齊藤 COVID-19の微生物学的検査ということですが、抗原検査と抗体検査とPCR法とあるのですね。発熱患者にどう対応をしていくかから、お話しいただけますか。
大塚 検査について我々はこれまで、常に精度、感度、特異度を中心に考えてきたのですが、現状、開業医で検査ができなければ意味がないということになります。そうすると簡便性や入手しやすさ、検体の採取のしやすさなども考えると、開業医向けには抗原検査の中でも、いわゆる定性検査と呼ばれているイムノクロマトグラフィ法を使うのがいいと考えています。
齊藤 具体的にはどういう手順になるのでしょうか。
大塚 鼻咽頭ぬぐい液を採取するものと、一部は唾液を使うものもありますが、唾液を使った場合にはPBSで希釈をして遠心処理をする手間が増えたり、幾つかキットによって異なるので、自身の適切なやりやすい方法を選択すればいいと思います。通常その先は、いわゆるインフルエンザの検査と同じようにイムノクロマトグラフィ法でやりますので、極めて簡便な方法であると思います。
齊藤 我々はインフルエンザの検査で慣れていますが、それと同じような流れになりますか。
大塚 そうですね。インフルエンザの場合には採取する側がマスクと手袋、ゴーグルをする程度で大丈夫だと思うのですが、今回のSARS-CoV-2に関してはかなりフルPPEで対応しなければならないことを考えると、開業医からすると少し負担が大きいかもしれません。ただ、患者さんがたくさん来るところだと、専任の看護師や医師がこういったPPEを常に準備して採取しているところもありますので、地域の感染状況に応じて対応されるとよいと思っています。
齊藤 患者さんが自分で鼻腔をぬぐう方法はどうなのでしょうか。
大塚 検査前確率の高い人、要するにかなり疑わしい人であれば自身で綿棒を鼻の中に入れて鼻腔をぬぐう方法で、少し湿った状態で出てくれば有効かと思っています。
齊藤 15分ぐらいでわかるのですか。
大塚 キットによって多少異なりますが、早ければ15分で結果が得られます。
齊藤 これがまず抗原の定性検査ということですね。抗原検査には定量検査もあるといわれていますね。
大塚 定量検査は化学発光酵素免疫測定法というものになりますが、今3社から試薬が出ています。その中の1社だけ唾液でもできますが、それ以外は基本的には鼻咽頭ぬぐい液を用いることになります。これもインフルエンザの検査と同じように、抽出液に入れたら、あとは機械にセットして化学発光酵素免疫測定法で測定します。
そうすると、20分ぐらいで結果が得られるのですが、定量といっても数値化されているだけで、本当にウイルスの量を反映しているかというと、もともと材料そのものが定量性のないものですから、例えば血液の中にある物質がどのぐらいあるかは定量することができるものの、鼻咽頭ぬぐい液や唾液1mL当たりの中にウイルス量がどのくらいあるかは定量性としては不十分です。ですから、私は定量という呼び方は実は正直反対で、高感度法や精密測定法というかたちであればいいと思っています。実際これはイムノクロマトグラフィ法に比べると100~1,000倍ぐらいの感度のよさがあるので、PCR法に匹敵すると言っても過言ではないほどの高感度な方法だと思います。
齊藤 空港の水際対策でもこれが用いられているのですね。
大塚 そうですね。空港ではこの中で唾液を用いることができる試薬を使って行っているとうかがっています。
齊藤 時間はどのぐらいですか。
大塚 基本的には20分ぐらいですが、唾液を使うと前処理が必要になってくるので、30~40分は見ないといけないと思います。
齊藤 それからPCR法がありますが、これはどういうことでしょうか。
大塚 PCR法というのは古典的な言い方で、最近は核酸増幅法とか核酸検出検査という言い方をします。これは従来のPCR法から発展したリアルタイムRT-PCR法という方法が主体となるのですが、現状ではそれ以外にもLAMP法やTMA法、TRC法など、いろいろな方法があります。その中でベストな方法はリアルタイムRT-PCR法だと私たちは考えていますが、現状で日本の検査の数を増やすことを考えると、各社のいろいろな方法を用いて、最低限この検出感度があればいいというものをクリアしていれば、どのような方法を使ってもいいと思っています。あくまでもこれは疑わしい患者さんを検査する場合であって、基本的には検査前確率が低ければなるべく感度の高い方法を選択されることを望んでいます。
齊藤 具体的に、これは唾液と鼻咽頭ぬぐい液と鼻腔液ですか。
大塚 そうですね。基本的に鼻咽頭ぬぐい液が一番感度が高いと思うのですが、唾液だとそこから5~10%ぐらい感度が落ちる。鼻腔液だとさらに5~10%ぐらい感度が落ちることを承知したうえで、検査を実施するのがよいかと思います。
齊藤 具体的な検査の流れや時間はどのぐらいなものでしょうか。
大塚 最近では簡易法というものもありまして、早いものだと30分から1時間ぐらいで出てくるものもありますし、従来のリアルタイムRT-PCR法でもかなり抽出操作が簡便になって、自動化されてきたことを考えると、大量処理をしたとしても2時間から2時間半ぐらいあれば出てくるものもあるのです。それを考えると、リアルタイムRT-PCR法だと1日に最大400件ぐらい、簡便法だと20~30件が容易にできるような状況です。開業医だと、簡便なPCR法がありますので、そういったものを選ばれるのがいいかと思っています。
齊藤 一時日本では検査処理能力が外国に比べて非常に劣っているといわれていましたが、かなり改善しているということでしょうか。
大塚 現状では大きく改善していると思います。従来、病院の中で遺伝子検査をやるという習慣がなかったのです。これは保険診療の問題だと思うのです。核酸検出検査、いわゆる遺伝子検査というのは検査センターや大学の研究室がやるものみたいなところがあったのですが、今回の新型コロナで各病院にいろいろな核酸検出検査の機械が入りましたので、これから先はそのようなことはないと思っています。
齊藤 ワクチン注射が始まって、1~2カ月で抗体ができるということですが、抗体検査はどういった位置づけになりますか。
大塚 2020年2月、3月頃に最初に抗体検査が出てきたのです。そのときイムノクロマトグラフィ法が世界各国の100社ぐらいから出てきました。ただ、その中で使えるものはほとんどなく、実際には抗体が通常だとIgMが最初に、あとからIgGが上がって、IgMが消失していくような流れがあると思うのですが、COVID-19に関してはIgMとIgGがかなりたってほぼ同時ぐらいに上がってくるという、ちょっと特殊な例があったのです。そこで早期の診断には役に立たない、あくまでも疫学的な部分だろうということになりました。
現在では抗体検査に関してはIgGとIgM、その中でもS抗原に対する抗体、またN抗原に対する抗体が測定できるようになってきています。すべてではないですが、一部そういうものが出てきました。そうなると今後、ワクチンによる抗体ができているのか、もしくは既感染によって抗体ができているのか、こういったものを分けることができるようになってくると思うのです。そこで疫学的なデータをきちんと集積して今後のワクチン対策に役立てることができるかと考えています。
齊藤 今のワクチンはS蛋白に対するものということですね。
大塚 そうですね。
齊藤 最後に変異株が非常に話題になっていますが、この扱いはどうなるでしょうか。
大塚 変異株であっても、医療機関で取る対策、そして治療方法は変わりませんので、基本的には行政に疫学的な調査はお任せする。医療機関では実施する必要はないと考えています。
齊藤 行政から研究所、あるいは検査センターに依頼してやっているということですね。ありがとうございました。
(2020年5月10日放送)
新型コロナウイルス感染症の最新情報と感染症対策の重要課題(Ⅰ)
COVID-19の微生物学的検査
亀田総合病院臨床検査部部長
大塚 喜人 先生
(聞き手齊藤 郁夫先生)