山内
秋山先生、まず最初にどういった病気かといったあたりをお話し願えますか。
秋山
ここで言う間質性膀胱炎は、現在、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群という名称で包括的に扱われている症状症候群のことを指します。名称からわかるように、この症候群は大きく分けて、間質性膀胱炎と膀胱痛症候群という2つのタイプに分類されます。この2つは全く別の病態で、間質性膀胱炎は膀胱の内視鏡で膀胱の中に特有の発赤病変を認めるものを指します。2015年の調査では国内の患者数は2,000人。特に症状の強いものは厚生労働省の指定難病になっています。一方で、膀胱痛症候群というもう一つのタイプは、膀胱の内視鏡で一切の異常所見を認めることがありません。しかし、臨床的には間質性膀胱炎に類似した症状を呈するため、臨床症状だけでこの2つを峻別することは困難であることが多いです。
山内
そうしますと、よく我々の感覚では、トイレが近くなる、過活動膀胱とか前立腺肥大症と紛らわしいと思ってしまいます。むしろそういったものとはかなり症状の面から違いがあると見てよいのですね。
秋山
そうですね。症状の面の違いというよりは、特有の症状を有する、そして多くの症状はオーバーラップすると考えたほうがわかりやすいかもしれません。すなわち、尿意亢進や頻尿といった、いわゆる下部尿路症状に関してはかなり前立腺肥大症や過活動膀胱とオーバーラップしますが、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群には特徴的な膀胱痛という痛みが出てきます。この痛みという症状が極めて重要で、過活動膀胱や前立腺肥大症の方には認められません。膀胱不快感というニュアンスで言えば、過活動膀胱の方にも時折認められるのですが、いわゆる針を刺すような鋭い痛みとか、塩をすり込まれるような痛み、こういった強い痛みが過活動膀胱の患者さんに生じることは一般的にはありません。
山内
そうですね。ただ、痛みの性状は先ほどの膀胱痛症候群のほうも同じようなものなのでしょうか。
秋山
間質性膀胱炎の痛みは針を刺したり、塩をすり込まれるような強い痛み、いわゆる侵害受容性の疼痛を特徴としますが、膀胱痛症候群は、痛みの程度、質は間質性膀胱炎よりも軽く、どちらかというと強い不快感と言ったほうが、より適切かと思います。
山内
その2つ、痛みが相当違いそうですが、痛みというくくりになってしまっているというところもあるのですか。
秋山
そうなのです。この症候群は基本的には海外から発生した概念で、特に欧米の方々はdiscomfort、不快感であってもpain、痛みと表現することが多く、病名としては膀胱痛症候群とされましたが、実際には詳しく問診をしてみると、多くの方では明らかに痛みの程度の質が間質性膀胱炎のそれとは異なることがわかっています。
山内
似たような、似ていないようなところもあるのですが、先ほどお話がありましたようにこの2つ、間質性膀胱炎と膀胱痛症候群は基本的には全く別のものと考えてよいのですね。
秋山
おっしゃるとおりです。ゲノム病理学的な知見をベースに考えれば、この2つの疾患は完全に別の病態であると考えています。昨今ではこの2つを別のものと考えようという世界的な流れになってきていますので、ほぼ間違いないと思います。
山内
病態的な違いをもう少し解説していただけますか。
秋山
間質性膀胱炎、膀胱の中にハンナ病変を認めるものは、膀胱の器質的な慢性炎症性疾患で、膀胱の粘膜上皮の?離とリンパ球を中心とする炎症細胞浸潤を特徴とする炎症性疾患です。一方で膀胱痛症候群は、膀胱の組織に組織学的な変化をほとんど認めない。そして、膀胱の容量も保たれる。要は、膀胱にパソロジーがないというもので、最近の学説では機能性身体症状症、過敏性腸症候群、片頭痛、そういったものと類似した病態なのではないかと考えられています。
山内
そうしますと、メンタルが少し絡むと考えてもよいのでしょうか。
秋山
おっしゃるとおりです。膀胱痛症候群の方にはいわゆる心理的な問題をかかえることが多く、精神的なケアが必要になる方が多数います。
山内
間質性膀胱炎に関しては、先ほどリンパ球が多く出るとの話でしたが、少し免疫異常といった印象はあるのでしょうか。
秋山
おっしゃるとおりです。まず疫学的な側面から見ますと、間質性膀胱炎の8割は女性で、発症年齢は閉経前後。そして、シェーグレン症候群や関節リウマチ、全身性エリテマトーデスといった他の自己免疫疾患を高頻度に合併するという疫学的特徴があります。そして、膀胱組織に浸潤するリンパ球もかなりclonarityが高くなっている。つまり、何か特定の抗原に対していわゆるクローン拡大を起こしていることが、私どもの研究でわかっています。おそらくは免疫異常を伴う膀胱の免疫性炎症性疾患であろうと現時点で言ってもさしつかえないものだと考えています。
山内
確定診断はどうされているのでしょうか。
秋山
確定診断に関しては非常に難しくて、客観的な診断基準やクライテリアは現在存在しません。ですので、基本的にこの病気は膀胱の内視鏡での特徴的な所見と、それに加えた除外診断、いわゆる類似症状を呈する膀胱結石、膀胱がん、細菌性膀胱炎、そういったものがすべて否定されれば、(ハンナ型)間質性膀胱炎、膀胱に内視鏡所見がなくて、膀胱に関連した痛みがある。そして一切ほかに異常を認めなければ膀胱痛症候群となります。非常にあいまいな診断基準になっていて、医師の主観的判断にかなり依存することになります。
山内
診断はなかなか難しいのですね。
秋山
そうですね。泌尿器科の専門医であっても診断に戸惑うことは珍しいことではありません。膀胱内視鏡所見や特徴的な症状は、経験によって判断する精度が上がっていきますので、それなりに診療経験のある泌尿器科専門医師によって比較的正確な診断がなされると考えてもらってさしつかえないと思います。
山内
そこまで難しくなると、泌尿器科医の中でもさらに一部の医師に限られるかもしれないとなると、例えばどういった医師が患者さんを受けていただけるか、このあたりの情報はどこにあるのでしょうか。
秋山
日本間質性膀胱炎研究会という団体のホームページがあります。そちらのホームページに間質性膀胱炎の診療可能な医師のリストが載っていますので、それを参考に近隣の医師、診療に応じる医師を紹介していただければと思います。
山内
最後に治療ですが、いかがなのでしょうか。
秋山
間質性膀胱炎は、ハンナ病変といわれる膀胱の発赤部位、ここは組織学的に尿路上皮が完全に?離してしまって、上皮化組織がむきだしになっている状況です。そこに尿が浸透して痛みが起きますので、第一選択としては入院して経尿道的にハンナ病変を切除するという経尿道的手術で、私どもの施設では9割以上で2年以上の奏効率があります。ただし難点は、繰り返して再発しますので、繰り返し手術が必要ということです。手術以外の治療法では膀胱内にジメチルスルホキシドという薬剤を注入します。 一方、膀胱痛症候群に関しては、膀胱の器質的疾患ではありませんので、骨盤底筋の機能改善を理学療法士とともに、メンタルケアを心療内科と連携し、さらにはペインクリニック、泌尿器科で集学的に治療を行っていくことが肝要かと思います。
山内
どうもありがとうございました。