ドクターサロン

齊藤

新型コロナウイルスの疫学についてうかがいます。2021年4月で約1年たちましたが、この1年間の対策を振り返って、先生の評価はいかがでしょうか。

中島

日本はこの約1年の間に第1波、第2波、第3波と経験して、今4つ目の波を迎えている非常に難しいところだと思います。1年を振り返りますと、日本はタイに続いて2人目の中国からの輸入感染症が発見された国ですから、世界の中でも最初に新型コロナの経験をした国といえます。欧米先進国に比べて先に対策を開始し、その中での詳しい調査によって対策の柱の構築がいち早く進んだのが日本の特徴だと思います。国民、市民の協力もあって、欧米と比べると少ない患者数と少ない死者で新型コロナを乗り越えてきた事実があろうかと思います。

齊藤

対策として日本がよかった点はどうでしょうか。

中島

何といっても有名になった3密、密集・密接・密閉ですね、こういう状況によってウイルスが広がりやすいことを世界でいち早く見つけ、対策の骨格ができた点だと思います。そのベースになるのは、もちろんマスク、手指衛生、フィジカルディスタンスですが、それに加えてどういうところで広がるのかという場面がわかった。それも日本は約1年前にわかったことが大きな成果だと思います。

齊藤

もう少しできた点はありますか。

中島

1年を通した日本の課題と考えますと、第1波、第2波、第3波といくに従って波が大きくなっています。そして、第1波を抑えて、第2波を抑えて、第3波の後ですが、あとにいけばいくほど患者数が高止まりするのは大きな課題だと思います。対策をした後、波を十分に抑えきれていない、高止まりした状況から次の波が起こっています。感染者はより広いところで、多様な年齢層で、そして多くの地域で広がっていく、あとの波ほど対策が難しくなっているのが現状だと思います。

齊藤

台湾、ニュージーランドなどではかなりうまくいっていると聞いていますが、日本との違いはどういった点にあったのでしょうか。

中島

まずは明確な目標設定が違っていたと思います。よく例として挙げられるオーストラリア、ニュージーランド、台湾は徹底した感染者ゼロを目指していった。それが達成できた背景には、3つとも島であったことと、人口規模、大都市の人口密度が日本よりずっと小さかったことがあると思います。地理的もしくは都市構造も日本よりはよりコントロールがしやすい環境にあったと思いますが、何といってもゼロにするという目標を掲げて徹底的な対策が波を抑えるまでできることが大きく違うと思います。

齊藤

同じ島国でも日本とは事情が違ったということですね。その中でスウェーデンは比較的自由にやらせると聞いていますが、何か評価はありますか。

中島

スウェーデンの話を考えるときに、同時に英国のことも考える必要があるかと思います。最初英国は若者を中心にある程度感染を許して、それによって集団免疫を成立させて高齢者を守ることを一時戦略として取ったのです。ところが、英国の状況にあってはこの流行をコントロールできるものではない。結果的に被害が大きくなり、すぐに対策を切り替えました。スウェーデンと日本と英国を考える場合、感染症は大都市、それも人口密度が高いところでは非常に感染が起こりやすく広がりやすい。一方、日本国内でも地方は違う感染リスクがあります。このように、人口規模や人口構成、それと都市の人口密度などを考えないと、同じような戦略は取れないのです。スウェーデンも結果的には高齢者の感染が起こったときの重症度のインパクトは高いことが示されていますから、やはりほかの国と同じような戦略を全く同じようにできるものではないと考えます。

齊藤

これからワクチンを打っていくことになっていますが、ワクチンについて先生はどう評価されていますか。

中島

今わかっている状況では、mRNAワクチン、特にファイザー、モデルナのワクチンは非常に素晴らしいというのが正直な感想です。呼吸器感染症で生ワクチンではないワクチンがこれだけの高い感染予防効果を示している。安全性も高い。確かにアナフィラキシーの報告はありますが、十分対応が可能であるという意味においては、非常に有効性が高いワクチンが出ていて、それが使えるようになっているのは大きな成果だと思います。これを使うことによって重症者、感染者を減らしていくことは、この病気のリスク評価が随分変わってくることにつながると思います。

齊藤

最近のニュースですと、ある程度供給の見通しが立ったということでしょうか。

中島

河野ワクチン接種推進担当大臣も発言されているように、2021年5月以降、週に1,000万ドースぐらい入ってくる算段がついたと聞いています。このペースで入ってくれば、週に1,000万ドースですから、単純に日にちで割っても1日100万人以上の接種を行うことが可能になるだけの量が出てくる。逆の言い方をすれば、それだけ接種が進まないとストックがどんどんたまっていくわけですから、速やかな接種をいかに進めるかという段階に入ると思います。これまでワクチン接種は輸入量が少ないことがボトルネックでしたが、今後は実際、現場での接種がいかに進んでいくかを推進する時期になると思います。

齊藤

一部でワクチンは打ちたくないという人がいると聞いていますが、その辺に対してはどうお考えになりますか。

中島

大きなワクチンヘジタントがあるとは聞いていませんが、一方でこのワクチンの有効性、安全性を含めて十分にお伝えできているのかというと、そういう状況でもなく、まだ現場にはいろいろ不安があると思います。断片的に聞く情報では、医療関係者の中にも、しばらくワクチン接種は様子を見ておこうという人がいるとも聞いています。ですので、このワクチンの副反応とか効果も含めてきちんとお伝えしていくコミュニケーションがとても大事だと思います。

齊藤

ワクチン接種が進んでいるといわれているイスラエルでは、その効果が見えているのでしょうか。

中島

1回接種を優先して進め、人口の半分以上の1回接種が終わるに従いパラレルに患者数も減っていると聞いています。そのようにワクチン接種を進めていくことが、この感染対策にすごく重要な働きをすると思います。

齊藤

ワクチンが広く行き渡るまで、どういったシナリオが考えられるのでしょうか。

中島

ワクチンの輸入のスピードが上がるとはいっても、現場で接種していくには一定の期間がかかると思います。医療関係者と高齢者の接種が終わる頃には、医療機関や高齢者施設の集団発生も、おそらく減ってくるのだろうと思います。併せて重症者や死者の数も減ってくるとなると、この病気の見え方が少し変わってくるかもしれません。 一方で今問題になっている変異ウイルスの問題や、65歳以下の方に対するLong COVID、後遺症の問題、あと少なからず関西では重症者が出ていると聞こえてきています。その後もなかなかこの新型コロナは油断ならないということが続くのかと思います。そう考えると、一つの節目は医療関係者と高齢者のワクチン接種が終わる頃、その後は国民に広くワクチンが行き渡ることを考えると、一定期間、少なくとも今年はワクチン接種を進めながら新型コロナの蔓延防止を一緒に図っていくことを同時並行で進める必要があると思います。

齊藤

どうもありがとうございました。
(2020年4月26日放送)