ドクターサロン

 大西 忽那先生、新型コロナウイルスの臨床像についてうかがいます。 まず、この新型コロナウイルスは発症前後に感染のピークがあるところが厄介な特徴だと聞いているのですが、そのあたりの感染力のことから教えていただけますか。
 忽那 先生がおっしゃるとおり、この新型コロナウイルス感染症は発症する前後が一番感染性が強いといわれています。つまり、症状がない方も会話とか大声を出したり、あるいは歌ったりするときに発生する飛沫によって周囲に感染を広げていることがわかっています。ですので、症状がない人も含めてマスクをつけましょうというのは、そういう感染性の特徴によるところが大きいということになります。
 大西 特に当初は口の中に多いのですよね。
 忽那 そうですね。唾液の中にもウイルスはいるといわれています。
 大西 いよいよ発症して発熱外来等に患者さんがいらっしゃいますが、その症状は、いわゆる感冒様症状とか、インフルエンザに似た症状とかいろいろあって、最初の症状だけではあまり区別がつかないような場合もあろうかと思います。何かそのあたりでご意見はありますか。
 忽那 おっしゃるとおりで、風邪や、あるいはインフルエンザと非常に症状がよく似ているといわれています。例えば、咳、息切れ、呼吸苦、発熱や寒け、あるいは筋肉痛、関節痛、頭痛、そして時に消化器症状として吐き気とか下痢が見られることがあります。これらはインフルエンザと共通している症状ですので、症状だけではなかなか区別が難しいのですが、時に嗅覚異常、においがわからないとか、あるいは味覚異常、味がわからなくなると訴えられる方がいます。これはインフルエンザでは見られることが比較的少ない、新型コロナウイルス感染症に特徴的な症状と言えるかと思います。
 大西 多くの方は1週間ぐらいでけっこうよくなっているような感じがするのですが、一部の方は悪くなる。その場合、ぐずぐずしているうちに急に悪くなるようなイメージがあるのですが、重症化するきっかけの症状はどういう点に注目したらよいでしょうか。
 忽那 おおむね発症から1週間ぐらいは風邪のような、インフルエンザのような症状がだらだらと続きます。この時期は、発症後数日ぐらい、体の中でウイルスが増殖していくのですが、そこからだんだんとウイルスは減っていきます。このウイルスが減っていくのとあわせて、8割ぐらいの人はそのままよくなっていくといわれていますが、だいたい2割弱ぐらいの人で発症後1週間、7日目ぐらいを前後に呼吸苦、いわゆる肺炎の症状が強くなって症状が悪化、増悪してくる人がいるといわれています。そこから10日目ぐらいにかけてさらに重症化していく。場合によっては人工呼吸器まで必要になる方がいるということで、この発症7~10日目ぐらいが特に注意を要する期間になります。
 大西 そうしますと、1週間ぐらいぐずぐず症状が続いている人は要注意ということになるのですね。
 忽那 そうですね。特に重症化のリスクが高い方、高齢者や基礎疾患のある方はこの発症から7日目以降は特に注意が必要かと思います。
 大西 いよいよ重症化した場合はどういったことが起きてくるのでしょうか。
 忽那 重症化してくる場合には、まず酸素飽和度が低下してきます。ですので、酸素投与が必要になってくるのですが、通常の酸素投与でも体の中の酸素が十分足りないということになれば、例えばネーザルハイフローであるとか、NPPV、非侵襲性の陽圧換気、それでも難しければ人工呼吸器管理が必要になります。NPPVに関しては陰圧室であれば比較的安全に行えるといわれていますが、陰圧室ではない通常の個室の場合には感染対策上もまだ十分に安全が確立されているわけではありませんので、避けたほうがいいという意見もあります。
 大西 重症化してきた場合、血栓ができたり、脳卒中のような症状が起きると聞いているのですが、そういうことも起きてくるのでしょうか。
 忽那 新型コロナウイルス感染症の病態の一つに凝固異常というものがあります。重症化する患者さんの中でも血栓、例えば脳梗塞であるとか深部静脈血栓症などが見られることもありますし、軽症の方でもまれにこうした症状が見られることがあります。ですので、治療で抗凝固薬、例えばヘパリンなどを使うことによって予後を改善することができるのではないかという知見がこの数カ月ぐらいで集まりつつあります。
 大西 先ほど重症化リスクの話が少し出ましたが、年齢とかいろいろな持病、その辺がリスクになると聞いています。特にどういったリスクが大きいとお考えでしょうか。
 忽那 まず重症化のリスクとして最初に挙げられるのは年齢です。特に60代以降、60代、70代、80代と、年齢が高くなるにつれて重症化リスクが高くなるといわれています。それ以外にも、性別でいいますと男性のほうが女性よりも致死率が高いのですが、なぜかということに関して、まだはっきりとわかっていませんが、性ホルモンなどが関連しているのではないかといわれています。
 それ以外には、基礎疾患として慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、心血管疾患、あるいは肥満、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、これらの基礎疾患や習慣がある方は、そうでない方と比べると重症化リスクが高いといわれています。あとは妊婦さん、特に後期の妊娠期の方は、例えば人工呼吸器を使う頻度が増える、あるいは死亡リスクが高くなるといわれています。
 大西 小児の場合はいかがでしょうか。
 忽那 小児は基本的には成人と比べて重症化リスクが低いといわれています。特に10代未満の小児に関しては、成人と比べると、重症化する頻度は低いといわれています。ただ、小児の場合は一時期、川崎病のような、発熱や発疹、あるいは心原性ショックのような重症化の病態になることがあるといわれていて、これは国内でも事例が報告されています。小児の場合は基本的に重症化することはまれですが、新型コロナウイルス感染症の急性期が過ぎた後にそうした重症の病態に発展することがあるので、慎重な経過観察が必要になると思います。
 大西 いろいろデータの取り方によっても違うのかもしれませんが、現時点で致死率はどのようになっているのでしょうか。
 忽那 現在、日本国内での致死率はおよそ2%、1.9~2%ほどになっています。世界の致死率もだいたい2.1%、2.2%ぐらいですので、おおむね世界と比べて日本もほぼ同じぐらい、あるいは少し低いぐらいの致死率になっています。
 大西 死亡者数で見ると、世界より日本はかなり少ないような印象があるのですが、いかがでしょうか。
 忽那 これは私の考えですが、基本的には感染者が世界、例えば欧米と比べて低く抑えられていることで、全体としての死者数が低く抑えられていると思います。致死率自体はそれほど世界と大きく変わりはありません。感染が抑えられているために死者数も低く抑えられているということだと思います。
 大西 あと、先生方が後遺症の報告をされました。後遺症というのはかなり出るものなのでしょうか。
 忽那 基本的には重症であった人のほうが後遺症は見られやすい傾向にはあるようですが、軽症の方も含めて、発症してから急性期が過ぎた後も何らかの症状が続く、いわゆる後遺症と呼ばれるような病態が見られることがあるといわれています。私たちの調査では、国立国際医療研究センターで新型コロナウイルス感染症と診断されて、その後、退院された方にアンケート調査を行ったところ、発症した後、2カ月たっても2割ぐらいの人が何らかの症状を持っている。さらに、4カ月たった後も1割ぐらいの人が何らかの症状があった。さらに、急性期にはあまり症状がはっきりしなかった脱毛という症状が、発症してだいたい2カ月ぐらいから顕在化し、それが4カ月ぐらいまで続くことがわかりました。急性期を過ぎた後も後遺症に悩まされる方々が多くいるという、公衆衛生的にも非常に大きな問題ではないかと思います。
 大西 最近、変異ウイルスが問題になっていますが、何か臨床像に違いがあるのでしょうか。
 忽那 変異ウイルスに感染した方が従来のウイルスと臨床像が違うかについては、まだ十分わかっていないところがありますが、変異ウイルスのほうが、例えばイギリスから見つかったいわゆるイギリス変異ウイルス株に感染した方はウイルス量が多くなり重症化しやすいのではないかと思っています。60%ぐらい重症化しやすいのではないかといわれています。そういう意味で、症状自体は変わらなくても重症度が変わる可能性が指摘されています。
 大西 ありがとうございました。
(2020年5月3日放送)