ドクターサロン

 池田 岡田先生、ワクチンの月齢・年齢と間隔についての質問です。B型肝炎とHibワクチンが生後2カ月から、BCGは生後5カ月から接種ということになっているのですが、種類によってどうして接種月齢が違うのでしょうか。
 岡田 基本的には防げる病気がいつ頃から一番起こってくるか。それまでにワクチン接種を終えたいということがあって、接種開始年齢・月齢がワクチンによって少しずつ違っているのだと思います。例えば、Hibワクチンで防げる病気というのはインフルエンザ菌による化膿性髄膜炎です。インフルエンザ菌による化膿性髄膜炎は生後5~6カ月ぐらいから増えてきます。このため、生後5~6カ月までにHibワクチンを3回まで接種するには、生後2~3カ月から1カ月ごとに接種しないと終わりません。そういう意味でHibワクチンあるいは小児用の肺炎球菌ワクチンも同じく、生後2カ月からということになっています。
 BCGは標準的には生後5カ月からになっています。BCGの目的は重症の結核である粟粒結核や結核性髄膜炎の予防で、多くの医師がご存じのように、それらは乳児に多いものですから、BCGは生まれてすぐやっている国々が多いのです。日本は、まだ中蔓延国ですが、以前に比べると乳児のリスクが少し減ってきていることもあって、ほかのワクチンがある程度終わった時期の生後5カ月からぐらいがいいのではないかとなっています。これらが接種開始月齢や年齢がワクチンによって違う理由だと思います。
 池田 特にBCGに関しては将来変わり得るということですね。
 岡田 そうですね。だんだん結核が減ってきて、BCGをやめている国々は先進国の中でもあります。ただ、日本ではまだBCGをやめるまでには結核の患者さんが減っていないこともあって、まだしばらく続けられると思います。
 池田 よくわかりました。次の質問は、追加接種が必要なワクチンも種類によって追加時期が違うのはなぜでしょうかというものです。
 岡田 これも①の質問と同じように、病気によって接種の開始月齢が少しずつ違いますよね。例えばHibワクチンでは生後2カ月から3回やって、1歳過ぎて、追加接種が必要となります。ワクチン接種にも時間が経つとだんだん獲得抗体が減ってきます。それがワクチンによって比較的長く続くワクチンもあれば、すぐに抗体が消えてしまうワクチンもあります。病気によっても、ワクチンによっても、必要な追加接種の時期というのは少しずつ違ってきていると思います。
 池田 これは逆にワクチン開発時にそういった疾患の発生月齢・年齢、そしてワクチンによる抗体の獲得と喪失時期を加味してプロトコールを決められているのでしょうか。
 岡田 そうですね。開発治験のときに初回免疫をいつから、どのくらいの間隔で何回やる。追加接種も、例えば1年空けて追加接種をやるなどの開発治験のプロトコールが最初に組まれます。原則は治験で行われたとおりのプロトコールで承認されます。その後、定期接種がうまく進んでいって、その病気が減ってくれば追加接種はもしかしたらもう少し遅くしたほうがいいかもしれないとか、少し早くしないといけないかもしれないというのが、少しずつまた変わってくると思います。
 池田 そういう場合には、例えばワクチン接種後の抗体検査とか、定期的にやらなければいけないのですが、実際には行われているのでしょうか。
 岡田 行われています。ワクチン対象疾患の定期的なサーベイランスは感染研が流行予測調査で、一般住民の方々の抗体保有率を定期的に公開しています。
 池田 そういったデータもプロトコールの更新や、新しい接種時期の決定にも役に立つのですね。
 岡田 それを基にプロトコールが決められていると思います。またプロトコールを改訂するときも、患者さんの発生状況や抗体保有状況を見ていると思います。
 池田 私は皮膚科医なのですが、最近、帯状疱疹になる方が増えているということで、小児の水痘が減ってしまって、ブースター効果がなくなっているということですね。同じワクチンを接種するにしても、年々の背景で変わってきているのだなとすごく思いました。
 岡田 本当にそうですね。帯状疱疹に関していえば、年々増えてきているというのが学会などでは報告されていますよね。けれども、全国的に帯状疱疹だけを収集するシステムは今のところないので、先生もご存じのように、例えば宮崎スタディとか、幾つかの地域で帯状疱疹が増えているとする報告は見られます。水痘はワクチンのおかげでかなり減っているということが、わかっていますが、帯状疱疹は全国で集めるところまではまだいっていません。帯状疱疹が全国的に増えてきているかどうかは正確なところはまだよくわからないというところです。
 池田 一部の統計だけでは全国レベルのことは言えないのですね。
 岡田 そうですね。
 池田 3つ目の質問は、2種類ある狂犬病ワクチンを交互に接種できないのはどうしてかという話です。最近の新型コロナウイルスのワクチンでも同じことがディスカッションされているようですが、いかがでしょうか。
 岡田 原則は同じメーカーのワクチンは同じように使うとされています。ワクチンの中には、例えば国内で使われているインフルエンザワクチンなどはほぼ作り方が同じですから、別のメーカーを使っても問題はないとなっています。一方、狂犬病ワクチンや新型コロナウイルスのワクチンなどは、メーカーによって作り方がだいぶ違います。接種スケジュールも少しずつ違います。種類も作り方も違うワクチンを交互接種するのは、今のところ国内外ともになかなか難しいと思います。国内でも、例えば4種混合ワクチンは作り方もほぼ同じですし、接種間隔も、接種開始月齢もほぼ同じですから、メーカーを問いません。作り方が違うワクチンに関していえば、互換性を確認した基礎的なデータがないため同じメーカーで完結することが原則となっています。
 池田 以前も話題になったのですが、狂犬病ワクチンを打たないで海外に行って、かまれたときに、そこで打ったワクチンがわからないと、日本に帰ってきてどうするのかという話がありました。これはわからないと問題になるのでしょうか。
 岡田 狂犬病の場合は問題にはなりませんが、海外で接種されたワクチンのメーカーがわからなければ国内にあるワクチンで続きをやるのが一般的です。海外のワクチンが必ずしも日本国内のどこの施設でもあるとは限りませんが、海外で接種されたワクチンが手元にあれば、その続きを行っていただくのがいいと思います。日本と海外では間隔も回数も国によって違いますし、メーカーによっても回数が違います。原則はエビデンスがあるやり方で接種するのが一般的な考え方かと思います。
 池田 狂犬病の場合は、海外でもし1回打ったとしても、日本のプロトコールになってしまうと、それはなかったことになるのでしょうか。
 岡田 おそらく、なかったこととしてやってもいいと思います。特に狂犬病ワクチンは安全性というよりは、打たないと亡くなります。ワクチンに合った接種方法でやれば確実に防げることはわかっていますが、もし違うメーカーのワクチンとなった場合でもその接種方法にしたがって接種をしていただくのがいいと思います。
 池田 救命のためにはそんなことは言っていられないということですね。
 岡田 狂犬病ワクチンに関しては、そう言えると思います。
 池田 ありがとうございました。