ドクターサロン

 中村 大曲先生、新型コロナウイルス感染症の最新情報、特にその対策の最近の話題ということでお話をいただきたいと思っています。
 2019年12月でしょうか、中国の武漢における発症以来、1年余りたっています。現在でも世界的な流行をしているこの感染症について、先生は長らくこの患者さんをご覧になっていたり、あるいは東京都の対策についてご苦労されているわけですが、まず最初にこの感染症の特徴を簡単にまとめていただけるでしょうか。
 大曲 この新型コロナウイルスの感染症、原因となる微生物は名前のとおりコロナウイルスです。コロナウイルス自体はもともと人間に、いわゆる風邪、感冒を起こすウイルスですが、この病原性が高くなったものが今回の新型コロナウイルスです。それによる感染症が今起こっているのです。
 ではもともと風邪のウイルスなのだから軽くて済むだろうという印象を我々は持ちがちです。確かにそれはそうでして、実際に検査で陽性になる方のうち80%以上の方は無症状に近いか、非常に軽い症状で済むことがわかっています。症状も、微熱とか、のどが痛いとか、そういったものが出てくるのですが、では普通の感冒と全く一緒かというと、ちょっと違う印象を持っています。普通の感冒はだいたい発症から3~4日目で症状が一番強くなって、その後は回復しておおむね10日前後でよくなるのですが、新型コロナの場合は発症してから治るまでに2週間ちょっとかかるという印象を持っています。
 全体の患者さんのうち最大2割程度の方が急に悪くなって酸素が必要な肺炎になるというのが、この病気の一つの大きな特徴ではないかと思います。普通の風邪のウイルス感染症だとなかなかこうはなりません。中でも、陽性になった方のうち、東京だと約100人に1人の方が非常に重症の呼吸不全を起こして人工呼吸が必要になるぐらい重症化するのがこの病気の大きな特徴だと思います。
 中村 それでは対策面での話をいただきたいと思います。まず個人的な対策として、感染ルートから考えれば、やはりマスクとか手洗いとか、密を避けるとか、会話を慎むということなのでしょうか。
 大曲 ほかの風邪のウイルスと一緒で、口から飛ぶしぶき、飛沫、あるいはそれよりもうちょっと小さいマイクロ飛沫といったものでうつるのがこの病気の特徴です。ですので、よく日本でも3密といいますけれども、かからないようにするには、飛沫、あるいはマイクロ飛沫からいかに自分を避けるかが重要かと思います。お互い距離を取るとか、閉鎖した空間にいると飛沫を浴びるので、そういったところを避ける。あるいは、しゃべっている時や歌っている時にマスクをしていないと、飛沫やマイクロ飛沫が飛んで相手にかかる、あるいは自分がもらうので、それをマスクをして防ぐのが一番重要かと思います。
 ただ、このウイルス自体は環境でも一定の期間生きているといいますか、増える能力を持ったままでいることがわかっています。ですので、そこに接触して、例えば自分の目をさわったりするとうつるということもわかっているので、そういうことを起こさないように手指衛生をすることも非常に重要だと思います。
 中村 インフルエンザのときにはうがいとか手洗いが強調され、マスクは少し重要視されていなかったという気がするのですが。
 大曲 先生のおっしゃるとおりだと思います。インフルエンザのときはどちらかというと、症状がある方にマスクをしてもらうという考え方だったと思います。インフルエンザは症状がある方が人にうつしやすいということがわかっているからです。ただ、新型コロナがちょっと違うのは、症状があるときだけではなく、症状がないときでも人にうつすということです。特に発症する2日前ぐらいからそういう状況になるといわれています。ですので、そうした無症状の方も人にうつさないように、とにかくマスクをつけることがこの病気では強調されていると思います。
 中村 先生のお話にあった重症化についてですが、まず重症化の防止対策というのはあるのですか。
 大曲 これは実は議論になっているというか、なかなかまだ確立したものはないのですが、高齢者あるいは持病のある方が重症化しやすいことはわかっています。今、一つの考え方として出てきているのは、そういう重症化リスクの高い方々に対して発症してから比較的早い軽い段階で治療をする。そうすると重症化が防げる可能性があることが少しずつわかってきています。これは残念ながら欧米が先行しているのですが、具体的にはいわゆる抗体製剤を軽症か中等症の方ぐらいに使うと、その後の重症化や入院を防げるといったような治験が海外から出始めました。そういったアプローチが日本でも近々できるようになるのではないかと期待しています。
 中村 先生のところでも具体的に行っているのでしょうか。
 大曲 重症化予防という意味では一つ、いわゆる回復者血漿ですね、回復された方から血液をいただいて血漿を取って、その中でも非常に中和抗体価が高いものだけを選りだし、それを軽症か中等症ぐらいの方に投与する。それをきちんとランダマイズド・コントロール・トライアルでやるかたちで今、特定臨床研究を行っています。
 中村 次に社会的な、あるいは公衆衛生面からの対策もたくさんあるかと思います。簡単にまとめていただけるとありがたいと思いますが、まず入国あるいは検疫ではどうでしょうか。
 大曲 どの国がどうこうというのはないのですが、ただ、一般的には海外でもこの病気は非常に流行しています。日本より流行の度合いが厳しいところもあるので、海外から来られる方が新型コロナを持ってくることは十分あり得る話です。ですので、入国する前にPCR検査を受けていただくとか、入国してきたときも日本で検査をするとか、入国後も、いろいろ条件はありますが、健康観察の対象とする。発症しないかどうかを見るという意味ですね。そういうかたちで厳しく監視が行われています。
 中村 次に検査ですが、PCRあるいは抗原についてお話しいただけるとありがたいのですが。
 大曲 まずは症状がある方に対してしっかり検査をすることが日本でも徹底されるようになってきました。もともとPCR検査が非常にいいということで広まってきたのですが、一方で抗原検査も15分とか30分とか非常に早く結果が出る、簡単にできることから、日本では使われるようになってきています。PCR検査のほうが少し感度が高い、やや拾いやすいという意味では好まれることが多いようですが、抗原検査はそうはいっても簡便ですので、使い道でやり方はいろいろあると思います。
 中村 感染症を見つけるのに下水というサンプルを使ったらどうかという案がありますが、いかがですか。
 大曲 下水は個別の患者さんを探せるわけではないのですが、地域に新型コロナのウイルスが入り込んでいるかどうかを見るという意味で非常にいいのではないかと思います。実際に日本でも幾つかの地域で検討が行われていて、実際にウイルスゲノム自体をPCR検査で拾うことに成功していると聞いています。いわゆる公衆衛生的なサーベイランスの一つの手段として期待しています。
 中村 薬はまだできませんか。
 大曲 薬はまだ発展途上かと思っています。一つはウイルスが体で増え過ぎると細胞死がたくさん起こって、そのせいで免疫がかく乱されるということが問題だといわれていますので、ウイルスを抑える抗ウイルス薬が今試されています。レムデシビルという薬は多国籍の、いわゆる国際共同試験で症状が改善するまでの期間を短くすることは示したのですが、亡くなるリスク、致命率を下げるというところには至っていないということです。あとはデキサメサゾン、つまりウイルスがすごく増えて細胞死が起こって、免疫がかく乱された段階では強い炎症が起こるので、それを抑えるいわゆるステロイド、デキサメサゾンが使われるようになりました。これもイギリスで行われた大規模試験で効果がある、特に亡くなるリスクを下げることが示されて使われています。これはすごく効果があって、意味があったと思っています。ただ、一度悪くなってしまうと、これらの薬でもなかなか病勢を抑えるのは苦労しますので、医療としてはまだまだかなと思っています。
 中村 最後にワクチンの話ですが、日本でもやっと始まったわけですが、核酸のワクチン、mRNAとかDNA、あるいはウイルスの蛋白質を使うとか、幾つかあるかと思います。先生も打たれたかと思いますが。
 大曲 はい、打ちました。
 中村 1回目と2回目で違いますか。
 大曲 実は僕はまだ2回目は打てていないのです。ただ、自分の仲間で2回目を打った者から話を聞くと、やはり2回目のほうが1回目よりも強く局所の痛みが出たり、あるいはちょっと熱が出る頻度が高いということがあるようです。ただ、これは先行してこのワクチンが米国や日本で承認されるときに、治験が行われてデータが出ていますが、そのデータが語っていたこと、そこで示されていたこととほぼ同じなのです。つまり、ほぼ予想されていたことが予想どおり起こっているという状況ですので、それはこういうものだということを、皆さんに伝えるのが大事ではないかと思います。
 中村 どうもありがとうございました。
(2020年4月19日放送)