ドクターサロン

池脇

勝倉先生は総合診療医学にいらして、手のこばりで受診される方はけっこういらっしゃいますか。

勝倉

私は大学病院で働いていますので、今回の症例のように近くの開業医からの紹介でリウマチの検査が陰性でしたと手のこわばりを訴える患者さんをよくみています。

池脇

リウマチ反応がどういう検査の陰性かは別にしても、血液学的にはリウマチっぽくないこわばりについて、何を考えたらいいのだろうとお困りになるのですね。

勝倉

そのとおりかと思います。

池脇

まず解説いただく前に確認ですが、リウマチ反応陰性という場合にはリウマチ因子以外の何か血液学的な検査も陰性と考えたほうがよいのですか。

勝倉

おそらくこの質問の意図としては、リウマトイド因子以外に抗CCP抗体とかCRPとか血沈といった炎症反応がほとんど陰性で、原因がわかりませんという意図かと思っています。

池脇

もしそれが陽性であれば、関節リウマチを考えないといけないと思って検査に出したら、陰性だったと。レントゲンを撮っても、骨にはびらんといった変化がない。では何を考えるのかが問題です。先生方は日常的にこういう症例で鑑別を進めているのですね。

勝倉

はい。そういうことになります。

池脇

具体的にそういう症例ではどういう疾患を考えて鑑別されているのですか。

勝倉

私は手のこわばりを診るときには5つぐらいの疾患グループに鑑別診断をグルーピングして考えています。1番は、患者さん側も医師側も関節リウマチをすごく心配されていると思うのですが、こういったリウマチ反応というのが陰性な関節リウマチも1~2割、関節リウマチの患者さんでいます。リウマチ反応が陰性の場合でも、まず本当に関節リウマチではないかどうか、もう一度診察して除外することが必要です。

それ以外に多いのは整形外科的な疾患、いわゆる変形性関節症や手根管症候群、あとは腱鞘炎です。こういったものも手のこわばりを訴えます。それから代謝内分泌疾患です。更年期障害も一応エストロゲンというホルモンが関係している疾患なので、こちらのグループに入れているのですが、これがけっこう多いですね。ほかには甲状腺機能異常症でもこういった非特異的な痛みやこわばりを訴える方がいます。

あと、特に急性発症になると、ウイルス感染症でも手の痛みを訴える方がいます。一番有名なのはヒトパルボウイルスB19感染症、子どもだとリンゴ病といわれるものですが、大人がかかると手足の痛みの症状がけっこう強く出るので、必ず鑑別に挙げます。

そういったものが全部違うとなると、あくまで除外診断ですが、最終的には、いわゆるうつ病とか精神的なもので痛みを感じてしまっている人も、いると思います。

池脇

いろいろな鑑別診断を出されて、びっくりしました。私は患者さんから「こわばる」という訴えがあったときには簡単な問診ぐらいで終わってしまうのですが、先ほども言われたように、整形外科的な疾患も鑑別に上がってくるとなると、実際に手の関節の状況、腫れとか痛みとか、詳しくチェックされるのでしょうか。

勝倉

関節リウマチを診断するための分類基準があるのですが、結局、リウマチ反応が陰性でも、11カ所以上の関節に圧痛や腫れがあると関節リウマチと分類できるのです。この分類基準を満たせば、治療を開始することもできるので、もう一度きちんと関節一つ一つの所見を取っていくのはとても大事なことだと思います。

池脇

確かにご本人が訴えていなくても、そういう検査をするときに痛いことに気づくことも場合によってはありますね。

勝倉

本人があまり気づいていなくても、こちらがきちんと関節を押すと「ああ、痛い」と、そのとき初めて気づくこともありますので、それは非常に重要なことかと思います。

池脇

リウマチは必ず考えながらも、場合によってはそれを否定するのもとても大事だということでしょうか。血液学的な検査が陰性で、それを否定するとなると、いろいろな関節の状況などからある程度は否定できるのでしょうか。

勝倉

完全に否定するというのは、特に早期のリウマチでは難しいのです。ただ、最近のトピックとして、明らかに手の関節が腫れるなどの所見がなくても、関節のエコーをしたり、手の造影MRIを撮ると、画像的に滑膜炎、つまり炎症が写ることがあります。関節リウマチの分類基準では、実は画像的な炎症も罹患関節としてカウントしていいことになっているので、画像を撮ってみると、実はかなり炎症があって、関節リウマチの可能性が高い、または将来関節リウマチに進展するリスクが高い、と判断することもできます。

池脇

今はいい治療もありますので、初期のリウマチを早く見つけて適正な治療をすることから、そういった画像診断も大事ですね。

勝倉

手の関節が幾つか腫れていて、ほかの疾患もある程度除外されて、鑑別としてどうしても関節リウマチが残ってしまうときは、そういった画像検査に頼るのも一つの手かと思います。

池脇

2番目は整形外科的なものということですが、これは整形外科に依頼するよりも、先生ご自身がチェックされるのですか。

勝倉

ある程度はこちらの診察やレントゲンの所見で判断していくことが多く、鑑別を絞ってから整形外科に紹介するようにしています。

池脇

あとは代謝内分泌疾患ですね。甲状腺ホルモンはチェックできますが、更年期はそういったものによるこわばりを考えたほうがいいという考えも、先生の中にはあるのですね。

勝倉

こういう検査で異常のない手のこわばりを主訴に病院を受診される方は、中高年の女性が多いのです。更年期障害といわれる方は日本人だと45~55歳ぐらいなのですが、関節リウマチの好発年齢も同じぐらいなので、検査陰性の場合はどうしても更年期障害が鑑別上位になってしまうのです。

池脇

更年期障害のこわばりは私もあまり経験したことがないのですが、更年期障害にはいろいろな訴えがありそうな気がします。こわばりだけが出てくるような場合もあるのでしょうか。

勝倉

更年期障害だと、月経の異常に加えて、ほてる、のぼせる、イライラ、不安、抑うつ症状などの精神的な症状も出るのですが、自分からそれを言ってくれるとは限らないというか、純粋に手のこわばりだけで来る人はあまりおらず、こちらからそういう話を聞いていくと、精神症状やほてり、そういえば最近すごく汗をかくとか、そういう情報が出てくることがあります。問診がとても重要だと思います。

池脇

後半のほうで、症状が急に出てきた場合にはウイルス性のものを鑑別に挙げるということですが、こわばりは一般的には徐々に進んでくることが多いのですか。

勝倉

一番問題となる関節リウマチですと、基本的には慢性経過をたどることが多いと思いますので、最初は一つ二つの関節だったものがだんだん増えていきます。ウイルス感染だと本当に突然、ある日、熱や上気道症状とともに手が腫れて、数週間で消えていくという経過が一般的ですので、そこは鑑別のポイントだと思います。

池脇

先生が挙げられた鑑別診断で、どれにも「これだ」というのがない、あるいは関節リウマチも否定はできない、というはっきりしない症例があった場合は経時的にフォローしていくのですか。

勝倉

先ほどお話ししたように、関節リウマチの可能性がちょっとあるかな、見た目には関節が腫れていて、ほかの疾患がある程度除外されて、ただ、リウマチの分類基準には当てはまらない、でもやっぱり怪しいという患者さんは、わりと早めに膠原病の先生に紹介したりすることもあります。しかし、そうでもないとき、例えばただ本人が自覚的にこわばっていると言っているだけで、実際に手を診察しても所見がはっきりしないときは、経過を見ていくしかありません。そういう場合には、手をよく使うような仕事や、趣味で編み物をしている人が意外にいて、そういう作業をちょっとやめてもらいます。そして、NSAIDsなどの鎮痛薬を処方して、2週間なり1カ月なりでもう一度再診していただくと、意外にこれだけで治る人もいるのです。逆にこれで、1~2カ月後に来てもらったときに、腫れている関節の数が増えていたり、熱が出てきたり、皮疹が出てきたり、そういった随伴症状がいろいろ出てくることもあります。そのような場合には改めて診察、検査を繰り返し、再評価すると原因が特定できることもあります。

池脇

どうもありがとうございました。