ています。このような機序で障害が起こることがわかっています。
 池脇 ヨードの造影剤には腎毒性があることははっきりしているのですね。腎症があるから造影CTはだめというように、はなから造影CTはやれないと思ってしまうぐらい、造影剤腎症に対しての恐怖心が現場の医師には少なからずあるように思います。ただ、質問にもあるのですが、実際のリスクはそれほどでもないことがわかってきたのでしょうか。
 藤垣 10年ぐらい前まで、GFRという概念があまり浸透していない時期では、血清クレアチニン値が2㎎/dL以上では造影剤腎症が高頻度で発生するからと、造影CTを含めて避けられてきました。禁忌ではないかとまでいわれた時期があったのです。ですから、今それを踏襲しているとすると、その辺の腎機能の患者には造影CTをやらないという医師もいるかと思うのです。
 この辺が、新しいガイドラインを含めていろいろな変遷で変わってきたのですが、わが国では関連ガイドラインとして、「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン」があります。最新版は2018年版ですが、2012年に初めてガイドラインができて、このときの腎臓の機能、すなわち推算GFRが60mL/minよりも低いときには造影CTはリスクがあるだろうとうたわれています。特にGFRが45mL/minを切ったときには、患者さんへのリスクの説明や、造影剤腎症を起こさないような補液などの十分な対策が必要であると、2012年のガイドラインではうたわれていました。
 それが2018年の新しいガイドラインでは、GFRが30mL/min以上のCKDすなわち慢性腎臓病の患者さんでは、ほぼリスクがないだろうということになっています。しかしながら、腎機能以外に、高齢など、いろいろなリスク因子があるので、その辺を加味した対処が必要であるとうたわれています。一方で、GFRが30mL/min未満の慢性腎臓病の方にはやはりリスクがあると考えて、患者さんへの説明および適切な予防策を講じることが推奨されています。
 池脇 2012~18年、eGFRだと思いますが、60mL/min、45mL/minが30mL/minまで落ちてきたのは、30mL/min以上だったら大丈夫というような臨床のエビデンスが出てきたからなのでしょうか。
 藤垣 そうなのです。改訂されてきた理由は2つあって、GFRというのが広く認識されて、スタディにも腎機能別のリスクの層別化が極めて簡単にできるようになってきたことが一つです。
 もう一つは従来、造影剤腎症に関するコントロールスタディがありませんでした。しかし、ここ10年間に、後ろ向きの研究ではありますが、造影剤を使う造影CT群と、使わない非造影CT群をコントロールに置いた傾向スコア・マッチング解析での患者背景をそろえたスタディの報告が多数なされました。この報告のすべてで推算GFRが30mL/min以上では急性腎障害の発生率に差がないという結果だったのです。一部の報告ではGFRが30mL/min未満でも差がないという報告まであったのです。
 しかしながら、GFRが30mL/min未満というのはあまり症例数がないのです。やはり造影剤投与を避けているという可能性があり、スタディでも少ないことが弱点の一つでもあり、予防を講じたかどうかもあまり考えられていません。このような背景から、一応2018年のガイドラインではGFR 30mL/min未満はやはりリスクとして考えて予防策を講じましょうということになっています。
 池脇 造影剤に対する人体への影響というのは、日本人でも、そうでなくても、基本同じと考えてよいのでしょうか。
 藤垣 同じと考えていいと思います。もう一つお話ししておかなければいけないのは、今は静脈経由の造影CTの話なのです。一方で、経動脈的に造影剤を投与することがあります。CoronaryのPCIとか、Coronary造影ですね。そうした場合は、2018年のガイドラインでもGFR 60mL/min未満はリスクがあるとしています。ただ、これもいろいろ国内、国外のスタディがあって、動脈に造影剤を入れても、回り回って希釈されるため、静脈経由と一緒ではないか。そして、経動脈的であってもリスクはないというデータを出しているところもあります。ただ、腎動脈直上の大動脈に直接造影をする大動脈造影の場合、リスクは明らかに高いという考え方があります。今後、この辺は変わってくるかもしれませんが、わが国のガイドラインの最新版では、静脈投与ではGFR 30mL/min未満、動脈投与では60mL/min未満がリスクであると考えられています。
 池脇 今ではGFRよりeGFRを使うことが多いにしても、こういったGFRの数字だけではなくて、例えばその方の年齢のほかに糖尿病等があるかどうか、それ以外の要因も一応加味するということですね。
 藤垣 もちろんそうです。に造影剤腎症のリスク因子を示します。造影CTを行うのは高齢者が多いのです。高齢、すなわち年齢が60~70歳以上はリスクが多少あるだろうということ。それから、今お話しされた糖尿病性腎症があるとか、そういうものもリスクである。それから、腎灌流が悪いような状態、すなわち脱水、低血圧、うっ血性心不全があるような場合もリスクがあることになっています。
 今まで造影剤腎症を抑制するために、マンニトールや利尿薬などを投与しましょうという時期がありましたが、これらはむしろ腎灌流を悪くするということで、あまり勧めません。むしろ予防的な利尿薬投与はやめましょうとなっています。それからNSAIDsですが、これも腎血流を阻害するので、中止しましょうという考え方です。
 池脇 一番注目しないといけないのはGFRですが、それ以外の患者さん側の要因も見極めたうえで、基本はリスクがないから普通にやってよい場合、あるいはその間というのでしょうか、少々リスクがあるけれども、やはり検査をすべきときには、できるだけ造影剤腎症を起こさせないようにする。その予防法ですが、どうなのでしょう。
 藤垣 患者側の要因と、そうではない要因があると思いますが、後者に関しては、造影剤自体の問題です。昔は高浸透圧性の非イオン性の造影剤が使われていました。これは高頻度に腎障害を起こします。しかし今は使われておらず、低浸透圧性の造影剤が使われています。ただ、等張性の造影剤もあるのです。これに関して、腎機能が悪い人には等張性のほうがいいか、低浸透圧でいいかは結論が出ていません。日常臨床ではごく普通に低浸透圧性が使われると思います。あとは、2~3日以内に繰り返して造影剤を使うのはリスクと考えられていますので、そこは避けていただきたいです。
 今度は患者側の要因として、避けられないものとしては高齢や糖尿病ですが、先ほどの腎灌流が悪いような状況を避けるために補液が必要となります。当然心不全などがないことを確認して補液を十分にしていただきたい。一応スタディとしてデータがあるのは、造影を行う6時間前から造影後6時間までの12時間、時間体重当たり1~1.5mLの生理食塩液を補液しましょう。おおよそ6時間の間に500mL、造影前後に500mLぐらいずつの生理食塩液を投与することが勧められています。これによって尿流量が増える。そうすると、造影剤が尿細管で希釈されるとか、糸球体の還流量が良くなることで酸化ストレスが減るということが一応機序として考えられています。
 もう一つ、緊急的にPCRを行わなければいけないことがあります。そういうときは生理食塩液を6時間投与することはできませんので、1時間ぐらい前からの重炭酸ナトリウム液投与が勧められています。日本では152mEq/Lぐらいの濃度の重炭酸ナトリウム液があります。これを使用するのですが、1時間前から時間体重当たり約3mLぐらい投与し、造影後に6時間、1mL/㎏/hの投与が勧められています。
 池脇 生理食塩液というのは私もあらかじめ情報はありましたが、重炭酸ナトリウムを使うというのは、尿を例えばアルカリ化するということでしょうか。
 藤垣 そうですね。それと、あとはボリュームを増やすということです。ここで蘇生のときの7%の重炭酸ナトリウムを使うと、危なくなってしまい、事故が報告されています。重炭酸ナトリウム液1.26%、152mEq/Lのものがありますので、これを使うということです。
 池脇 そうしますと、患者さんのGFRを中心にして、様々な要因に配慮する。ただ、あまり以前ほど怖がってCTを諦めるのではなく、今はむしろ積極的にやる方向に変わってきたということでよいでしょうか。
 藤垣 先生の言われるとおりです。萎縮診療にならないように、検査が必要なものは十分な検査をして、ただ、リスクを避け、予防策を講じることが必要になります。それからもう一つ、昔はクレアチニン2㎎/dL以上はほぼ禁忌とされていましたが、これをGFRに直すと、男性50歳以上では、クレアチニン2㎎/dL以上がGFR 30mL/min未満になります。女性では全年齢、クレアチニン2㎎/dL以上がGFR 30mL/min未満になります。クレアチニン2㎎/dLをリスクと考えるのは今までどおりでいいと思いますが、禁忌ではないということです。
 池脇 ありがとうございました。